1482話 ビレイドの告白

アレクはよく寝ていた。うーん起こすのがもったいないな。


「ピュイピュイ」


早く飲みに行こうって? もぉー、コーちゃんたらしょうがないなぁ。ならば起こそう。眠っているアレクの苺のように甘く赤い唇を……

昔から眠っている姫を起こすのは口付けと相場が決まっている。でもそれってセクハラどころじゃないよな。普通に犯罪だよな。


「カース? 終わったの?」


「やあおはよう。終わったよ。もちろん優勝したよ。だから今からみんなで飲みに行こう。気分はどう?」


「最高よ。カースが嬉しい起こし方をしてくれたから……//」


はは、私の方こそ照れるな。


「よかった。アレクの寝顔があまりにもかわいいからさ。つい我慢できなくて。よし、それじゃあ行こう。あ、その前にビレイドを起こしてくれる?」


「ビレイド? え、まさか決勝の相手ってビレイドだったの?」


「そうなんだよ。そこで妙なことが起きたもんでね。話ぐらい聞いてみようかと思ってさ。」


「妙なこと? まあ起こせば分かるわよね。」


さて、ビレイドの奴はどこかな?




いた。特に治癒の必要なんかないもんな。普通に寝かされてるだけだ。


「なんじゃ? こやつに何か用か?」


「ちょっとな。怪我なんかしてないだろ? 起こして話を聞くだけだ。構わんだろ?」


「ふん、好きにせい。」


でもここから離れないのね。じいちゃんも今日はお疲れだったな。


『覚醒』


アレクの魔法でビレイドが目を覚ます。


「う……ひっ! ひいぃぃぃーー! ごめんなさいごめんなさい! 違うんです! 僕じゃないんです!」


あ、朝のビレイドだ。じゃあさっきのは?


「いや、別に文句を言いに来たんじゃないんだ。あまりにもさっきのお前が別人みたいだったから気になってな。」


「ほっ……あの、こんなこと言うと頭がおかしいって思われると思うんですけど……」


「いいから言えよ。」


事実は小説より何とかって言うしね。


「僕……二人いたんです……」


「吸い込まれた方とお前の二人って意味か?」


「そうです。どう説明すればいいのか分からないんですが……この体を二人で交代で使うような……でもだんだんあいつの方が使う時間が長くなって……」


二重人格なのか?


「生まれつきそうだったのか?」


「いえ……五年ぐらい前からです。たぶんエチゴヤの仕業なんです……」


「エチゴヤだと? そこまで分かっててゴッゾには知らせてないのか?」


「言えるわけないですよ! エチゴヤに何かされたことがバレたら殺されます! だからそれが怖くて蔓喰内で出世すればその心配もなくなると思って……」


うーん、分からんでもないが……


「まあいいや。それは置いておこう。エチゴヤから何をされたんだ?」


「五年ほど前にトツカワムに行ったんです。奴隷売買の件で、エチゴヤの第四番頭クラギ・イトイガに会いに。で、話もまとまり後は酒飲んで終わりってところだったんです。でも、そこから朝起きるまでの記憶がなくて……その時は飲み過ぎたぐらいにしか思ってなかったんです。ただ、その日からなんです。頭の中で妙な声がするようになって……」


めちゃくちゃ怪しいじゃないか。


「俺はお前の味方だ、二人で一緒に蔓喰でのし上がろうぜって……確かにあいつが僕の体を使うと誓約魔法の効きだってよくなるし……シノギだって上手くいくようになって……いつの間にか蔓喰で一番金を稼げるようになってたんです……」


「なるほどな。まあよく分からないが……分かった。で、俺の魔法が全然当たらなかったのはなぜだ? お前の個人魔法か?」


「そ、そうです……魔力が続く限りではありますが一切の攻撃が当たらなくなります。何と言いますか……全部すり抜けていくんです。でもその間はこちらからは何もできません……ただ立っているだけで……」


すごいな。無敵じゃん。私も覚えたいものだが個人魔法じゃあ無理か。


「ちなみに長引いても平気って言ってたがどのぐらい大丈夫なんだ?」


「ああ、それは嘘です。あの時だと残り五分ぐらいでした。だからあいつもどんどん攻撃をさせて魔王さんを魔力切れにさせたかったんだと思います。他に勝ち目もありませんし……」


「なるほどな。まあだいたい分かった。何か悪いものが取り憑いてたんだろ。うまく吸い込んでよかったな。今後は地道に生きろよ?」


「はい……ありがとうございます……エチゴヤなんかに不覚をとって……ゴッゾさんに殺されるかも知れませんが……ありがとうございました……」


「まあそこは気にするな。ゴッゾには適当に言っておくからよ。じゃあな。」


「はい……魔王さんと戦えてよかったです……」


うーん、結局のところエチゴヤの仕業で確定か? ビレイドに新たな人格を植え込んで蔓喰内に混乱を起こしたかったとか? そしてゆくゆくはその人格が完全にビレイドの体を乗っ取って……エチゴヤの手先になる。

エチゴヤとしては表向きはテンモカやヤチロに手を出しにくい。だから裏からコツコツと切り崩そうとしているのか? アラキ島のように。

第四番頭か……トツカワムに着いたらすぐ殺してやろう。なんだか気に入らないから。


よし。この件はこれで終わりだ。さっさと飲みに行こう!

乱魔キサダーニや傷裂ドロガーの魔法も気になってんだよな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る