1497話 決勝戦 カムイ VS ライオネル

あれ? おかしいな。次の試合が始まらない。どうなってるんだ?


『えー……大変申し上げにくいのですが……先ほどのカムイ君の大声、魔声ませいによってほとんどのペットが参加不能となってしまいました……したがいまして、三十分休憩の後、決勝戦を始めたいと思います! 決勝の対戦はもちろん! 無敵のフェンリル狼カムイ君と! 勇猛な紅蓮獅子ライオネル君です! 皆さんどしどし賭けてくださいねええーー!』


あらら。昨日の開会式と似たような展開になったな。それにしてもペットがビビって逃げるのは分かるが、召喚系の術者まで棄権するとは意外だな。

あ、カシラがぶっ飛ばされたからか。あれだけの巨漢が会場の端まで飛ばされたんだもんな。あんなミサイルみたいな頭突きなんか絶対くらいたくないからね。無事ならいいんだけどな。


「ガウガウ」


おう。分かってるさ。『浄化』

おまけに『水球』。これで目と鼻をしっかりすすいでおきな。


それにしてもお前にしては迂闊だったな。懐から胡椒、いやペプレの実の匂いはしなかったのか?


「ガウガウ」


したけど面倒になったって? 術者さえいなければ心を折るのも簡単だと?

なるほどねぇ。あの威力だと術者が元気だとしてもネズミの心は折れてたと思うけどな。むしろ失神しなかったことを褒めてやるべきだわ。


それよりどうだ? 軽くポーション舐めておくか? 少しは疲れただろ?


「ガウガウ」


必要ないのね。どっさり魔力使ったくせに。相手はまだ魔力系の攻撃は見せてないんだからな。油断するなよ?


「ガウガウ」


ふふ、期待してるぜ。




『さあー! 大変長らくお待たせしました! いよいよ六日目、ペット部門の決勝戦を行います! それでは改めて両者を紹介いたします!

一人目は! 白い閃光フェンリル狼のカムイ君! ローランド王国はるか北! 魔物はびこる大森林! ノワールフォレストの森にて禁忌と恐れられる稀少種でぇぇーーす!』


えらい詳しいな。私はそこまで教えてないはずだが……


『二人目は! 赤い暴虐、紅蓮獅子のライオネル君! 南の大陸はるか南! 灼熱地獄の大砂漠! セティアン砂漠の王と恐れられる稀少種でぇぇーーす!』


へぇー。そんな砂漠があるのか。ヘルデザ砂漠とどっちが危険なんだろう。ノヅチがいる分こっちの方が危険そうだな。でも環境的には……あっちかな? 気になるなぁ。


『奇しくもペットと飼い主同士の戦いとなった決勝戦! まずはそれぞれ抱負を語っていただきましょう! まずはカムイ君の飼い主、魔王選手お願いします!』


抱負って言われてもなぁ……カムイが出たいって言うから出場させただけだもんなぁ。

あ、しっかり拡声の魔道具を持った係員が寄ってきたよ。


『あー、カムイはこう見えてもかなりの修羅場をくぐってきている。全長が百メイルを超えるような巨鳥ルフロック。軽く触るだけで皮膚が溶ける猛毒龍マスタードドラゴンと、挙げればきりがない。そこで聞こう。ライオネルはどんな大物を倒してきたんだ?』


カカザンのことを話してもよかったのだが、長くなるからな。


『セティアン砂漠の猛者たちを丸かじりさ! と言いたいところだが、ヒイズルに来たのが小さい頃だからね。こっちで大きくなってからだとやっぱり迷宮ダンジョンだね。シューホー大魔洞では地下十六階のボスまで倒してるよ。魔法を使う巨大なオーガでそれなりに厄介だったよ!』


へー。魔法を使うオーガなんているんだ。


『おおーっと! 両者一歩も譲りません! ルフロックにマスタードドラゴンがどのような魔物か私には分かりませんが! 魔法を使うオーガについては知っています! その名もグランオーガメイジ! 身の丈は二十メイルを超えるくせにその身のこなしは俊敏! しかも放たれる魔法ときたら外ならば一撃で城壁に穴を穿つほどだそうです!』


へー。そんなオーガに勝つなんてなかなかやるじゃん。


『さあ! 互いの胸の内を吐き出しましたら! いよいよ決勝戦を始めます! 位置について! 見合って見合って!』




『始め!』


『グオオオオオーーーーーー!』

『グルゥゥゥゥーーーーーー!』


ほぉ……魔声の撃ち合いかよ。出力はカムイの方が上だが……


「ガウッ!」


威力は獅子の方が上か。少し後退させられたな。カムイめ、ついでにキヨバルまで巻き込んでやろうと色気なんか出して広範囲のやつを使いやがるからさ。獅子に集中しろよな。


だがお互い様子見はもう終わりか。一気に会場の中央で頭突きの打ち合い……ふっ飛ばされたのはカムイだ。体重差を考えろよな。


だが、負傷したのは獅子か。額から一筋の血が流れて、すぐに止まった。やはり回復力も並みじゃないな。


「ガウアアアアーー!」

「グゴォォオオーー!」


今度は魔声ではなく、ただの気合いか。

ほう。やはりスピードではカムイの圧勝だな。見る見るうちに獅子の体が斬り刻まれていく。だんだんと真っ赤な毛皮がどす黒く染まっていく。いくら無敵の毛皮でもカムイの牙の切れ味には勝てないってことだな。


だが……妙だな……?

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