1510話 殴り合いの果て
くそ……痛い……
明らかに私の方がダメージがでかい……わざわざ足を止めて殴り合いなんかするんじゃなかった……
だが……
「くっ……やるな……もう足が動かんぞ。だが、それはお前もだろう?」
意味が違うけどな。
私は殴られすぎて足にきているだけだが、領主の方は左脚を完全にぶち折ってやったからな。むしろよく立ってるもんだ。
「どうした? 来ないのか?」
行くに決まってんだろ……とことんやってやるよ! 狙いは左脚……フットワークなしでどこまで対応できるかな? まあ私もろくに動けないけどさ……ああ、くそ……痛い……
だが、まだ足は動く。と言うよりドラゴンブーツでの蹴り以外に勝ち目がない。関節技に持ち込もうにも領主の奴は倒れる気配すらない。あのぶっとい腕を相手に立ち関節とか使えるとは思えないからな。
ちっ……近寄ると剛腕から拳がブンブン飛んできやがる。さすがにもうくらわないけどな。だが、ここに至るまで領主の拳を壊すことはできなかった。エルダーエボニーエントの籠手できっちり防御したつもりだが、タイミングや位置を微妙にずらされた結果だろうか。ゴッゾのようなただの脳筋とは違うのだろう。
『まさか! まさか魔王選手がここまでご領主様と殴り合えるとは誰が予想できたでしょうか! 開始より一歩も動いていないご領主様に対して! 軽やかな足運びで立ち向かった魔王選手! いよいよ最終局面です!』
軽やかか、だがもう足がろくに動かない。どうにかドラゴンブーツでトドメの一撃をぶちくらわせてやりたいが……
仕方ない……この後のことなど気にするまい。やってやるか……身体強化魔力増強……
行くぜ!
おらぁ! 左ジャブ!
「ぐっ! まだそんな力が!」
まだまだぁ! 右ストレート!
「ぬうっ!?」
とどめぇ! 右の回し蹴り!
「ぐわあっ!」
さすがに領主だけあって籠手もいいものを装備しているようだが、今の私の蹴りに耐えられるものではない。その左手、折れたな?
だが、まだまだぁ!
少し回りこんで……右のローキックを領主の左脚、膝裏に叩き込む! すると……
『おおっとぉーー! 魔王選手の連続攻撃に! ついにご領主様がお倒れになったぁぁーー! このまま決着がついてしまうのかぁぁぁぁーーーー!』
「どうした? なぜ追撃をせぬ?」
「倒れた相手を攻撃する趣味がないだけですよ。立てますか?」
「ふっ、思ってもないことを言いおって。儂が領主だからと気を遣っておるな?」
当たり前だろ!
「それは何とも。でも降参しないなら魔法をぶち当てますよ?」
「これまでか……この上魔法を撃たれては勝ち目がない。降参だ!」
ほっ……身体強化解除。ぐっ、痛ええええ!
もう筋肉痛が来た! さすがに迷宮で無茶やった時のように歩けないほどではないが……
くそぉ……やっぱ使いすぎるとこうなるよな……
『決ちゃーーく! ご領主様が降参されました! よって魔王選手の勝利でーす! なんとご領主様と正面から殴り合った末に! 顔を赤い血で染めながらも! 勝利をもぎとってしまいました! これには私のハートもズッキンドッキンです!』
そうだよ……顔も痛いんだよ! どうにか鼻は折れてなさそうだけどさ……
頬骨とか折れてるんじゃないか? かなり切り傷もあるな。鋭い拳だったもんなぁ……
あれが領主らしさの証なのか横綱相撲をしてくれたおかげで、どうにか勝てたが……もし、足を止めずに普通に戦っていたらもっと筋肉痛が酷いことになってただろうな。
あー疲れた。医務室行こ……『浮身』
これでもし治してやらんって言われたら、あのジジイぶっ飛ばしてやろう……
「カース!」
「アレク……勝ったよ。」
「もう! 心配したじゃない! カースらしくない戦い方して!」
「いやーちょっと領主に敬意を表してね。正面から殴り勝ってみたかったんだよ。」
「ああ、カース……こんなに傷だらけになって……」
「大丈夫だよ。重大な怪我でもないしね。」
でも喋るのが結構辛いんだよな。あ、着いた。
やれやれ。治ったぞ。やっぱ頬骨は折れてた。でも普通に治してもらえた。参加者なんだから当たり前だろと言いたいが、偏屈なジジイだもんな。
まあ筋肉痛は治ってないけど……決勝戦はカドーデラには悪いが魔法であっさりと終わらせてしまおう。本当は木刀を使って打ち合いたいと思ったんだけどな。イグドラシルの木刀『修羅』ならムラサキメタリックにだって勝てるだろうしね。
「ピュイピュイ」
あ、コーちゃん。カムイの調子はどう?
「ピュイピュイ」
さすがにまだまだなんだね。じゃあ引き続き頼むね。
本当は私の筋肉痛をどうにかして欲しいけど……こればっかりはなぁ……
まあいいさ。これを繰り返して強靭な体を作り上げるのさ。
さて、決勝戦はいつ始まるのかな。とりあえず戻るか。途中まではアレクと腕を組んで歩く。至福のひと時だな。決勝がんばろ。
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