1494話 カムイ出陣

開始と同時にカモメは空高く舞い上がる。対してネズミは……ん? どこ行った? さっきまでカシラの目の前にいたのに。


おっ、カモメが急降下して……え? カシラに攻撃? いいの!?


『おおーっと! シガルス鴎のムエタン君! ドス鼠のチュータ君が見えないために飼い主のヤスオオズ選手に対して直接攻撃に出たぁぁーー! これがペット部門の泣きどころ! 飼い主は相手のペットに攻撃してはいけません! ひたすら耐えるしかないのです!』


初耳だよ。何だそのクソルールは……そりゃあ姿が見えないなら仕方ないけどさ……

おっ、鋭いくちばしによる突撃を寸前で上手く躱したな。カシラの奴、なかなかいい身のこなしだわ。あっ!


「ピィイイイーーーー!」


『なんと! チュータ君! ヤスオオズ選手の服の中に隠れていたぁぁーー! そして急降下したムエタン君の去り際に! 背中を鼻先の刃で貫いたぁぁーー!』


ドス鼠って言うだけあってランスマグロみたいに鼻先に刃のような角が生えてるんだよな。鋭そう。


『落ちたぁー! 勝負あり! ドス鼠のチュータ君、ヤスオオズ・オオニシ組の勝利です!』


終わってみればあっさりだったな。安易に本体を攻撃すればいいってもんじゃないな。




「お疲れ。貫禄勝ちだったな。お見事。」


「いやぁ相手が油断してくれただけでさぁ。なんせこちとらただの鼠ですけぇなぁ。」


そりゃそうだ。私だってカモメが勝つと思ったもん。






さて、そろそろ私の出番かな。


『さあ! さくさく行きましょう! 一回戦第四試合を始めます!

一人目は! 悪名高きローランドの皆殺し魔王! カース・マーティン選手! ペット部門にまで参加するとは何たることか! ペットは『魔王の牙』こと『フェンリル狼』の『カムイ』君! 白い毛並みが美しい! ぶっちゃけあれでコートを作ってみたいと思うのは私だけでしょうか!?』


ペットじゃないんだけどね。それにしても太え野郎、いや姉ちゃんだな。まあ毎日の手入れのせいか、きれいなのは間違いないもんな。純白という言葉がぴたりと当てはまるほど真っ白な毛皮だよな。手入れしなくても結構きれいだと思うが。


『二人目は! 三級闘士ザッカード・ハテレノ選手! 召喚獣は『ストーンゴーレム』の『チャッピー』君です! どうしてそんな名前をつけたのか疑問ですが! 三級闘士の中では昇級間近とも言われている選手です!』


ゴーレムか。岩のゴーレムならカムイの敵ではない。問題は大きさかな。さすがにデカいとやりにくいもんな。どれほどのものが出てくるか……


『さあ! 勝負を始めますよ! ザッカード選手! 召喚してください!』


おーおー、丁寧に詠唱しやがって。




へー。ゴーレムにしては小さいな。三メイル半ってとこか。


『それでは! 位置について! 見合って見合って!』




『始め!』


「ガウッ!」


カムイが駆け抜けたと思ったらゴーレムの首が落ちた。だが、その程度でゴーレムは仕留められない。かと思えばカムイの姿がブレる度に、ゴーレムの手足が切り落とされていく。これはもう勝負にならないな……


最終的に、バラバラになって身動きの取れなくなったゴーレムの腹の上をすっと通り過ぎ、魔石を悠々と斬り裂いた。終わりだ。

ここまでわずか二十秒。さすがはカムイだね。


『勝負あり! カムイ君、魔王組の勝利です!チャッピー君に全く何もさせない早業! 放っておけば手足がくっつくゴーレムにそれすら許しませんでした! しかも! 頑丈さに定評のあるストーンゴーレムを! まるで紙のように斬り裂いてしまいましたぁー! 見事な勝利です!』


「ガウガウ」


すっきりしたって? そいつはよかった。一昨日も暴れたくせに。

それにしても、我が召喚獣ながらカムイは反則だよな。具現化してるせいで魔力が必要ないし。目にも止まらないほど鋭く動くし、ドラゴンの皮膚を斬り裂くほどの牙まで持っている。おまけに無敵の毛皮ときたもんだ。

カムイでこれなら勇者ムラサキの召喚獣、白い狐だったかな。そいつは一体どれほど強力だったんだろうな。勇者の仲間だってそうだ。七色の魔法使いイタヤ・バーバレイの白い隼とかさ。うーん気になる。




一回戦もいよいよ最後か。おっ、キヨバルの出番か。うっわ、何だあれ? ペットだよな……?


『お待たせいたしました! 一回戦最後の試合を始めます!

一人目は! 丞相閣下のご二男キヨバル・アラカワ選手! 魔法のみ部門だけでなくこちらにまで参加してくださいました! そしてペットは『紅蓮獅子ぐれんじし』の『ライオネル』君! くれぐれも観客に被害を出さないでくださいよ!』


やっぱりペットなんだ……全身真っ赤な毛並みに金色のたてがみ。全長三メイル弱の雄ライオンって感じだな。見るからに獰猛そうだが……ちゃんとキヨバルの言うこと聞くんだろうな? 同命の首輪は着けてんだろうな? たてがみで見えないけどさ。


『二人目は! 二級闘士ナッシュ・タナシ選手! ここ数年二級で停滞しておりますが! 次回こそはと意気込んでおります! 召喚獣は『双頭百足そうとうむかで』の『ピート』君! 即死するような猛毒こそありませんが! 様々なタチの悪い毒と強靭な顎肢がくしは要注意! おまけに巻き取り攻撃も危険です!』


うわぁムカデかよ……どこかで遭遇したよな。アレクが倒したっけ。あれは大きかったなぁ。


『それでは始めます! 位置について! 見合って見合って!』




『始め!』

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