1474話 氷と炎
なん……だと……
アレクは全く防御をしていない。なのに……火矢がアレクを避けていく……
ま、まさか!
『なんと! 数百にも及ぶ火矢が! 意志があるかのように女神選手を避けていったではありませんか! これはもしや! 魔王選手のお母上! ローランド王国にその人ありと噂される! 聖なる魔女イザベル様が得意とされる『魔力感誘』でしょうか!? いかなる魔法を放とうとも! 近づくはしから魔女様の威光にひれ伏すかのように! 支配権を奪われてしまうと聞いております! それをまさか! 女神選手が使えるとは! 驚きです!』
この姉ちゃんマジですごいなぁ。私の発する言葉をほぼ自分の言葉として声に出している。即興でこれができるとは……芸達者だな。
いやいや、それよりアレクだよ! 魔力感誘を使えるのは知ってるけど! まさかあれだけの数の魔法を相手に使えるとは……だから私に勝つ方法があると言ったのか?
あ、違うな。残念だがアレクの魔力感誘はまだそこまで上達していない。私よりは上手いが母上の足元にも……
全ての火矢を逸らしたのかと思えば……何のことはない。自分に当たりそうなのを逸らしただけだ。いや、それはそれですごいんだけどさ。よく見切ったもんだな。
魔力感誘ならば魔力の消費が驚くほど少ない。私との対戦を見据えているってわけか。だが……あいつにはバレたみたいだぞ?
『
『おおーっ! シューマ選手から炎の道が走っていくぅぅーー! そして! そのまま女神選手を囲んだぁぁーー!』
今のは私の言葉ではない。この姉ちゃんのオリジナルだ。あの魔法は『燎原の火』の下位バージョンか。私も母上にやったことだが、魔力感誘で逸らせないように丸ごと覆う戦法だな。アレクを炎で囲おうとしているようだ。だが……
『
アレクだって置物じゃないんだ。反撃だってするに決まってる。だが……
『女神選手の氷散弾が! 全く効いていなぁーい! シューマ選手の魔法防御に阻まれた……わけではなく! 装備の強靭さが尋常ではなーい!』
何だ……あいつの装備は? さすがに私とアレクのドラゴン装備ほどではないが……
『
『氷塊弾』
『
『おっとぉー! シューマ選手! 女神選手の氷弾は意に介さなかったくせに! 氷塊弾は火盾できっちり防いでいるぅー!』
あの野郎……生意気にアレクの氷を一瞬で解かしやがった。あれだけもの氷塊を……
『女神選手! 攻めているかと思ったら危ない! シューマ選手の思わぬ火の魔法の前に! 攻め手が止まったぁぁーー!』
『降り注ぐ氷塊』
『出たぁぁーー! そうかと思えば! 女神選手の無詠唱上級魔法! でも武舞台は壊さないで欲しーい! なっ、ああーっ!』
あの野郎……空中でアレクの『降り注ぐ氷塊』を全部解かしやがった……
『あのやろ、いや、シューマ選手! なんと空中で女神選手の降り注ぐ氷塊を全て解かしてしまいました! さすがはご領主のご子息! テンモカの誇りを見せつけてくださーい!』
再び睨み合いになったな……
アレクとしても今ので決めるつもりだったろうに。あの野郎……魔力は大したことないくせに一撃の威力は高い。だが……
『ああーっと! 女神選手! 再び氷塊を降らせたぁぁーー! それは効かないはずでは……いや! 氷塊が解けなぁーい! シューマ選手は火の魔法で防ごうとするも! 半分も解けずに落下していくぅぅーー!』
アレクも気付いたか。あいつの火の魔法は燃費がよくないことに。威力が高いなら当然のことだな。それにしてもアレクったら火に囲まれて熱いだろうに防御より攻撃に魔力を注ぎ込んでるんだから。あんまり心配させないで欲しいなぁ……髪の毛が焼けたらどうするんだよ。
それにしてもあの野郎……マジでいい装備してやがるな。全弾直撃ではないものの、よく耐えられたもんだな……
『ニョーシュースー イニュウカー イーチーミー セシューシン コウジョーゴー
『おおーっと! 女神選手が詠唱を始めたぁー! これは一体何という魔ほ……上級魔法、凍てつく大河ですか! 武舞台を氷の壁がじわじわと覆い尽くしていく逃げ場のない魔法ですね! 今回のようなルール下においては! えげつないほどの威力を発揮することでしょう!』
『
危ね! まるでレーザーじゃないか……いつかのクリムゾンドラゴンの集束ブレスを思い出すな。あれには私の自動防御も装備もまとめて貫かれそうになったんだよな。
『シューマ選手の! さながらドラゴンの集束ブレスを思わせる火槍でしたが! 女神選手の装備を貫くには至らず! しかしどうにか詠唱の妨害することはできました! あの魔法を完成されては! ほぼ負けが確定してしまいます! ここは踏ん張りどころですよ!』
『ニョーシュースー イニュウカー イーチーミー セシューシン コウジョーゴー
『なんとぉー! 再三の妨害にも負けず! 女神選手ついに凍てつく氷河を唱えきってしまったぁぁーー! 女神の目の前にそびえ立つ氷の壁が! シューマ選手めがけてじわじわと前進していくぅぅーー!』
なるほどね。あいつは威力は高いがコントロールはそこまでよくないな。アレクを相手に詠唱を止めたいなら顔を狙うしかないのに。胴体はドラゴンの装備なんだから効くわけないもんな。
『火盾』
『シューマ選手! 最後の抵抗とばかりに火の盾を作り出しましたが! 武舞台を覆い尽くすほどの氷を解かすのは容易ではありません! ああーっ! 火が消えたぁぁーー! 万事休す! かくなる上は円の外に逃げてくださぁーい! さもないと氷河に飲まれてしまいますよぉー!』
『火槍』
『おそらくは! 残り全魔力を込めた一撃だったようですが! 穴を穿つことが精一杯! シューマ選手が氷河に飲まれてしまったぁぁーー! 勝負ありです! 女神選手! 魔法を解除してください!』
終わってみればアレクの勝ち。だが……魔力がほとんど残ってないんじゃないか? ここまで苦戦させられるとは……なかなか厄介な相手だったなぁ。決勝トーナメントに残るだけあるな……
『それでも! 最後まで退かなかったシューマール・アラカワ選手に盛大な拍手をお願いしまーす! テンモカの誇りをしっかり見せていただきましたぁー!』
さて、次は私か。
意外と解説って面白かったな。またやろうかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます