1466話 豊穣祭 魔法のみ部門 二回戦
そんな風にビレイドと話していたらアレクの出番が終わった。特筆すべきことのない戦いだった。普通に正面から氷球をぶっ放しただけで相手の防御ごとぶっ飛ばしていた。
「カース! 見ててくれた!?」
「見てたよ。楽勝だったね。特に発動速度が良かったよ。それであの大きさの氷球とはね、お見事。」
「ありがとう。ところでカース、こんな奴と何してるの?」
「ひっ、ひいいぃーー!」
びびりすぎだって。
「アレクに悪いことしたって謝りにきたんだよ。だから許してやったとこ。未遂だったしね。」
「そっ、そそ! そうです! あの時は失礼しました! あ、あまりにも! その、あなた様が美しかったもので! つ、つい! ごごごめんなさい!」
「そう。それなら仕方ないわね。次から気をつけなさい。ほら、もう行っていいわよ。」
アレクは手の平でしっしっ、と虫を払うようにビレイドを追い払った。
『水壁』
「カース、ここに座って。」
椅子がなければ自前でか。うん、柔らかく座り心地のいい椅子だね。
そんな水壁に腰掛けた私の膝にアレクは座ってきた。参加者だけでなく観客からも丸見えのこの場所で。
「もーアレクったら。みんな見てるよ?」
「だめ? だめなら隣に座るわよ?」
「だめじゃないよー。ずっと座ってて。」
「うふふ、そうするわ。見たいなら見せてあげればいいの。ね?」
「それもそうだね。」
試合は進んでいくが、私達にはお互いしか見えていない。チュッチュすることはないが、イチャイチャはしている。
「ピュイピュイ」
あれ? コーちゃんどうしたの? いつの間に。
「ピュイピュイ」
え……マジで……うわぁ……
分かったよ。知らせてくれてありがとね。気をつけるよ。
やれやれ……
「カース? コーちゃんはどうしたの?」
「いやーそれがね。仲良しな僕らを見てデメテーラ様が怒っているんだって。だから離れた方がいいみたい。」
「そう……意外に狭量な神なのね……デメテーラ様って。」
弁天的な感じだろうか……とても嫉妬深くてカップルを見ると別れさせる的な。
「はは……たぶん聞かれてるよ。気をつけようね……」
「そうね。あーあ……」
くそ……何なんだデメテーラって奴は! 神が人間の恋愛に口出しするなってんだ。でもコーちゃんを介して注意したってことは、注意できないリア充どもにはいきなり天罰でも下すんだろうか? それを思えば助かったと言えなくもない。デメテーラがどんな天罰を与えられるのかは分からないが自動防御も避雷もぶち抜くような雷が落ちてきてもおかしくないもんな。ふぅーくわばらくわばら。
それからアレクは私の隣に座った。服がぎりぎり擦れ合う程度の距離で。くっ……もどかしい……
まあ問題はそんなもの持ってないって事なんだけどね。固めるテンプルのように固めたやつは毒の神にくれてやったしね。少しぐらいキープしとけばよかったかな……
どうやってキープするかが大問題だけど。魔力庫に入らないんだもんなぁ……魔力庫に入れたら吐き気がするって意味分かんねーよ。
感謝しろよデメテーラ。今日は手持ちがないから勘弁してやるよ。
おっ、一回戦が終わった。次の私の出番は……
『さあ! 盛り上がってまいりました! それでは二回戦第一試合を行いたいと思います、が! いきなり盛り下がる展開となってしまいました! なんと対戦相手の六等星冒険者、ウシャス・トウボ選手! 棄権してしまいました! あんな化け物相手にしてられるか、俺は帰る。だそうです! 何も言わずに逃げなかっただけマシかも知れません! よって魔王選手の不戦勝です! なお、賭けにつきましては払い戻しとなります! 次戦でがっぽり賭けてくださいね!』
なるほど。やはりトーナメント戦か。てことは次の試合の勝者が三回戦の私の相手か。
ほっ、アレクじゃないな。どうせならアレクとは決勝で対戦したいな。アレクと純粋な魔法対戦っていつぶりだろう。少なくともアレクが卒業してからはやってないもんな。
「じゃあカース、行ってくるわね。」
「うん。バッチリ見てるからね!」
残念なことに、今日のアレクはいつものミニスカートじゃないんだよな。ドラゴン革のトラウザーズをはいている。さて対戦相手は……
『それではどんどんいきましょう! 二回戦第十試合!
一人目は!誰が呼んだか氷の女神! アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル選手! ローランドの魔王と人目もはばからないイチャイチャぶり! なのに戦いぶりは強引にして冷徹です!
二人目は! まさかこの方が参加されているとは! 遠い祖先の故郷めざし! 天都イカルガからやってきた! 遥か昔に枝分かれ! アラカワ家のもう一方の系譜! 丞相ボガイト・アラカワ閣下のご二男! キヨバル・アラカワ選手ぅぅーー! これは珍しい! 高貴な血筋同士の対戦となりました! 果たして勝つのはどっちだぁぁーー!』
あれ? あいつってカゲキョー迷宮に行くんじゃなかったのか? いや違う違う。そういえば魔法なし部門に参加するって言ってた気がするな。
「やあ姫。また会えて嬉しいよ。」
「先日はどうも。」
「一回戦は見せてもらったよ。君も魔王君もすごい魔力だったね。」
「恐縮ね。」
「ところでどうかな、僕が勝ったら一日デートしてくれないかな?」
「いいですわよ。肌身を許す気はありませんが。で、対価は?」
うおおおおーーーい! 何やってんだよぉぉーー!
「そうだね……天都のアラカワ家、すなわち丞相の名前入りで身分証を出すってのはどうだい?」
ふーん、私の国王直属の身分証みたいなもんか。でもなぁ……
「だめね。全然足りないわ。それに二足のブーツを履く気などありませんわ。私もカースも芯までクタナツの民、ローランド王国民ですもの。キリのいいところで一億ナラー、たったそれだけでいいですわよ?」
「参ったなぁ……僕は貧乏なんだよ。残念だが諦めるよ。いい勝負をしよう」
勝負の前に魔力を練る時間を稼いだにしては、そこまで練れてないよな? 本気でデートに誘ってただけなのか? この手のタイプは腹の底を見せないからな……油断できないんだよね。やったれアレク!
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