1499話 暴沸決勝戦
『ガウガアアアアアーーーー!』
カムイの魔力をたっぷり乗せた魔声が紅蓮獅子を直撃する。だが硬直したのはほんの一瞬だけ。すぐに体勢を整えカムイの方を向く。
その方向は……上だ。
『グルゴゥゥゥゥーーーー!』
獅子は上を向くと、落下するカムイに向け火の魔法を吐こうと口を開いた……が、大爆発が起こった……だと……?
カムイのやつ、一体何をしたってんだ? 獅子が口を開いたのとほぼ同時に落ちてきたようだが……
『何ですかこれは! 全く分かりませ……いや、なるほど! カムイ君は上空から落ちてきたようです! その上で敢えて魔声を使いライオネル君に上を向かせようとしたのですね! 当然ライオネル君としては迎撃するために『獄炎吐息』を吐くでしょう! それこそがカムイ君の狙い! もしも獄炎吐息を吐く瞬間に口を閉じてしまったら!? 行き場をなくした強大な吐息はどこへ行くのか!? そう! ライオネル君自身をも吹き飛ばしかねない諸刃の剣だったのです! つまりカムイ君は落下の勢いでライオネル君の口を閉じ、自爆させたのです! 自身も巻き込まれることなど意にも介さず!』
すごいな……あの姉ちゃん。きっちり見えてやがったのか? 私には全然見えなかったぞ。
それにしてもカムイのやつ、そんな無茶なことをしやがったのか……
弱点か……口から魔法を吐くような効率の悪いことをしてるからカムイにつけ込まれたってわけか。やっぱ魔法は全身どこからでも撃てるようになっておかないとね。
『さあ! 会場はどうなったのでしょう!? ここは仕方ありません! ちょっと魔法を使います!』
『
ほぉう。夏に使うと涼しそうな魔法じゃん。見る見る会場の噴煙が晴れていく。
おっと。おかえりカムイ。
「ガウ……」
さすがのカムイも疲労困憊だな。体力も魔力も相当使った上に、何度も吹っ飛ばされたもんな。いくら直接的なダメージはなくとも体の芯に響いたダメージは軽くないだろう。私の前にだらりと寝込んでしまった。
ほう、つまりお前はもう終わったと考えてるんだな?
「ガウ……」
そうか。どれどれ……紅蓮獅子はどうなったか……
おっ。やったな。カムイの勝ちだ。
『なんとぉぉーー! ライオネル君の上半身がありませぇーん! 下半身どころか後ろ脚とその付け根がわずかに残る程度! これは勝負ありです! カムイ君、魔王選手の勝利! したがいまして! 優勝はカムイ君、魔王組となりまーーす!』
それにしても、体があそこまでなくなるほどの爆発をくらっても無傷なお前もとんでもないな。いや、そりゃあ無傷じゃないけどさ。ダメージは大きいんだろうけどね。
「ガウ……」
だよな。ポーション飲めよ。それで今日はもう風呂入って休め。いくら外傷がなくても内臓へのダメージとかあるんだからさ。
「ガウガウ」
おい……立ち上がってどうした?
『グギャゴバアァアァァァァァーーーーーー!』
は? なんだと!? そんなバカな……
『なんと! ほんの数秒前まで下半身しかなかったライオネル君が! なぜか完全復活しているぅぅーー!』
なるほどな……やけに高い回復力、いや復元力の理由が分かったぞ。キヨバルの奴、使いやがったな? あの野郎……ペットのことを何だと思ってやがる……
『なっ、そんな薬が!? どうやらライオネル君は
マジでこの姉ちゃんどうした? 急に物知りになってんな。
「ガウガウ」
分からないけどやってみるって? まったく、お前は頑固な奴だな。もう勝負はついたんだから私に任せておけばいいってのに。
蟻地獄の底から一歩ずつ登ってくる紅蓮獅子。ふちで見下ろすように待ち構えるカムイ。
『おい姉ちゃん! もう宣言したんだから優勝はカムイで決まりだよな?』
わざわざ拡声を使ってまで確かめておく。
『むっ! 姉ちゃんじゃありません! 私にはちゃんとヤチヨって名前があります! 優勝はカムイ君、魔王組で変更はありません! 私が言ったんだから確定です!』
ヤチヨね。初耳だよ。そしてカムイの優勝が確定なら私も遠慮なく手を出すぞ。
「ガウガウ」
ちっ、手を出すなって? お前大丈夫なのか? あいつはしばらく不死身だぞ?
「ガウガウ」
自分だって不死身だと? バカが、無理しやがって……
まあいい。そっちは任せた。私は私で……
「よう。決着はついたが、まだやるのか? あの獅子を止めなくていいのか?」
「いやぁ……まさかここまで力の差があるとはね。飼い主が化け物だとペットまで化け物になるのかな。」
「お世辞はいいんだよ。お前、かわいいペットを殺す気か? あんな薬を飲ませやがって。」
「何言ってるんだよ。あれを飲ませてなかったらとっくに死んでるじゃないか。僕はライオネルに死んで欲しくない。ライオネルは負けるぐらいなら死ぬ。その覚悟があるからこそ、あれを飲むことを選択したんだよ。それほどまでにカムイ君は強敵だからね……」
あー、なるほど。分からんでもないが……
「まあ俺が言うのも何だけど、相手が悪いな。カムイはちょっと反則だわ。真っ向勝負だとまず勝てないと思うぞ。」
「そのようだね。僕はライオネルに迷宮でしか経験を積ませてやれなかった。もっと広い世界で強敵と戦う経験を積ませていれば違ったのかな……」
「どうだかな。迷宮だって強敵には事欠かないんじゃないか? シューホー大魔洞だって踏破されてないんだろ?」
「まあね。地下二十三階が最深記録らしいよ。おっと……残念ながらそろそろ時間のようだよ……」
おお。蟻地獄を這い上がったライオネルだが、タイムリミットの迫る体ではカムイの相手にならなかったか。いくら不死身でも動きが鈍ればそれまでか……
『グオオオオオオオオーーーーーーン!』
ライオネルは最後の力を振り絞るようにカムイに向け極大の炎を放った……が、すでに移動を終えているカムイに首を掻き斬られて……倒れ臥した。
闘技場の地面に止めどなく流れる赤い血。ぴくりとも動かないライオネル。そうか……
時間切れか……
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