1469話 蔓喰とアラキ島
助けて欲しい? まずは事情を聞いてからだな。
「どうしたの? 何か困ってるのかい?」
「あの、その、僕ってこれでも蔓喰の会長なんです……何もできない名ばかりだけど……でもヤスオとかゴッゾも支えてくれるし、ヤチロのケンさんやカドーさんも助けてくれて……」
ケンさんって誰だよ……
「ふんふん、それで?」
「魔王さんてあのキサダーニを瞬殺するぐらい凄い人だから、その、きっと助けてくれるって思って、だから……」
「言いにくいことかな? できるかできないか分からないけど、言うだけ言ってみて構わないよ?」
「じゃ、じゃあ……魔王さん! 蔓喰の会長になってください! そして、できればでいいんで僕をお嫁さんにしてください!」
「「はあぁ!?」」
ゴッゾとカシラが同時に声を発した。
「うーんこれは妙案ですな。これで蔓喰も安泰。うんよかったよかった。」
カドーデラが何か言ってる。
「てめぇか!? 会長にペラ入れたのぁ!?」
ペラ入れるって何だ……
「いいえ? アタシぁただ会長がお困りだったようなんで、それなら魔王さんに相談してみちゃあどうですかいって助言しただけでさぁ。それがなんとまぁ。ヤスオ兄貴も知らなかったんで?」
「そうかよ……会長ぉ、あっしに一言ぐれぇ相談があってもよくねーですかぁ? 困りますぜ……」
「ごめんねヤスオ……でも僕は小さいし女だし……向いてないんだよ、会長だなんて……」
「そんなこたぁありやせんや! 会長は先代亡き後、跡目を争うばかりだったあっしらをまとめてくださったじゃねーですか! ゴッゾみてぇなド腐れの荒くれ者が素直に言うこときくのって会長ぐらいのもんなんですぜ?」
「兄貴ぃそりゃひでぇよぉ……」
なんだこれ? 話がさっぱり分からんぞ。
「ちょっと待て。そもそも会長なんかなる気はないからな。それよりもだ。もっと問題を具体的に言え。この子は小さいんだから単純な案しかないんだろう。お前らが言え。蔓喰は今、何に困ってるんだ?」
「そ、そんな……お願いします魔王さん! 僕らを助けてください……」
うわー、そんな涙目で言われると困っちゃうよ。
「ほらカシラ。困ってることを言え。会長になるのも嫁にもらうのも無理だ。だから解決できることからやっていこうぜ?」
「ご、ごほん。そりゃ、たぶんあっしが愚痴ってたのが原因っぽいんだぁ……アラキ島に関して……」
「アラキ島? 酒を作ってる南の方の島だったか?」
「そう、それだぁ。その島が最近エチゴヤに乗っ取られようとしてんだよ……」
ふむふむ。詳しく聞いてみると、もともとアラキは何もない荒れた無人島だったのね。魔物もそれなりにいるような。そこの土壌に目をつけたのが、数代前の蔓喰四天王の一人カケスルリ・アラキ。南の大陸渡りの作物を育てて、南の大陸と同じような方法で酒を作ることができないかと試行錯誤したわけね。おまけに酒だけでなく砂糖まで。
それが最近になってようやく飲めるような酒ができ始めたと。そこに目をつけたのがエチゴヤか……
現在はアラカワ家の領地となっているが、あんな離島では領主の目はあまり届いていない。むしろ汚職役人がたくさんいることだろう。そこをエチゴヤにつけ込まれたわけか。
現場を仕切っているはずの四天王四位の奴からは連絡が途絶え、何度手紙を送っても返事なし。業を煮やした四天王二位が手勢を連れて乗り込んだものの、消息不明。ゴッゾやカシラまでテンモカを離れるわけにはいかず手の打ちようがなくなっていたと。なんだかなぁ……手際の悪い奴らだなぁ……
「だいたい分かった。エチゴヤ絡みなら何とかしてやるよ。ただし豊穣祭りが終わってからな。」
「さすが魔王さん! きっとそう言ってくださるって思ってやしたぜ! あ、そん時ぁアタシもお連れ願えやすかい? ヤスオ兄貴やゴッゾの奴ぁ動けやせんからね。その分ぐらい働いてみせやすぜ?」
カドーデラは調子がいいなぁ。こいつ私の命を狙ったことを忘れてんじゃないか?
「魔王さん! ありがとうございます! 僕も行きたいですけど……だめですよね?」
「ごめんな。悪いけどだめだよ。こっちのお姉さんぐらい強くならないとね。」
本当はそこまで問題はないが、油断禁物だからな。島一つが丸ごと敵だと考えないといけないもんな。
「す、すまねぇ魔王さん。恩にきる……」
ゴッゾよりでかい体を器用に丸めるじゃないか。
「それから魔王さんにはいいお知らせがありやさぁ。たぶんアラキにはローランド人が少しはいると思いやすぜ。このテンモカで売り物にならなかった人間は大抵アラキに飛ばされるはずですからねぇ。」
「なるほどな……」
これだけ多種多様な店があるテンモカで売れなかった人間か……ちっ、捨て値で売られて死ぬまで働かされるってことか……
ん? それを今までやってたのは蔓喰だよな?
てことは……
「お前ら、例の回状の通り行動するってことはだ。もしもアラキが今もお前らの支配下だったら、あそこで働いているローランド人は速やかに回収するつもりだったってことか? ところがエチゴヤのせいでそうもいかなくなったから、仕方なく俺に話を持ってきたってことだな?」
こいつらだって労働力が減ると困るんだろうけどさ。
「その通りでさぁ。どうせあそこで働く人間の待遇なんて最底辺でさぁ。お探しのローランド人が何人生きてるかなんて分かったもんじゃござんせん。なもんで少しでも魔王さんにご慈悲を願うべく、この場を設けたってことでもありやす。」
「ろ、ローランドの人に……ひっ、ひどいごとして……ごご、ごめんなざい……」
くっ、あざとい……こんな小さな女の子に涙ながらに謝られたら……
この子には罪がないだろうに。くそ、カドーデラの野郎……これでジジイの仇をとったつもりか?
「いいんだよ。気にしなくて。君が悪いんじゃない。悪いのは……こいつらかな……」『風斬』
カシラとゴッゾ、おまけにカドーデラの右耳を落とそうとしたが……
「魔王さん、いたずらはナシですぜ?」
カドーデラはすっと避けた。
「痛えじゃねえか!」
ゴッゾは手の甲で防御した。まあ防御できてないけど。結構深く切れてるぞ。
「魔王さんの約定、ありがたく頂戴いたしやす。」
カシラは微動だにせず受けた。こいつらやっぱ幹部だな。そこらの下っ端とは大違いだわ。
「カシラの耳に免じてこれまでの行いには目を瞑ることにする。その代わり、豊穣祭が終わったらテンモカの全ローランド人を集めておけ。期限は俺らがアラキから戻るまでだ。全員集めて怪我や病気がない状態にまで回復させとけ。カシラ、お前との約束だ。いいな?」
「ああ、ああっぐっぼぉぉがあがぁーーーー! はあぁーはあぁーはぁ……ふぅ……こ、これが魔王さんの契約魔法……悪いがビレイドのとは比べもんにならねぇ……」
かなり魔力を込めてやったんだもん。罰則をつけてない分、本気で動いてもらうぜ?
「魔王さん……ありがとうございます! 僕もがんばります!」
「ああ。頼むね。期待してるよ。」
「はいっ!」
つーか島の奪還って、それ領主の仕事だよな。ダンスパーティーの時に聞いてやろう。大領主なら仕事しろってんだ。
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