1467話 アレクサンドリーネ VS キヨバル

『さあ! 何やら交渉をしていたようですが! 賭けを締め切りました! 始めますよ! 見合って見合って!』




『始め!』


『氷球』


いきなりアレクの先制! なっ!? 氷球が落ちた?


『出ました! キヨバル選手の得意魔法、重圧! アレクサンドリーネ選手の魔法が地に転がったぁー!』


あれが重圧? それにしては……


『氷散弾』


アレクは気にせず魔法を撃ちまくる。が……撃ち出された魔法は、あいつに近づくと全てが地べたに落ちた。やるなぁ。


『氷塊弾』


おおっ! 真上からの攻撃なら重圧も無意味だ。さあ色男め、どうする?


ふーん……着弾場所がズレてやがるな。やはりただの『重圧』じゃないってことか。


「ダーイヒー ムーケンジョ ウーショガ ホーシゲン クーミョーブル キ……」


むっ!? アレクが詠唱してる!? マジで!? そんな隙だらけな……


『求心』


危ね! アレクが前のめりに倒れそうになった!? あいつが何か魔法を使いやがったようだが……

とっさにアレクは目の前に氷壁を構築し、円から出るのは免れたが。何だ今のは?


「ダーイヒー ムーケンジョ ウーショガ ホーシゲン クーミョーブル キウ 刹那せつなた『火粉ひのこ


アレクは頑なに詠唱をしようとするが、キヨバルのしょぼい魔法により阻まれる……

アレクなら上級魔法でも詠唱なしでぶっ放せるのに、なぜ詠唱を……? アレクめ、そこまでごり押しをしたいのか?


『一体何が起こっているのかぁー!? 女神選手が攻めているように見えますが! 御曹司選手の小さな魔法で機先を制されているぅ!』


この司会も選手の呼び名がめちゃくちゃだな。でもアレクを女神と呼んだのは評価してやる。よくやった。


「ダーイヒー ムーケンジョ ウーショガ ホーシゲン クーミョーブル キウ 刹那せつなたる氷の脅い『火鼠ひねずみ


もぉぉーー! アレクは何やってんだよ! そんな隙だらけな詠唱しなくてもいいだろ! もぉー! あんな地を這うしょぼい魔法に妨害されてさぁ!


「ダーイヒー ムーケンジョ ウーショガ ホーシゲン クーミョーブル キウ 刹那せつなたる氷の脅威よ 大気をかさね 凍け『赤猫』


もぉぉーー! それでも詠唱するんかい! 一度決めたことを曲げないのもアレクらしいけどさぁ! 何だよそのしょぼい魔法は! 赤猫? 火の玉がネズミ花火のように地面を跳ね回ってアレクにぶつかるだけじゃん! もー! ドラゴンのトラウザーズ履いてるんだから効かないのに! そんなしょぼい魔法でも詠唱って邪魔できるんだな……


「ダーイヒー ムーケンジョ ウーショガ ホーシゲン クーミョーブ……『浮身』『求心』


危ねっ! アレクの氷壁を浮かせやがった。その上でまたアレクの体勢が崩れた。何だあの魔法は?


「いい加減大きい魔法はやめてコツコツやったらどうだい?」


当たり前だがこいつの言う通りだ。魔法対戦で必要なのは何より発動の早さ。なのにアレクは頑なに大きい魔法を狙っている。一体どうしたことだ?


「ダーイヒー ムーケンジョ ウーショガ ホーシゲン クーミョーブル キウ 刹那せつなたる氷の『火粉』

脅威よ 大気をかさね 凍結『火鼠』

せしめ源空げんくうを満たせ 吹雪ける氷嵐」


なんと! 無防備に魔法をくらいながらも、ついに上級魔法『吹雪ける氷嵐』を完成させた!


『浮身』


は!? 武舞台上だけでなく闘技場全体を覆い尽くしかねないアレクの上級魔法が? 全て上空に散っていった……


「くっ、やられたよ……これが本命だったのかい……」


あっ! あいつの肩がえぐれてる! いつの間に!?


『氷連弾』


うっわ……めちゃくちゃ撃ってる! マシンガンかよ! でも全ての弾が地面に落ちてる……何か魔法を使ってやがるな? さすがのキヨバルも反撃する余裕はないようだが……


『遠心』


ぬあっ!? そうかと思えばアレクが吹っ飛ばされ……そうになったけど背後に氷壁を構築済みか。


『おおーっと! 壮絶な撃ち合いとなったぁ! 氷の魔法を連発する女神選手! それに対して重圧魔法で女神選手を円から外に出そうとする御曹司選手! 勝敗の行方はどうなるぅぅーー!』


『降り注ぐ氷塊』


なんと!? 氷弾を連発しながら上から数個の氷塊が!? あれって難しいんだぞ!? さすがアレク!


「くっ!」


あっ、逃げた。あっさりと円の外へ。判断早いな。名誉より命をとったか。やるなぁ。


『なんと! 御曹司選手! 自ら円外へ出てしまったぁぁーー! 少し遅れて氷の塊が落ちてきたぁぁーー! 武舞台は大丈夫なのか!? 壊したら弁償してもらいますからね! それはそうと女神選手の勝利です! 女神選手! 後ほど解説をお願いします! ぜひ放送席までお越しください!』




「アレクお疲れ。なんだか不思議な戦い方だったね。大丈夫だった?」


「大変だったわ。色んな方向から浮身や重圧が襲ってくる感じね。あぁ疲れた……あちこち痛いし。」


「放送席には行く?」


「いや、やめておくわ。疲れたもの。カース、膝枕を……あ、だめだったわね。もう!」


まったくだ。疲れたアレクに膝枕をしてあげることもできないのか!


「仕方ないね。それよりあいつの肩をぶち抜いたのはどうやったの? やけに吹雪ける氷嵐にこだわってたみたいだし。」


「別に何でもよかったの。視界を覆い尽くせればね。わざわざ詠唱したのは彼に邪魔をさせるためよ。上級魔法なんだからそりゃあ邪魔するしかないもの。」


「でも最後は妨害をものともせずに見事に撃ちきったよね。元々その気になれば撃ててたよね? 邪魔されたふりしてたのはなぜ?」


「それで決められたらよかったんだけど。そうもいきそうにないから……ここ一番で隙を作りたかったの。 肩を撃ち抜いたのは氷弾よ。吹雪ける氷嵐にまぎれて地面スレスレに撃ったの。浮身のおかげで弾道が上にいったのね。」


なるほどね。あいつも中々しぶとかったけど、結局は地力でまさるアレクの勝ちか。あいつは魔力が低いなりに上手い戦い方をしてたよな。


「やあ姫。参ったよ、完敗だ。やはり賭けなくて正解だったようだ。」


おっと、キヨバルが来やがった。


「いい勝負でしたわ。早く治療に行かれた方がいいのでは?」


「もちろん行くさ。痛くてしょうがないからね。それより僕の魔法を利用して当てられるとは驚いたよ。これがローランドの戦い方なんだね。相手の魔法すら利用するとはね。」


「カースならば普通に撃ち抜くんでしょうけどね。私にはできないからそうするしかなかっただけのことですわ。」


「はは、まったく……大国の魔法使いは厄介だね。僕も負けていられないな。では、これで失礼するよ。」


キヨバルは肩を押さえて歩いていった。アレクにとってもいい経験だったんじゃないかな。終わってみれば見応えのある戦いだったしね。さて、次は三回戦か。

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