1470話 三回戦第一試合

さて、昼休憩を終えたら三回戦だ。また私からかな。今度は相手がいるといいんだが。


『さあ! それでは午後からも張り切っていきましょう! 三回戦第一試合です!

一人目は! ローランドの魔王ことカース・マーティン選手! 今回はちゃんと相手がおりますよ!

その相手とは! 二人目! 傷裂きずさきドロガーこと! 五等星ドロガー・アバタム選手! 乱魔キサダーニ選手のライバルとも噂される、えげつない魔法でちょっと嫌われてる腕利きの冒険者です!』


へえ。あいつのライバルなのか。ならば油断できないな。どうしようかな……紫弾で決めてしまおうか……でもさすがにバレてるだろうしな。


「いよぅ。一回戦見てたぜ? キサダーニの野郎が手も足も出んとやられちまうとはな。参ったぜ。どうすりゃお前に勝てるんだ?」


「さ、さあ……」


このタイプは珍しいな。油断してないのは間違いないが。ん? こいつ……


「そうそう手の内は見せねえってか。まあいいさ。せいぜい全力でやるとすんぜ。いい勝負をしようぜ?」


「お、おう。」


こいつのどこが嫌われ者なんだ? えげつない魔法とは……よし、自動防御を厚めに張っておこう。


『それでは賭けを締め切ります! 賭け率は! 魔王選手が一.四倍! 傷裂選手が二.八倍でーす! やはりキサダーニ選手を瞬殺しただけあって魔王選手の人気が高まっております!』


こいつ、さっきから……なるほどな。嫌われるわけだ。


「では! 三回戦第一試合を始めます! 見合って見合って!』




『始め!』


『榴弾』

『狙撃』


「参ったぁぁーー!」


え?


『え? ちょ、傷裂選手!? 魔王選手の攻撃が届く前に! 自ら場外へ出てしまったぁぁーー! これには魔王選手も苦笑い! 行き場のなくなった魔法が空しく魔王選手の足元へと突き刺さったぁぁーー! したがいまして! 第一試合の勝者は魔王選手でぇーーす!』


ふーん。なるほどな。試合が始まる前にすでに見切りをつけてたのか。抜け目のない奴だなぁ。ますますヒイズルでは嫌われるタイプなんじゃないのか? ここの奴らって玉砕が好きそうだし。ついでに言えばデメテーラだって血が足りないって文句言いそう。


「待てよ。二、三聞かせろよ。」


「いいぜ? 生き残れて気分がいいかんよ。何でも話してやんぜ?」


私とドロガーは連れ立って端の方へと歩いていく。




「で? 何が聞きてぇんだ?」


「開始前に使ってた魔法だな。二、三種類使ってたな。ありゃあ何だ?」


「ちっ、やっぱバレてんかよ。嘔吐おうと痛痒つうよう痙攣けいれんだ。どれか一つでも効けばもうけもんだと思ったんだがな……」


うわぁ……嫌な名前。やっぱこいつ嫌われるだけあるわ。


「威力を抑え目にして効くか確認してやがったな? 効きそうなら開始と同時に全開で使うつもりだったってことか?」


「そうなんだよぁ……おまけによ? もしお前をちっとでも傷つけれたらよぉ……勝ち目だってあったんだぜ……」


へー、傷つけただけで勝ち目だと? 毒……ではないな。こいつだって魔力は高いんだ。毒が効かないことぐらい知ってるだろう。そうなると? うーん、分からん。

分からんから聞いてみよう。


「奥の手か? ついでだから言っちまえよ。そしたら今夜酒でも奢るぜ?」


「酒に興味はないが、お前との席は興味があんな。まあいいや、教えてやんよ。とりあえずその魔法防御を解いて指先にかすり傷つけてみ?」


自動防御を指先だけ解除。私は臆病なほど用心深いからな。


『風斬』


デメテーラにもサービスしてやらないといけないしね。指先から血がぽたぽた。


「そんじゃいくぜ。泣くなよ?」


『鋭敏感度』


「ぃぎぐぅあっっっっーーーー『無痛狂心』ふぅ……」


「は? ちょ、まお、なんだそれ? 効いたんじゃねんか!?」


「効いた……痛かった。今のは痛かったぞ……」


「え? だ、だってお前もう平気な顔して……マジなんか?」


マジで痛かった……いや、無痛狂心をかけたのにまだ指先が痺れているかのように感じる……なんで指先だけなのにこんなに痛いんだよ……

小さい頃に母上の経絡魔体循環を受けてなかったら正気を失ってたかも知れないほどだ。あの時を『痛さ五十、苦しさ五十』とすれば、こいつの魔法は『痛さ八十』といったところか。

これはくらったらアウトだ……痛みにのたうちまわり、何もできなくなる。とっさに無痛狂心を唱えた私の超ファインプレーだな。痛みに弱い私だけど、あれこれ経験しておくものだな。


「とっさに痛みを止める魔法を使えたもんでな。危なかったわ。実戦でこれをくらうとかなりヤバいな。いい勉強になった。約束通り今夜奢るぜ。終わっても帰るなよ?」


本当は痛みを止める魔法じゃないけど、そんなことはどうでもいい。


「お、おお……ついでにキサダーニにも声かけとくかんな……」


「構わんぞ。おおそうだ。キサダーニも奥の手を持ってやがんだろ? 教えろって言っといてくれ。」


「言うだけな……」


いやーいい収穫だった。確か『鋭敏感度』って言ったな。いつか母上に習うリストに追加だな。

さて、次はアレクの出番だな。まだかなまだかなー。

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