1509話 カース VS シュナイザー・アラカワ

『はっ! ま、待ってください! 終わりです! 魔王選手の勝利です! だからトドメを刺さないでください!』


司会の姉ちゃんがそう言うなら勘弁してやろう。まったく。闇討ちしてきた相手を半殺しで許してやるなんて私も丸くなったものだ。あー痛てて……ポーション飲も……


ふぅ。元気になったぞ。ついでに『浄化』

服の穴は直らないが血の汚れは落ちた。それにしてもいよいよシャツがやばいな……無傷のやつが残り数枚ぐらいしかない。今回のはそこまで大きな穴じゃあないけどさ。

防刃の魔法を付けてあるのにどいつもこいつもほいほい穴を空けてくれちゃってさ。

腐っても三級闘士ってことか。

防刃の魔法は安物のナイフを持った九等星の冒険者程度じゃ傷もつかないってレベルって聞いてるしね。


『さて! 魔王選手! このままご領主様との対戦を始めてもよろしいですか? それとも休憩が欲しいですか?』


正直なかなか疲れてるんだよな。でもまあ……


『いや、いい。もう始めてくれ!』


まだテンションが上がったままなんだからさ。もう少し暴れたい気分なんだよ。相手は領主か。肉弾戦でゴッゾに殴り勝ってたもんな。殴り合い……やってみるか……


『いいでしょう! それでは! 二回戦第一試合を始めます!

一人目は! 我らがご領主様! シュナイザー・アラカワ侯爵閣下選手! 昨年は惜しくも決勝戦で敗退しましたが! 今年こそはデメテーラ様に勝利を捧げるべく燃えておられます!』


閣下選手って……


『二人目は! 魔王こと! カース・マーティン選手! なんなんですかこの選手は! 息を吐くように二人も殺してしまいました! 他の三人もズタボロなんですよ! なのにデメテーラ様はたいそう喜んでおられて! もぉー!』


へー。デメテーラが喜んでるのか。流血が多いからだな。つーか、あの五人だって明らかに私を殺そうとしてたくせに。


『それでは始めます! 位置についてください! さあ! 見合って見合って!』




『始め!』


「魔王よ。先ほどの木刀はどうした?」


「閣下こそ。武器ないんですか?」


のん気に話しかけてきやがって。


「知っておろう。儂の武器はこの拳のみよ。お前こそ先ほどの木刀はどうした? 魔法を使うから必要ないのか?」


「ええ、ちょっと閣下と殴り合ってみたくなりまして。」


領主に怨みはないけどね。


「よかろう。存分にかかってくるがいい!」


『お二人ともお喋りしてないで始めてくださいよ!』


話しかけてきたのは領主の方なんだけどな。


「来い。揉んでやろうぞ。」


ちっ、でかい体で大きく構えやがって。だが、ほとんど隙を感じない。仕方ない、リクエストされたからには行ってやるよ。


ダッシュ、ではなく。つかつかと歩く。領主までの距離は五メイル程度。


四、三、二……


「どうした? お前の間合いにはまだ足るまい? もう二、いや一歩か。よもや儂の重圧に臆したわけでもあるまい?」


ビビってねーし! ちょっと近づけば近づくほど隙が見当たらなくて困っただけだし!


「来ないならこちらから行くぞ?」


くっ! 大振りの右パンチ。防御しても後ずさりさせられる威力かよ!


「ほう? そのシャツの下にはさぞかし良い籠手を装備しておるようだな。危うく拳が折れるところだったぞ?」


ちっ、それを狙ったんだがな。後ずさりさせられた分、拳にダメージが行かなかったか。


しかし困ったな……ああもどっしりと構えられたら、何をやってもカウンターをくらいそうだ。どうも単純な殴り合いでは分が悪いな。パワー的にも、テクニック的にも。


だが、そんなことは気にしなければいい。無理矢理、ごり押しで勝ってやるさ。


『身体強化』


全身を均一に強化した。そして……


「ぐむっ! やるなぁ!」


一瞬で間合いを詰め、腹をぶん殴ってみた。余裕こいてやがんのか、今日のこいつは平服だ。感触的に防御効果も感じなかったが……

大したダメージも与えられなかったようで、即座に殴り返された。当たるかよ!

頭を沈めて領主の右拳を躱す。そこに下から左拳が! 右手で往なしつつ……腹にもう一発!


「ぐっふ、見かけによらず鋭い拳ではないか!」


よく喋るなぁ。戦ってる最中だぞ? やっぱ余裕かましてんな。それなら……


「ふんぬっ!」


愚直に殴りつけてきやがる。さすがにいつまでも躱しきれん! だが私だって……

接近戦で蹴りを出すとバランスを崩すし隙だらけになるが……それでもやる! 私が殴った程度では効かないのはよく分かったからな。身長差があるから顔を殴るのは難しいしな……


「ぐっ! くっ、やるではないか!」


トーキックでスネを蹴る。普通なら一発で折れるんだろうが……さすがに何やら脛当てを装備してやがるか。

まあいい、まだまだいくぜ!

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