1508話 余興決着

私がダッシュで近寄ったのはこちらから見て右端の奴。位置的に端ということもあるし、こいつの武器がハルバードだからだ。五人の中で一番リーチが長く、威力も高そうだからな。あれで後ろから頭をぶっ叩かれたらいくらサウザンドミヅチの帽子でも防ぎきれないかも知れないもんね。


おらぁ一人目ぇ!

頭に向けてイグドラシルの木刀『修羅』を振り下ろす! こいつは防御もせずにハルバードを横薙ぎ! バカが!


「ひにゃっぼぉ」


『はっ!? えっ!? ええーー!? あ、頭が! ハルバード使いの三級闘士ルゴール選手の頭が! 兜ごと叩き潰されてます!? こ、これは即死! い、いいんですか!? こんな即死するような攻撃を!? えっ? いい? いいんですか!? ぞ、続行です!』


この姉ちゃん誰と話してんだよ。

振り抜かれたハルバードを腹にくらったが大したダメージはない。少し飛ばされたぐらいだ。もう少し振りが早ければ頭を割られることもなかったろうにな。


次い!


「てめぇよくもルゴールを!」


剣の奴が斬りかかってきた。私は修羅で迎え打つ。当然のように折れる剣。そのままの勢いで胴を狙ったが、ぎりぎりで避けられた。三人目がすぐそこまで来てるからな……時間をかけてられないんだよ。おらぁ! 足もらいぃ! 「いであっ!」

修羅をぎりぎりで避けたせいで体勢が崩れてたからな。スネを蹴ってやった。ドラゴンブーツは強力だぜ? とどめ……は無理か! もう来やがった三人目! なっ!? 危ねっ!

ふぅ……三人目の手甲使いがいきなりコケたかと思えば、その瞬間斧が飛んできた。どうにか修羅で弾くことはできたが、ちいっ!

しかも手甲使いに左足首を掴まれ、そのまま引き倒された! くそが!


「よっしゃあ今だ! やったれやぁ!」

「おらぁ! ぶっ殺してやらぁ!」

「手足ぃぶっちぎれ!」

「おっしゃ! 刺せ刺せぇ!」


ちっ、起き上がれない……上からは斧と槍で滅多打ちにされてる。首から上にさえくらわなければ何てことない……が、痛って! 耳が少し切れたじゃないか! くそ!

ほらそこぉ!


「いぎっ!」


私の左足首を掴んでいる奴の右手を蹴り飛ばした。大人しく離せばよかったものを。少し遅れたせいで手首が折れてやがる。逃がすかよ! そのまま続けて左足の先にいる手甲使いの腹にも足を突き入れる。


「がふっ!」


よし! ようやく立ち上がれた!

くそ、結構細かい傷をつけられてしまったな。顔のあちこちが痛い。残り三人。だが、そのうち一人は剣を失い、スネだって折れているだろ。実質二人……槍使いと斧使い。ならば狙いは……


「なっ!?」

「だと!?」


剣使いの胴に突きを入れ、そのまま手甲使いの頭も強く踏んでおく。ぎりぎり死んではいないようだが、きっちりトドメを刺しておかないと残りの二人に集中できないからな。


「ふぅ……待たせたな。残るはお前ら二人だ。」


一気に動いたから、かなり疲れたぞ……あーしんど……


槍使いの突き、と同時に斧が飛んでくる! こいつどんだけ斧持ってんだよ! いや、これは斧ってより手斧って言うんだったか?

どっちも的確に顔を狙いやがって……くっそ、避け辛い!

槍を叩き折ってやろうにも引きがえらく速いし! じりじりと追い詰められてる……


「うらぁ!」


ちっ! 思いっきり地面を蹴って砂を飛ばしてきやがった! 効くかよ! 私だって腐っても無尽流の剣術使いだからな! 心眼もどきならどうにか使えるんだよ!

砂を無視して、両目を籠手で庇いながら……斧使いに向けてダッシュ! 痛って……いや、痛くはないんだけど腹に斧が命中したか……

砂の向こう側に……いた! 投げ終わった体勢の斧使いが! そのままドロップキックくらえ! とりあえずぶっ飛んでろ!

痛てえ! ドロップキックは隙だらけだからな……後ろから左肩と上腕の間辺りを刺されてしまったか。痛ぇなくそ! ちょうどウエストコートと上腕に巻いたサポーターの間を狙いやがって! いや違うな。ウエストコートを避けたのは狙ったんだろうが、サポーターを外れたのはたまたまだな。サポーターはシャツの下に巻いてるんだから。

それに、実際は首を狙ったんだろうが、蹴り終わりで空中にいる間に細い首に槍を突き刺すなんてかなりの難易度だ。三級闘士には無理だったってことか。ふぅ、危ない危ない。


「残りはお前だけだ。ローランドの人間を舐めるなよ? 魔法なしでもそこそこ戦えるんだぜ。」


本当にそこそこだけどね。スティード君ならこいつら五人ぐらい普通の装備で楽勝なんだろうなぁ。いや、そりゃあ私だって魔法を使えば楽勝だけどさ。


「ちっ、くそが……調子に乗りやがって……テンモカ闘技場を舐めんじゃねぇーー!」


意外に激昂しやすいんだな。そんなんだからまだ三級だと言うべきか、それほどまでに怒っているだけなのか。どっちだろう。槍のくせにそんな突進してくるとはな。

槍を上から大きく振り下ろす。斬るというより叩き潰すことに主眼をおいているのか。これはくらいたくない。ならば……ぎりぎりで避けて……地面を叩くタイミングに合わせて修羅を振る! よし、槍は真ん中からぶち折れた!


「そうくると思ったぜ!」『放火』


ちっ! まさかの魔法かよ! 私の体勢が崩れた瞬間を狙い撃ちとは……


でもなぁ……


『狙撃』


終わりだ。悪いが魔法戦なら相手にならない。こいつは今の私の隙を魔法ではなく肉弾戦にでも使うべきだったのだ。

今の火力は枯れ木に火が点く程度。私なら防御をする必要すらない。こいつは自分でわざわざ隙をつくり、額に穴を開けられただけ。最後の最後で鍛えた肉体を信じられなかったのが敗因だな。

さて、まだ勝利のアナウンスがされないから他の三人にもトドメを刺すとしよう。

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