1504話 第一試合決着
私の突き、薙ぎ払い、打ち下ろしはことごとく逸らされ、払われ、避けられた。こいつも途中で気付いたらしい。私の不動を受けてはならないと。
「基礎がなってないと言ったことは撤回しよう。そのような恐ろしい棍をよく軽々と振り回しているものだな」
「いい目してんじゃないか。こいつは鉄棒並みに重たいんでな。一度振り回すと中々止められないのさ。」
いつだったか秋の大会の時に母校でデル先生にも習ったんだよな。棍の動きは円を基本としろってさ。
「だが、まだまだ未熟だな。動きは見切った。今度はこちらの番だ」
ちっ、武器が二本あると回転が早いな。くっ、その上蹴りまで混ぜてきやがる……二本の
少し身をかがめて避けたはいいが、右足が着地すると同時に左の後ろ回しが飛んできた。無駄なことを……
「なっ!?」
顔で受けるとキンカラの動きが止まった。ほうら隙だらけ。私に背を向け、しかも開脚中ときたもんだ。金的! といきたいところだが、無理矢理不動を引き抜くと、キンカラは前から地面に落ちた。不動を押さえ込もうと結構体重かけてたもんな。
おらよ!
「ちいっ!」
渾身の打ち下ろしだったか、とっさに身を反転させ護手双鈎を交差することで受けとめやがった。いい反応だ。だが……
「ぐっ、うっぐ……」
手首が砕けたろ? 無茶するからだよ。ほうらもう一発!
「ちいっ!」
とっさに左の護手双鈎を私に投げつけ、転がるように距離をとるキンカラ。砕けたのは左だけか。
「な、なぜだ……顔を蹴られても微動だにしないほど強くはあるまいに……そして、あの打ち下ろしだ……まるで閣下の剛力が乗り移ったかのような威力……その体でいったいなぜ……」
「終わったら話してやるよ。で、続けるんだよな?」
「無論だ!」
キンカラは護手双鈎を、いやもう護手鈎を振り上げて襲いかかってきた。ご丁寧に左手はベルトに差し込んで固定している。
私の視線を上に誘導し、足元から砂を蹴り上げてきた。もちろん効かない。しかも、その位置から護手鈎を振っても当たりはしない。むしろその前に私が先に不動を腹に突き入れることになる。こうやってな!
「げぶぅ!」
マジか……変な声こそ出しやがったものの、腹に傷はついてない。胴を貫くつもりで突いたのに……絶妙のタイミングで後ろへ吹っ飛びやがった。いい胴巻にいい反射神経か……やはり優勝するだけあるな。
「ふうぅーー……参ったな……基本なんか無視して力技か……仕方ない……あまり使いたくはなかったが……」
何やらブツブツ言ってるが聞こえない。おっ、懐から取り出したのは……ポーションか? 飲ませるかよ『氷球』
『ああーっとぉー! ここまで魔法を使わないフェアプレイを貫いていた魔王選手が! ついに魔法を使ったぁぁーー! それも! キンカラ選手の回復を妨害するという卑劣な用途で!』
ついに使っただと? ふふ、どいつもこいつも勘違いしやがって。
終わりだ。
『水球』
特大の水球三連発だ。逃げ場はない。
「ふんっ!」
ちっ、正面の水球を真っ二つにしやがった。右手一本でよくやるもんだ。だが……
「がはあっ!」
私に対して突っ込んできたため、斜め後ろから二つの水球が直撃した。グッドタイミング!
「螺旋貫通峰!」
体勢を崩しているキンカラに避けるすべはなく、不動が腹に深々と突き刺さった。そんな状態でもなお前進し、護手鈎を振り下ろしてきた。残念ながらムラサキメタリックでもない限り、私の自動防御は破れない。
もう聴こえてないだろうが、私は魔法なしの勝負なんかしちゃいないんだよ。お前や司会が勝手に勘違いしたんだよ。私が魔法を使う気配を少しも感じなかったろ? 当然だよ。開始前から使ってたんだから。自動防御なんか宿を出る前から使ってるし、身体強化は司会の姉ちゃんが喋りだした時ぐらいから使ってる。我ながら魔力の無駄遣いが酷いけどね。が、その程度の魔力は誤差の範囲でしかない。いい稽古になった。
当然ながら魔法なしじゃあまず勝てないだろうからね。まあ、悪く思わないでくれ。
『決ちゃーーーく! 魔王選手の勝利です! 一日目も一級闘士ソネラプラ選手と素手で互角に渡り合っていましたし! 魔法なしでも強ぉぉーーい! できれば最後まで魔法なしで戦い抜いてくれたなら! 私のハートもドッカンウッフンだったのに!』
ドッカンウッフンって何だよ……
そんなことより……カムイ。お前、出るんだよな?
「ガウガウ」
飯はたらふく食ったしポーションも一本だけ飲んだ。だが……
頼むから無茶すんなよ? カドーデラの奴、ムラサキメタリックの刀を持ってんだからな? いくらお前の無敵の毛皮でも危ないんだぞ?
「ガウガウ」
当たればの話だと? 生意気言いやがって。行ってこい。無様な真似を見せるんじゃないぞ?
「ガウガウ」
当然だってか。まったくカムイは……
「魔王さん、見事な戦いぶりでやした。」
「おう。お前もがんばれよ。まあ本当はがんばって欲しくないんだけどな。」
「いやぁ。カムイの兄貴の胸を借りるつもりでやらせていただきやす。それじゃ、ごめんなすって。」
うーん。カムイに勝って欲しいが無傷で負けて欲しくもある。もし勝っても次の相手は私か領主なんだからさ……
まったく、心配ばかりかけやがって。
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