1492話 四人だけの酒宴

波の音、星明かり。世界に私とアレクしかいないとしか思えない時、そして空間。

あれから何時間経ったんだろう。もうすっかり夜が更けてしまったんだよな。

でも、禁欲期間を挟んだせいか……相当燃えてしまった……これはサウナでしっかり汗をかいてからビールを飲むようなものか。最高だった……


「アレク……立てる?」


「だめ……もうこのまま眠りたい……」


それは私もだ。でもこのまま寝ると風邪をひくどころか凍死しかねない。海の魔物だって襲ってくるだろうしね。それにコーちゃんやカムイがお腹をすかせて待ってるだろうし。

とりあえず……『浄化』

それから……これを着せておこう。


よし宿に帰ろう。かなり腹へったし。




隠形おんぎょうを使いつつ宿の前にいきなり着地。アレクをお姫様だっこして中に入る。


「おかえりなさいませ」


さして慌てた様子もなく門番が挨拶してくる。


「ただいま。うちの蛇ちゃんと狼ちゃんは帰ってきてる?」


「はい。二時間ほど前にお戻りになりました」


「そうか。ありがと。」


ならばそこまで待たせたわけでもないか。




「おかえりなさいませ。夕食にされますか?」


私たちが泊まってる海燕の間を担当しているメルテックさんだったか。やはり割烹着が似合いそうだな。


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


おお、コーちゃんにカムイ。待たせたね。さあ夕食にするぞ。コーちゃん、今夜からまた酒を飲んでいいからね。やっぱ禁欲は体によくないね。禁欲の果てに辿り着ける境地なんてたかが知れてるって言葉もあるしね。


「夕食は部屋に頼むよ。四人前ね。銘柄はお任せで酒を多めに。」


「かしこまりました。ただちにお持ちいたします」






この夜、途中からアレクも目を覚まして酒宴に参加した。

酔ってバイオリンを弾くアレク。それに合わせてぴょこぴょこと踊るコーちゃん。珍しくカムイまでガウガウガーウと歌う始末だった。かなり騒いだとは思うがここは離れだ。気にすることはない。

大勢で騒ぐのも面白いが、この四人だけで盛り上がるのも非常に楽しい。

ふふ、アレクったら普段よりだいぶ音が跳ねてるよ。このリズムはモータウンって言うんだったかな。ノリノリだね。おおー、コーちゃんたら頭をふりふりするだけでなく尻尾までぴょこぴょこと振り回してるよ。癒されるなぁ。かわいいよなぁ。それにひきかえカムイ! お前は音痴だなぁ……リズムは合ってるが音が全然合ってないんだよ! もっとアレクの音をしっかり聴け! ガウガウ以外に声は出せないのかよ!


「ガウガウゥゥー!」


無茶言うなって? そりゃそうだ。楽しければ何でもいいんだもんな。そらそら、もっと音痴な歌を聴かせろ!


「ガウガウッ!」


何? 私も歌えって? ふふふ、いいだろう。私の美声を披露してやるぜ! よぉーしアレクのバイオリンの旋律に合わせて……歌詞は即興で……


『旅立つ日に 残された僕は

誰よりも孤独だったのだろうか

遠い空の下 戦う君を想えば

一人きりだって 悪くないだろう

誰かのために 戦うのも

自分のために 戦うのも

結局は同じことなのかも知れない

歩くのをやめた者から老いていき

老いた者から死んでいく

だから我らは戦う

例え魔境の露と消えても

だから我らは歌う

例え魔境の屍となりても』


「ガウガウ」


意味が分からないって?

かーっ、これだからカムイは。

いや実は私も分からないんだよね。クタナツギルドで酔った先輩達がよく歌ってたんだけどさ。歌詞をよく覚えてないんだよな。後半は合ってると思うんだけど。前半は適当だ。つーか歌詞なんか気にするなよ。ノリでいこうぜノリで。ほれ、お前も歌え。アレクのバイオリンはノリノリだぞ?


「ガウガウガーウ!」


っかーっ! お前ホントに音痴だなぁ。でもいい! ガンガン歌おうぜ!


『クータナーツ女は情がふかーい

色が白けりゃ心も白ぉーい

だけど時々赤くなるぅー

浮気な亭主の血に染まるぅー


クータナーツ女は懐ふーかい

迷子のよその子面倒みーるよ

だけど時々怖くなるぅー

暴れん坊やも泣いて逃げぇー


クータナーツ女は闇がふかーい

過去をきくのはご法度さー

だけど時々寂しそうぉー

そんな夜はあなたと二人ぃー

夜が明けるまで心燃やしてぇー』


「ガウガウ」


おっ、気に入ったか?

作詞作曲は私。題して『クタナツクレイジーガールズ』

完全に私の偏見だけどね。いかんな。めちゃくちゃ酔ってる……魔力がごっそり減ってる時って酔いがまわるんだよな。

それよりカムイよぉ……お前明日はがんばれよ? 負けんじゃないぞ?


「ガウガウ」


はは、当たり前だって? 今のお前ならカカザンにだって楽勝だろうな。エンコウ猿の族長って言ったかな。あいつ元気にしてんのかなぁ。あいつにはしっかり蟠桃を育ててもらわないといけないもんな。また食べたいもんなぁ。めちゃくちゃ旨かったし。


「ガウガウ」


あいつも強くなってるかも知れないって? そりゃそうだ。お前が強くなればあいつだって強くなるわな。

ところでカムイさ。いつだったかノワールフォレストの森で出会ったノワール狼を覚えてるか?


「ガウガウ」


その時にさ、族長のロボっていただろ。めちゃくちゃ大きい狼のさ。あいつは母上の召喚獣でもあるんだが、お前勝てるか?


「ガウガウ」


ほほう。一対一なら勝てるのか。でもあいつらの本領は集団戦法なのね。そうなったら分からないと。魔物の世界もいろいろあるよなぁ。

あ、曲が変わった。一転してスローなバラードになったぞ。

よーし、この曲に合わせて新しい歌を……

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