1475話 魔王 VS 賢者
さーて。ようやく私の出番だな。アレクの消耗具合が気になるけど……
『それでは! 第七試合を始めます!
一人目は! 先ほどまで私の耳元で卑猥な言葉を囁き続けた傍若無人の異国人! ローランドの魔王ことカース・マーティン選手! そんな卑劣な行いにも負けず司会を続けた私を褒めてください!』
なんだと……? 私は卑猥なことなんて言ってないぞ? ただ耳元で囁いてただけじゃないか。姉ちゃんだって顔を赤らめていたくせに。まあいいや。後で説教しに行ってやる。
『二人目は! 流浪の賢者ことサイゾリヤ・ヒィロシマ選手! ヒイズル中を歩きまわっては無償で農業指導を行う奇特なご老人! 今回はたまたまテンモカに立ち寄っていた縁で参加されたそうです!』
農業指導か……楽園にスカウトしたいな。あの辺の土質がどんな農業に向いてるとか私にはさっぱり分からないもんな。いつか楽園で米やイグサを作る時のために……
それにしても戦いにくいなぁ……
見た目はゼマティスのおじいちゃんより歳上だもんなぁ。体格はおじいちゃんよりは少し大きいが、私より小さい。シワだらけの顔は少し赤茶けている。これで麦わら帽子をかぶったら間違いなく農家のじいちゃんだな。
「ぼうず、何のために豊穣祭に参加した?」
「特に理由はないかな。強いて言えば物見遊山の延長といったところか。」
ローランド人救出のために顔と名前を売るって目的もあるけどね。それにしてもヒイズルの奴は対戦前に話すのが好きなのか?
「わしは今年の収穫をデメテーラ様に感謝し、来年の豊穣を祈るために参加しておる。ぼうずの血はデメテーラ様にさぞかし喜んでもらえそうだわい。なぁに、少しぐらい血が流れても死にはせんわい。のう?」
そう聞かれてもな。そりゃあ少しなら死ぬわけないだろ。それにしてもえらく真面目なじいちゃんだな。あ、もしかして……
「デメテーラ様の祝福って貰ってる?」
「ほほう、気付きおったか。いかにもその通りよ。わしは今から五十年ほど前にデメテーラ様から祝福をいただいての。それ以来、ヒイズルの大地のために尽くしておるのよ。」
うーん、すごいな。すごくまともだ。これが神から祝福を貰った人間のあるべき姿なんだろうな。
「そうかい。それならデメテーラ様には悪いが、あんたの血で我慢してもらうとしようか。」
「くくく、わしの血などデメテーラ様のためならいくらでも捧げるわい。だが、死にぞこないのわしの血などではデメテーラ様をご満足させることなどできぬでな。さあ、そろそろ時間だ。よい勝負をしようではないか。」
ちょっと言い方が狂信者っぽいけど、たぶんまともなデメテーラの信者なんだろうな。つーか血を欲しがる神なんて絶対ろくな奴じゃないと思うんだけどなぁ……
『賭けを締め切ります! さあ勝つのは国中の農民の尊敬を集める賢者選手か! それともローランドからやってきた傍若無人の破廉恥魔王か! いよいよ始まります! 見合って見合って!』
『始め!』
『白弾』
じいちゃんの肩をぶち抜くのは心が痛むが、祝福持ちはたぶん厄介だからな。一気に決めてやった。終わりだ。もう倒れ……ん?
『
マジかよ。反撃が飛んできた。しぶといな。
『白弾』
今度は土の壁で防御しているようだが、無駄だ。ただの土で防げるはずがない。
『土球』
また反撃がきた。おかしいな。もう両肩に穴が空いてるはずなんだけどな。
『烈風』
ならば円から外に出してやる。強風で土壁ごと吹っ飛ばして……んん?
土壁は吹き飛んだが、肝心のじいちゃんは微動だにしてない。なぜだ?
灰色のローブの両肩には穴が空いているし、出血の痕跡もある。あるが……少なくないか? 地面に垂れることなく血が止まったとでも言うのか?
あ、よく見たら足首まで地面に埋まるかのように固定されてる! 実際には埋まってるんじゃなくて地面の方が盛り上がっているのか。そんな力技で耐えるなんて足腰が強いんだな……さすが農家の星。
『雷雨』
ん? 局所的な雨とともに雷が落ちてくるが、私には効かないぞ?
『風斬』
両足を固定してたら避けられないだろ? 両足をぶち斬ってやるよ。きれいに斬るから後でつなぐのは難しくない……なにぃ!?
確かに両足は切れた。一瞬だが派手に血も出た。しかしそれだけだ。じいちゃんは転ぶこともなく、立っている。足もつながったままで。
なるほど……やっと分かった。それが祝福か。
『雷電』
無駄無駄。いくら大きい雷を落とそうとも私には効かないっての。そして、ネタが割れた以上もう私の勝ちだ。
『風斬』
『水鋸』
『暴風球』
足をぶち斬って……つながる前に吹っ飛ばせばいいだけだ。
『勝負あり! 賢者選手は闘技場の隅まで吹っ飛んでしまいました! 魔王の勝利です!』
ついに呼び捨てかよ。やはりこれは説教だな。
おっと、その前に。じいちゃんの切れた足先を届けてやらないとな。こいつがないと治るものも治らないからな。まったく、こんなにがっちりと土中に固めやがってさ……
あっ!? き、消えた!? 掘り出そうとしたら……付近の血の跡もない……
まさかデメテーラの奴、血だけじゃなくて肉体そのものも欲しいってのか……
何て奴だ……自分の信者でもお構いなしかよ……じいちゃんどうするんだ? くるぶしのちょい上部分から下が無くなったんだぞ……
「いやぁ負けた負けた。ぼうずは強いのお。」
「お、おいその足は……」
じいちゃんは裸足ではあるが、隅から歩いて戻ってきた。切り落としたはずの足が……生えている?
「デメテーラ様の祝福だ。木は枝を切り落としても再び生えてくるように、わしの手足も生えてくるのよ。むろん穴も同様だな。いくらでも塞がるぞ?」
神の祝福ってのはここまでの威力があるのかよ……てっきり傷がすぐ塞がる程度かと思ったら。手足が生えてくるなんて凄すぎだろ……
あ、でも祝福じゃないけど個人魔法持ちでそんな奴もいたなぁ。次に私も神から祝福を貰えるチャンスがあったらこれを貰おう。ますます私の防御が堅くなるな。
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