1506話 カムイ VS カドーデラ 決着

『カムイ君は防戦一方です! 逃げようにも! さほど広くない武舞台の上! 人斬りカドーデラ選手の凶刃が容赦なく襲いかかるぅーー!』


くそ……カムイめ。意地でも場外には降りない気かよ……


「しゃしゃしゃしゃっシャあぁあああぁぁぁーーーー!」


カドーデラの野郎……イカれてんのか? 型も何もない。まるでただ刀を振り回すだけの狂人だ……


「ガウッ!」


普段なら閃光が走ったようにしか見えないカムイの動き、頭突きが……


「ひぃやぁっ!」


容易くカドーデラにカウンターをくらっている。むしろ、よく頭を真っ二つにされずに済んだな……まともに入ったように見えたが。

ああ、タイミングか。いくら遅くなったとはいえ、カムイのスピードに正確なカウンターを合わせるのは難しいよな。カドーデラはアッカーマン先生じゃないんだから。


あっ、バカ! それでも懲りずにまた頭突きを!?


「無駄ぁ!」

「ガウアァ!」


バカ! やめろ!


ふぅー……カムイめ、頭突きはフェイントで本命はカドーデラの刀を抑え込むことだったのか……自らの口で。確かに普段のカムイなら容易くやってのけただろう。たとえムラサキメタリックの刀であろうとも。だが、今のカムイにはギリギリか……


「へっ、カムイの兄貴。もう少しでその口が全て裂けるところでしたぜ?」


「…………」


カムイの返事はない。口を裂かれながらもカドーデラの刀に噛みつき、膠着状態にまで持ち込みやがった。


カドーデラは押し込む。カムイは離さない。力ではカムイに軍配が上がるはず。だが、拮抗している。ひょろいカドーデラに力で勝てないのか……カムイ。

咬筋力はどうにか健在みたいだが、足腰の強靭さは見る影もない。


「どうやらこれまでのようで?」


カドーデラは不意に刀を手放し、自分に向かって体勢が流れたカムイの横腹をしたたかに蹴り飛ばした。場外へと……

抗う術などないカムイだ。蹴られた勢いのままに、まるでスローモーションのように場外へと落ちていった。


ん?


『場外! ついにカムイ君が落ちてしまい、いや、あああーー!?』


カムイめ! やりやがった! 場外に落ちたのは咥えていた刀のみ! 刀を地面に突き刺しながら、自分はまるで風にたなびく旗のように。顎の力だけで刀を弾いた反動で武舞台に戻りやがった!


『なんと!? 場外に落ちたかのように見えたカムイ君でしたが! 咥えていた刀を利用して! 見事武舞台に戻っていったぁぁーー! その口からは血を流しながらも! 白い毛皮を紅く染めながらも! 毅然と立ち続けているぅぅーー!』


「さすがはカムイの兄貴。見上げた根性でさぁ。ですが、すいやせんね。もう終わりにしましょうや?」


カドーデラが投げつけたものを避けるだけの体力は、もはやカムイには残されていなかったのだろう。よろよろと避けたものの、その程度では意味をなさず湧き上がった煙はカムイを覆った。


ただのペプレの粉末ってだけじゃないな。相当に凶悪な成分が含まれてやがる。カドーデラ自身すら距離を置くほどに。




煙が晴れ、カムイの姿が見える。くっ……目からの涙だけでなく、鼻から口から鼻汁とも涎ともつかない液体が溢れている……

一体どんな成分してやがんだよ! それでもカムイは戦う姿勢を見せてやがる。目も鼻も働いてないだろうに……バカが……


カドーデラはそんなカムイが相手だろうと少しも油断をしていないらしい。魔力庫から木刀を取り出して、ジリジリと間合いを詰めている。


「ひぃやぁ!」


上段から降り下ろされた木刀はいとも簡単にカムイの頭を打ちすえた。木刀は折れたが、間髪入れず横腹を蹴り飛ばす。先ほどとは違い、身を沈めていただけあって数十センチしか動かない。カムイの方が重いもんな。それでも蹴り続けるカドーデラ。カムイが降参することはおそらくない。ならば殺すか場外へ落とすしかないだろう。


いいのかカムイ……このまま何もできずに負けても……


「落ちろやぁぁぁぁぁーー!」


「ガウアァァ!」


おお! やりやがった!


『おおーっとぉ! カムイ君がカドーデラ選手の右足に噛みついたぁぁーー! そして引き倒して……ぶん投げたぁぁーー!』


「きひゃあっ!」


くっそ、惜しい! カドーデラの野郎、変な声出したくせに……武舞台の岩の隙間に短刀を突き入れて場外転落を凌ぎやがった!

カムイだって場外を狙わないでカドーデラの足を噛み切っちまえばよかったんだよ! いや、もうその力も残ってないのか……目も見えず鼻も効かない。勝ち急いだカドーデラの蹴りが単調だったせいで蹴り足を噛むことには成功したが……

例え足を噛み切ったとしても、そこで力尽きては終わってしまう。だから場外に落とすことに賭けたってわけか。


「くっ……痛え……だが、まだ歩けねぇほどじゃねぇや……いくぜぇカムイの兄貴よぉ!」


カドーデラは右足を引きずりながらもじわじわとカムイに近づいていく。その手には短刀。そんな刃物じゃあ目か鼻、もしくは口の中でも狙わない限りカムイに傷をつけることなどできまいな。


今にも飛び上がりそうなほど身を低く構えるカムイ。未だ目も鼻も治っていないのに。


猛然と体当たりを仕掛けてきたカドーデラに対し、正面から迎え撃ったカムイ。弾き飛ばされたのは……カムイだった。体重差ではカムイだが、勢いで勝るカドーデラには勝てなかった。放物線を描き、場外へ落ちていく……


『ガウガアアアアアーーーー!』


なっ!? このタイミングで魔声だと!? カドーデラに!? あっ! 効いてる!? カドーデラの野郎、勝ちを確信して気を抜いてやがったか!? だが……


『今度こそ場外! カドーデラ選手の勝利で、えええーー!? なんとカドーデラ選手まで倒れてしまいました! どうやら最後の魔声が効いていたようです! 放送席まで響くような恐ろしい声でしたからね! ですが! 先に場外へ落ちたのはカムイ君に違いありません! よってカドーデラ選手の勝利に変更はありませーん! 激闘を制したカドーデラ選手に大きな拍手をお願いしまぁーーす!』


負けたか。『浮身』

医務室に連れてってやらないとな。カムイにはしばらく休息が必要だ。まったく、召喚獣のくせに世話が焼ける奴だぜ……

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