1502話 豊穣祭七日目 前哨戦

しっとりと、それでいて情熱的な夜を過ごした翌朝。私は微睡みの中、嫌々ながらも目を覚ました。


それというのも、本日は豊穣祭の七日目。つまり一日目から六日目までの優勝者が対戦をして真の優勝者を決める日なのだ。なもんだから昼まで寝てるってわけにもいかないよなぁ……ふぁーあ。


「うう……んっ……カース……起きたの……」


「おはよ。まだ寝ててもいいよ?」


「ううん、起きる……」


「ピュイピュイ」


おお、コーちゃん。いつ帰ってきたの?


「ピュイピュイ」


あら、さっきなの。あいつどうなった? ライオネルは。


「ピュイピュイ」


おっ、どうにか助かったんだ。きっとコーちゃんのおかげだね。偉い! で、疲れているところを悪いんだけどカムイも頼めるかな。あいつも限界超えたみたいでさ。ずっと寝込んでるんだよね。


「ピュイピュイ」


うん。ありがとね。今から一人前、昼に二人前料理を運ぶよう頼んでおくね。夕方ぐらいには一度戻ると思うからさ。それまでカムイを頼むね。

よし。コーちゃんがいるならもう安心だ。さて、今日も張り切っていこう。


「ガウ……」


お、カムイお前……起きたのかよ……

行くってマジか。やめとけ……と言って聞くようなやつじゃないよな。

ならせめてポーションだけでも飲んでおけ。それから朝飯も。朝飯を残さず食えたら参加を許してやる。


「ごめんねアレク。少し待ってね。カムイがどうしても行くって言うんだ。」


「大丈夫なの? いくらカムイは回復力まで並じゃないからって……」


「ガウガウ」


ちっ、生意気な。この状態でもアレクになら勝てるだと? まあいい。それなら今から朝飯にしよう。私とアレクは食堂で食べるつもりだったが、まとめてここに用意してもらうとするか。


さて。いつもなら朝はお任せで頼むのだが、今日は違う。夕食並みに豪華にしてくれと注文してやった。朝からフルコースといこうか。普段のカムイならこれの三人前でもペロリと食べるよな? まあ今日は普通に一人前だけどさ。それにしてもさすがの高級宿だな。朝からいきなりフルコースを注文しても、普通に出てくるんだからさ。




げふぅ……うまかった。それはそれは旨かった。朝から腹がパンパンだよ……げっふ。


「アレク……おいしかったよね……」


「え、ええ……とてもおいしかったわ……」


「ピュイピュイ」


コーちゃんはとっても満足そうだ。朝から酒まで付いてきたんだから。


「ガウ……ガフゥ……」


ほほう。全部食べたか。なら仕方ない、連れてってやるよ。でも私と当たっても知らんからな。私は疲れこそあるものの魔力は五割近く回復している。今日も容赦しないぜ?


「ガウゥ……」


そんな低い声で唸るなよ。私はお前が心配なんだよ。分かってるくせに。

よし、ちょっと歩くのが怠くなったから馬車を呼ぼうか。昨日までは闘技場へは歩いて往復してたんだけどな。

こんな状態で馬車に乗って酔ったらどうしよう……

私ったら酒にはあんまり酔わないのに。なぜか馬車には酔うんだよなぁ。昔から。




ふう……どうにか酔う前に着いたか。ギリギリだったな。もう八分ぐらい乗ってたら酔ったかも知れないな……


ちなみに今日はそんなに早く来なくてもいいんだよな。一日目からの優勝者が対戦を始める、いわゆる『七日目』の開始は昼前からだ。

それまでは闘技場本来の役目、すなわち闘士たちによる対戦が見物できる。なんでも昇級に関係なく、上の等級の闘士に挑戦が許される場もあるとか。


それを見物するために開始から来ようと思っていたんだけどなぁ……

朝からフルコースなんて食べたもんだからだいぶ遅くなってしまった。残り一、二戦ってとこか?


『さぁー! 本日はいよいよ豊穣祭最終日です! ご領主様によりますと! 染み込んだ血の量にデメテーラ様はたいそうご満足されているとのことです! 特に! 昨日大量の血を流した紅蓮獅子のライオネル君が! どうにか一命を取りとめたのは! その血の味と量に感銘を受けたデメテーラ様が死なせるには惜しいとお考えになったからだそうです! さすがは土と豊穣の神! 素晴らしき慈悲深さです!』


へー。そんな理由があったのか。でも実際はコーちゃんが必死にデメテーラにおねだりしたからだったりするんだろ?


「ピュイピュイ」


あら、違うの? そもそもおねだりなんか聞いてくれるタイプじゃないのね。血が旨いと思ったら助けてくれる可能性があるのか。ふーん……


『さあ! そんなデメテーラ様もお見守りになられている豊穣祭もいよいよ最終日! 一日目からの優勝者が互いの誇りを賭けて総合優勝を目指し戦います! そして! 惜しくも最終日に勝ち残れなかった闘士たちが! 最後の見せ場にと火花を散らすのも本日です!』


最後の見せ場? どういう意味かな?


『前哨戦最後の試合は! 一級闘士への昇格を賭けて! 戦うは二人の二級闘士!

一人目は! シドニー・ロクサーヌ! あらゆる武器! 豊富な魔力! おまけに素手でも強い万能型な闘士ですが! 抜きん出たものがないのが悩みの種! ですが! 二級闘士は伊達じゃない! 弱点がないためここまで堅実に生き残っているのです!

二人目は! レイナ・ブルージーン! シドニー選手とは対照的に! 刀のみしか使えない特化型! 三日目は惜しくも決勝戦で敗れてしまいましたが! ここで勝てば! 念願の一級闘士への昇格が決まります!』


三日目ってことはあの姉ちゃんは決勝でカドーデラに負けたってことか。二級闘士に勝つとはカドーデラの奴もやるじゃん。






そして、激戦の結果……勝ったのはシドニーだった。名前が気になるんだよな。シドニーって。サンドラちゃんの弟たち、双子の一人がシドニーなんだよな。まあ関係ないけど。

こっちのシドニーは万能型の名に相応しく、弱点がなかった。接近戦を挑もうとするレイナに対して、空中も含めて距離を取り魔法や礫を打ち込むシドニーだった。魔法のみ部門と違って移動が自由であったことも勝った一因だろうな。


さて。前座は終わった。

ようやく私の、私たちの出番だ。

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