1498話 沸騰!カムイ VS ライオネル

紅蓮獅子の回復力がそれなりに高いのはまあ当然だとしても、いくらなんでも高すぎないか? カムイの牙も、牙から伸びてる魔力刃も、ドラゴンの表皮でさえ斬り裂く威力なんだぞ? いくら獅子の脚が太くても二回も攻撃をくらえば切断されてもおかしくないほどなのに。


「ガウアアッ!」


やはりカムイもおかしいと感じているようで、戦い方を変えた。一瞬で斬り裂く動きから噛みついて抉り取る動きへと。


獅子の左後脚へ噛みつきを敢行する……カムイの牙に沿って脚の肉がごっそりとなくなり……

「グアウ!」

が、一瞬ほど逃げ遅れて……獅子の巨大な顎が……「ガウッ」


ほっ……ギリギリで避けたか。さすがのカムイもあの獅子に腹でも噛まれたらアウトだからな。やはり体格差っての残酷なもんだ。だが、あれだけ脚をごっそりと削ってやったんだ。そうそう回復もするまい。もうカムイの勝ち…‥なんだ……と?

カムイがその場から離れたわずか数秒の間で……元通りになってやがる……

迷宮のトロル並みの回復力……いや、復元力か……


だが、カムイの動きは変わらない。反撃をくらうギリギリを見切り、噛みつきを敢行する。さすがの紅蓮獅子もカムイのスピードの前には容易くカウンターもできないようで、噛まれるがままになっている。噛まれた一瞬だけはカムイの動きが止まるため、そこを狙ってはいるのだが、そこもさすがのカムイだけあってそう簡単には反撃をくらうことはないようだ。


「やれ! ライオネル!」


むっ? カムイが噛みついた瞬間、キヨバルが何か指示をっ『グルゴゥゥゥゥーーーー!』


むっ、口から魔法を吐きやがった!? しかも狙いは私か!


『氷壁』


見え見えの攻撃を自動防御で防ぐと魔力効率が悪いからな。


『なんと! 魔王選手! 砂漠の砂をも焼き尽くすというライオネル君の『獄炎吐息』をあっさりと防いだぁぁーー!』


獅子が私を狙うならこちらは好都合。行けカムイ。キヨバルをズタズタにしちまえ!


「ガウガウ」


やらない? どうしてもこいつを倒したいって? しかもキヨバルからは怪しい匂いがするのか。なるほどね……まあいい。任せたぞ。こっちは気にするな。全力でやってやれ!


「ガウアアーー!」


うわっ、えげつな! カムイの奴、獅子の後ろ脚を噛んだまま一回転しやがった! どさりと落ちる脚……『グルゴゥゥゥゥーーーー!』

あの獅子……真下に火の魔法を吐きやがった!? 自分もろともカムイを焼く作戦か!


『おおーーっと! 大変なことになりました! 会場が爆炎に囲まれて何も見えません! 放送席にまで熱気が伝わってくるかのようです! 果たして二人と二匹は無事なのでしょうか!?』


「ガウ」


姿は見えないが私の後ろにスタッと着地したカムイ。上に吹っ飛ばされてたのね。当たり前か。どうよ、勝てそうか?


「ガウガウ」


当たり前だって? へぇ、あいつの弱点見つけたのか。やるじゃん。

あっ、まだ全然晴れてないのに行っちゃったよ。気が早い奴だな。


『ガウバアアアアーーーー!』

『グルゴゥゥゥゥーーーー!』


カムイの方は景気付けの魔声か。無駄遣いしやがって。獅子の方は分からないな。火の魔法だったら危ないから防御をしっかり固めておこうかね。追加で『氷壁』


噴煙が晴れると、目の前の会場がなんと! すり鉢状にごっそり凹んでいた。なるほどな……さっきの火の魔法一発でここまで削りやがったか。しかも……


カムイが攻め辛そうにしている。あいつはすり鉢、いや蟻地獄の中心にいるからな。上から攻撃をするしかない。さすがの獅子もまだ足が復元していないようで、動きが悪いな。ここまで考えて地形を変えるとは……やるじゃん。きっと砂漠での戦いなら常識なんだろうな。それをあの獅子は本能でやってみせたってところか。砂漠で戦った経験なんかほぼないだろうからな。


さて、カムイ。いくら弱点を見つけても狙えなければ意味ないぜ? どうする?


むっ、蟻地獄のふちに沿って走りだした? 何やってんだ? 獅子はそんなカムイに下からレーザーのようなブレスを吐いてくる。観客に被害が出ても知らんぞ?

先ほど至近距離から魔法を浴びせたのにカムイはほぼ無傷だったからな。威力重視の攻撃に切り替えたってわけか。ただの飼い獅子かと思ったら迷宮で戦ってるだけあるな。柔軟に対応するじゃないか。当たるかどうかは別の話だけどな。


ぐるぐる回るカムイの動きがどんどん加速していき、もはや私にも見えなくなった。足音すら置き去りにするほどの速度だ。獅子はもう狙いすらつけずに魔法を吐きっぱなしにしている。同じところを回ってるんだから横から当たることを期待してるんだな。だが……


『これはどうしたことでしょう!? 凄まじい速さで走り回っていたカムイ君ですが! だんだん姿が見えなくなってきたと思ったら! 完全に消えてしまいました! 一体どこへ消えてしまったのかぁぁーー!』


もちろん私には分かっている。見えなくとも魔力は感じるからな。つまり、それはあの獅子も同じはずだが……直前までああも魔法を吐きまくってたんだ。果たして感知する余裕はあるのか?

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