1507話 残り三人

カムイの体調を差し引いても、やはりカドーデラは強敵だな。おまけにムラサキメタリックの刀があるせいで手に負えなくなってやがる。私があいつと当たったら……勝つのは容易い。だが、イグドラシルの木刀『修羅』を使い正面から戦ってみたいという欲が出てしまった。私は戦いが好きなタイプではないはずなのに。カムイの奮闘にあてられてしまったかな。やれやれだな。


医務室に向かう途中でアレクとコーちゃんが合流した。


「カムイは大丈夫なの?」


「たぶんね。まったく心配させる奴だよ。」


「ピュイピュイ」


コーちゃんがするりとカムイに巻きついた。頼りになるなぁ。




さてと。後は治癒魔法使いとコーちゃんに任せておいて私は会場に戻るとしよう。あ、そうだ。


「アレクって今日も解説やるの?」


「カースの出番の時に少しだけね。それに客席より放送席の方が見やすくていいもの。ゆったりしてるし。」


あー、確かに。それにアレクを客席なんかに座らせたら周りの野郎どもがトチ狂ってしまう。さすがアレク、ナイス判断。


「じゃあカース。次も楽しみにしてるわね。」


「うん。見てて。」


それからアレクは私の頬にチュッと口をつけてから戻っていった。ふふ、いいねぇ。戦いを前に女神の口付け。縁起がいいねぇ青春だねぇ。




「こちらをお引きください」


おっと、係員か。クジで次の対戦を決めるのか。あら、数字でなく丸が描いてある。これは?


「マーティン選手がご領主様と戦うことになります。ご準備をお願いします」


なるほど。分からないが分かった。これに勝った方がカドーデラと決勝戦ってわけだな。あいつラッキーだよな。今のうちに休めるし回復もできるじゃん。あれだけ刀を振り回したんだからかなり疲労してるだろうからな。


準備と言われても特にすることはないな。私はいつでも戦えるからな。常在戦場って言うんだっけ?


例えば……


『風弾』


「がふっ!」

「ごっぼ!」

「ぎゃっば!」


後ろから足音を消して近付いたぐらいで私の隙をつけるなんて思ってんじゃないぞ? 物騒なモン抜きやがって。


「昨日の続きでもしたいのか?」


いや、昨日じゃなくて一昨日か? まあどっちでもいいけど。見た感じ闘士っぽいな。


「よ、よそモンに舐められてたまっかぁ……」

「好き放題しやがってよ……」

「ぶち殺してくれんぜ……」


倒れたまま言われてもなぁ。おっと『風弾』

この三人は囮か? もう二人現れた。医務室から内部を抜けて武舞台まで通じているこの通路。トンネルみたいで薄暗いもんだから狙い目だとでも考えたか? 通路の先が外で明るいもんだから、余計にここが暗く見えるんだよな。


「どうよお前ら。こんな狭いところじゃなくてあっちでやろうぜ? 五人まとめてでいいからよ。」


「なっ!」

「てめ! 調子ん乗りゃあがって!」

「三級闘士舐めっだらねぇぞ!」


「やらないのか? 今なら見逃してやってもいい。背中を向けて逃げてもいいぞ?」


「ざけんなぁ!」

「やるに決まっとらぁ!」

「ふざけっだらぁねえや!」


風弾を一発ずつしか当ててない割にダメージが大きいのか? 言語が変な奴がいる。


「なら、ついて来い。」


ほぉーら背中だよぉ? 隙だらけだよぉ? どうするんだ?


あら、どうもしないのか。不意打ちしたくせに、あからさまに背中を見せたら襲ってこないって。何考えてるんだろうねぇ。まあ武舞台で正面からぶち殺してやるとか考えた結果かもね。




会場に出てみれば、武舞台は撤去されていた。あ、そりゃそうか。あれはあの時だけの特殊ルールか。今日は武舞台なし、砂地の上での戦いだもんな。


『おい姉ちゃん! ご領主様と戦う前にちょっと余興を挟むぞ! 俺対あの五人だ! 賭けるんなら少しぐらい待ってもいいぞ!』


『だから! 姉ちゃんじゃなくてヤチヨです! ここ闘技場の二級闘士兼! みんなのアイドル烈球れっきゅうヤチヨです! それはそうと! 余興ですか!? まあいいでしょう! 魔王選手対三級闘士五人組! 連携が心配ですが、よってたかって囲んでタコ殴りにしてやってくださーい!』


むっ、今の言葉……

ヒイズルではタコを食べるのか? 私はまだ一度しか食べたことがない。デビルアークオクトパスだったかな。歯応えといい味わいといい旨かったんだよな。マリーの腕がよかったからだろうね。


『今から十五分だけ待ちます! 皆さんしっかりお賭けくださーーい!』


十五分か……微妙な時間だな。まあこんな時はいつものように錬魔循環してすごそう。初心を思い出すように、ただただひたすら魔力を廻してみるのもいいだろう。ただし、あまり集中しすぎないように……




『お待たせいたしました! 賭けを締め切ります! お待ちかねの掛け率はぁー! 魔王選手一.四倍! 三等闘士五人組は二.八倍です! それでは位置についてください!』


『おや? これはどうしたことか魔王選手! 見慣れない、ですがなんともオシャレな帽子をかぶり……なんと! 一千年に一度目覚めて大暴れする巨大な魔物! その名もサウザンドミヅチ! そのサウザンドミヅチの幼生を討伐した時に作った帽子なのですね! 生半なまなかな刃物では傷すら付けることもできない逸品だぁぁーー!』


今までかぶらなかったボルサリーノ風中折れ帽を取り出した理由は……


おまけにこいつも……


『おおーっとぉー! 魔王選手今度は木刀を取り出したぁぁーー!? 正気ですか!? 相手は歴戦の三級闘士ですよ!? 皆が皆! 剣やら槍やら斧やらハルバードやら手甲で武装しているのに!?』


いいんだよ。そんな気分なんだから。


「てめぇ……舐めくさってやがんのぉ……」

「まさかとぁ思うが魔法すら使わん気じゃあなかろうのぉ!?」

「ぜってぇぶち殺しちゃらぁぁーー!」


喋るのは三人だけ。残り二人は気配を消すかのように下を向いて黙っている。

おっ……こいつら開始前からバラけやがった。全員が私から等距離で円を描くように。


『見合って見合って!』




『始め!』


いくぜ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る