1500話 ペット部門表彰式

紅蓮獅子ライオネルは起き上がる気配を見せない。ピクピクと痙攣するのみだ。首の傷は塞がることはなく、流れる血が地面を染め続けていた。

キヨバルは慌ててポーションを振りかけ、口から飲ませようとしているが……


「ピュイピュイ」


コーちゃん……いつの間に。カムイに呼ばれた? ポーションが欲しい? あぁ、なるほど。


クタナツで買った高級ポーションの蓋を開け、コーちゃんに飲ませる。そしてコーちゃんはライオネルの口から頭を突っ込み……


「な、何を?」


「感謝しろよ。中身はローランド王国製の高級ポーション。それを大地の精霊自ら祝福付きで腹に直接飲ませてくれてんだ。少しぐらいは助かる可能性が出るかもな。」


「なんと……すまない。ありがとう……」


「だいたいお前も可愛いペットにあんな薬を飲ませるんじゃねーよ。いや、今さらだけどな。」


そりゃあこいつらの勝手だけどさ。


「その話はもういいよ。でも、ありがとう。ライオネルはさ、砂漠の王者と言われる種族だけあってやたらプライドが高いみたいなんだよ。とにかく負けず嫌いでさ。シューホー大魔洞のグランオーガメイジに勝った時だって半死半生、僅差の勝利だったよ。だから帰り道がかなり大変だったんだからさ。」


勝つためならどんな手でも使う……それもまあプライドか。


「ガウガウ」


おっ、少しはこいつを認めてやったのか。


「カムイがライオネルに、強くなって出直してこいってさ。」


ライバルとは思ってないようだけどね。苦戦したくせに。まあ神酒の欠片がなければもう少し楽に勝ててたか。


「はは、ありがとう。ライオネルが助かったら伝えておくよ。とりあえず医務室に運ぶとするね。じゃあまた、どこかで会おう。」


「ああ、またな。」


そう言ってキヨバルはライオネルを浮かせて連れていった。コーちゃんはライオネルの首に巻きついたままだ。優しいね。




『それでは表彰式を行います! これは悪い夢なのか! 昨日と今日で同じ優勝者! しかもローランド王国からの来訪者! これにはテンモカの民として以前にヒイズル人として憤りを感じないでもありません! しかし! それとて実力の結果! ならば! そんな強者に敗れた我々は胸を張って優勝者を讃えようではないですか! 会場の皆さん! カムイ君と! カース・マーティン選手に大きな拍手をお願いしまーーす!』


おっ、まばらだけどまあマシな拍手かな。手でも振ってやろう。アレクは……あっちか。ん? 放送席じゃん。あっ! なるほど! あの姉ちゃんがやたら物知りだと思ったら、アレクの入れ知恵か。きっと耳元であれこれ教えてたんだな。


『さあ! 表彰台の設営も終わりました! カムイ君! カース選手! 壇上にお上がりください!』


壇上ってほど立派じゃないなぁ。別にいいけど。


『ご領主様! シュナイザー・アラカワ侯爵閣下のご入場です! 大きな拍手でお迎えください!』


ちっ、やっぱ私の時とは全然違うな。万雷の拍手だわ。

おお、領主だけでなくその後ろには大きな荷を積んだ馬車まで。曳いてるのは人間だけど。


『お前たち! 豊穣祭を楽しんでいるか!』


はーい! 楽しんでます! 最高です! ご領主様素敵! よそもの死ね! ご領主様やっちゃってください! テンモカ最高!


など、様々な声が聞こえてくる。


『儂もだ! ついに豊穣祭も残すところ後一日! 明日の試合数はかなり少ないが盛り上がることは必至! お前たち! 明日も盛り上がっていくぞぉぉーー!』


おおー! やるぜー! ご領主様勝ってぇー! よそものぶっとばしてぇー! いやむしろ殺せぇー! やれぇー! 明後日があると思うなよ!


色々と聴こえてくるなぁ……うーん、私は悪役のようだ。別にいいけど。


『お静かに! ご領主様からお言葉を賜ります!』




会場が鎮まったことを確認し、領主は改めて話しだした。


『五日目の優勝者カース・マーティン! 六日目の優勝者カムイ! 見事であった! 両者の健闘を讃え賞品を授ける! デメテーラ様の祝福のもと、元気に育った農作物だ! 願わくばローランド王国にまでその美味を広めて欲しいものだ。おめでとう!』


領主の言葉と同時に荷台の幌が外された。おおー! これはすごい! 米俵がざっと十俵、種類ごとに束ねられた野菜の数々。あの四斗ぐらいありそうな樽は酒かな。小さい樽は醤油や味噌まいそと見た。最高じゃないか。参加してよかった。


「二日分をまとめてある。そなたならあれごとまとめて収納できるであろう?」


「ええ。ありがたくいただきます。ローランドに帰ったらしっかり宣伝しておきますよ。」


では荷台ごと収納。これで野宿しても迷宮攻略してもいちだんと豊かな食生活をおくれること間違いなしだ。


『お前たち! ローランドからやって来た勇士たちに今一度大きな拍手を贈れ! テンモカの民は器が小さいなどと言わせてなるものか! やれぇぇーー!』


器が小さいところは結構見ちゃったけどね。おっ、今度は大きな拍手じゃん。

あ、ついでに領主のやつ退場を始めてやがる。そりゃ拍手も大きくなるわ。それにしても、昨日はすぐ終わったのに今日はやけに長かったな。カムイも疲れたろ。いや、疲れたどころじゃないだろ。


「ガウガウ」


平気だって? 無理すんな。もう歩けないだろ。そのまま寝転んでいいぞ。あとは運んでやるからさ。


「ガウガウ」


宿の部屋までは絶対歩くだと? お前も変なところで頑固だよな……

明日出場できなくなっても知らないぞ?


「ガウガウ」


あー、そりゃまあそれは明日心配すればいいんだけどさ。まあいい。領主の退場が終わったことだし、私たちも出るとしよう。ほら、帰るぞカムイ。立てるか?


「ガウ……」


足がめちゃくちゃ震えてるじゃねーか! 無理するなよバカ。

ほら、ゆっくり歩くぞ。ついて来いよ。


「ガウ……ガウ……」


この分だと今夜はマッサージしない方がいいな。風呂も水を軽く浴びる程度にしておこうぜ。


よくやったカムイ。

お前、最高にカッコいいぜ。


「ガウ」


当然だってか? ふふ、バカが。

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