1488話 焙煎乳茶

さて、今度こそ帰ろう。アレクの目がさっきからすっごくキラキラハートになってるんだよな。目の前であんなことが起こったんだから当然か。そんな目をしてるけど……まだお仕置き期間中だからなぁ……


「帰るにはまだ早いから、どこかでお茶でも飲まない?」


「え、えぇ……いいわよ……」


全然良くないって顔してる。そこまであからさまにがっかりしなくても。すごく悪いことしてる気分になるじゃないか。でもアレクにはしっかり反省してもらわないとな。




「こいつぁまた……やらかしやしたね?」


カドーデラまで来ちゃったよ。


「ゴッゾは大丈夫だったか?」


一応闘技場を出る前にポーションを一口ほど飲ませてやったのだが。


「へぇ。おかげさまで命に別状はありやせんや。それにしても魔王さん……お人が悪いですぜ? まさか開会の挨拶も終わらねぇうちにいきなり全員ぶち殺しちまうたぁ。やっぱあたしぁ出なくて正解だったようで。」


「ゴッゾは不運だったな。それより俺がああすると読んでたのか?」


私としては予定外の行動だったのだが。司会の姉ちゃんが何でもありって言うからふと思いついて実行しただけなんだよね。


「いやいや、さすがに予想できるわけありゃせんや。だいたいあたしは魔法を使わない魔王さんに負けた身ですぜ? それが何でもありの勝負となっちゃあ勝てるわけないってもんでさぁ。ゴッゾの奴ぁよく出場したもんで。」


カドーデラの言い方だと私と当たるまで他の奴には負けないって自負もあるかな。ムラサキメタリックの刀があれば当然か。


「今からお茶でも行くんだがお前も来るか?」


「よろしいんで?」


アレクが私の左腕にぎゅっと抱きついてきた。宿に帰らないんならせめて二人っきりがいいと言いたいんだな。


「ああ。その代わりいい店に連れてってくれよ。」


だがここは堪えてもらおう。その代わり禁欲期間を短くするからさ。


「ようがす。ご案内いたしやさぁ。」


「そういやお前は一人か? 他の奴らはどうした?」


「ヤスオ兄貴と会長は先に帰りやした。会長が眠ってしまわれやしたんで。何でも魔王さんに会ったのがよっぽど嬉しかったようで。おまけに今日が相当楽しみで眠れなかったそうで。他の舎弟どもは怪我した参加者の手当に参加させてやす。」


あらあら。ヨーコちゃんたらかわいいところがあるんだな。そんなに私の活躍を楽しみにしててくれたのか。で、私が優勝したから安心して寝てしまったと。いい子だなぁ。あんな子が闇ギルドの会長とは……因果なもんだねえ。好きで選んだ道とも思えないが。上手くまとめるためには必要だったんだろうね。いやー人生はままならないねぇ。


「一人で……」


「ん? アレクどうかした?」


「か、カース! 私先に帰る! ごめんね! あ、後でね!」


え? アレクが……すごい勢いで走っていった……

カムイ頼む。


「ガウガウ」


コーちゃんはお酒飲みたいだろうからな。アレクにはカムイについててもらおう。


「女神さんはどうされたんで? あたしぁお邪魔だったんじゃ?」


「たぶん違うな。気になるけど、たまにはアレクだって一人になりたい時ぐらいあるんだろうさ。行こうぜ?」


できれば今すぐ後を追いかけたいが……アレク、どうしたんだろう……頼んだぜカムイ。


「んじゃサシで飲みやすかい。」


「ピュイピュイ」


「俺は今はお茶かコーヒーの気分だな。コーちゃんはもちろん酒がいいみたいだけど。」


「へいっ!」


そういえばコーヒーって最近飲んでないな。あったらコーヒーにしようかな。




ここか。小さい店だな。


「のんびり茶ぁ飲むならここでさぁ。」


「香ばしい匂いがしてんな。良さそうな店じゃん。」


ほうじ茶系かな?


「ピュイピュイ」


コーちゃんもまずはお茶から? たまにはいいよね。休肝日は大事だからね。


「まずは温かいやつで一杯いきやしょうぜ?」


「それもいいな。任せる。」


「ピュピュピュイ」


コーちゃんも任せると言っている。




運ばれてきたのは……見た目はミルクティーだな。どれどれ味は……

あ、これはまるで……ほうじ茶ラテ? ほうじ茶の香ばしさと牛乳の甘さを感じる不思議な味わいだな。


「これは何て名前なんだ?」


「こいつぁ焙煎乳茶ばいせんにゅうちゃって言いやす。一杯三万ナラーもしやすんで魔王さんの奢りでもなけりゃあそうそう飲めやせんや。」


「へー。でも旨いから仕方ないな。」


これはアレクにも飲んで欲しいな。次は一緒に来よう。


ほほう。つまみは炒った豆か。へぇ軽く塩味がついてる。カリカリしてて旨いな。


「ピュイピュイ」


「コーちゃんにお代わりを頼む。同じので。」


「ようがす。」


コーちゃんも気に入ったのね。よし、このまま今日は禁酒してもらおう。私も飲まないからさ。




うーん、カドーデラとの雑談が意外と楽しいな。


「お前はアラキのことをどう思う?」


こいつはアラキ島まで付いてくるって言ってるしな。


「どうと言われやしてもね……行ってみなきゃあ分かりやせんぜ?」


「そんなことは分かってるよ。俺が気になってるのはエチゴヤの奴らがどうやってアラキに入り込んだのかってとこだな。あいつら船持ってんのか?」


「そりゃあ持ってやがるんでしょうねぇ。あいつら金ぇ唸るほど持ってやがりますからねぇ。厄介な奴らでさぁ……」


そりゃあそうか。少し前までオワダをきっちり支配してたぐらいだしな。海運に強くないはずがないか。さて、どうなることやら。


差し当たっては……明日だな。ペット部門か……

コーちゃん本当に出るのか?

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