1465話 ビレイドの解呪

それにしてもこの豊穣祭って参加者に優しくないよなー。控え室もないんだから。参加者は出番が来るまで武舞台周辺で待機とか。観客席から丸見えじゃないか。せめてベンチぐらい用意しとけよな。立ちっぱなしで見てろってか。


「よお魔王ぉ。おめぇキサダーニを瞬殺たぁやるじゃねぇか!」


「おう。つーかお前参加者でもないのにこんな所で何やってんだ?」


「あぁん? ちっとおめぇに祝いの言葉をかけてやりに来たんだろうが。喜べよなぁ?」


嘘だな。ゴッゾがそんなタイプなわけがない。つまり参加者の誰かに用があって降りてきたってことか。参加者は賭けの対象だから普通は接触できないはずなんだがな。蔓喰だからってやりたい放題か?


「おっ、いたいた。よおビレイドぉ。元気にしてるかぁ?」


「ご、ゴッゾさん……ちっす……」


あ、あれは蔓喰の誓約野郎だ。あいつも参加してたとはね。


「おぅい魔王ぉ、ちっと来いよぉ。おめぇに紹介してやんぜ?」


軽々しく呼びつけてんじゃないぞ? それにこんな奴紹介されても用なんかないってんだ。


「ま、魔王……? ひっ……!」


えらくびびってんな? こいつってこんなタイプだったっけ?


「お前、魔法陣も何もなしで契約魔法かけてたよな。なかなかやるじゃん。その調子でがんばれよ。」


えらくびびってるから、つい優しい言葉をかけてしまった。


「は、はい……ありがとうございます。精進します!」


あれ? マジでこいつ何なの? 一体どうした?


「おいゴッゾ……何があったんだ?」


「なぁに大したことじゃねぇさ。例の幹部会の後にちいっとばかり教育してやっただけさぁ。なあビレイドぉ?」


「は、はい……」


あーあ、ガタガタ震えてるよ。案外こいつはこいつでゴッゾを超えようと一生懸命だったのかもねぇ。目前だったもんね。それでつい調子に乗ってしまったとか? でもいくら蔓喰で一番金持ってても所詮は闇ギルドだもんなぁ。金で買えないものもあるってことだね。うーん諸行無常。

なんだか可哀想になってきた。


「これやるよ。こいつを魔力庫に収納できるよう頑張りな。」


アイリックフェルムのライフル弾、つまり白弾。これだって初めて見た時は絶対魔法防御なんて言ってたんだけどね。名前負けすぎる。


「あ……ありがとうございます! お、重いです……」


「はぁーん、おめぇえれぇ優しいじゃねぇかよ。ふぅーん……」


ぷっ、ゴッゾがへそを曲げてる。乙女かよ!


「出し入れができるようになったら今度は浮かせてみな。そうやって地道に魔法の制御を鍛えるといい。そうすれば契約魔法の威力だってグンと上がるだろうさ。」


その辺りは魔力で無理矢理解決してもいいのだが、制御を鍛えないことにはいくら魔力が大きくても宝の持ち腐れだからな。私だって伊達にバカでかい魔力を振り回してばかりじゃないんだぞ?


「し、収納……できません……頑張ります……」


そりゃあそうだろ。腐っても絶対魔法防御な金属なんだから。


「よぉ魔王ぉ、俺にもくれよぉ?」


でけぇ体して甘えた声出すんじゃねぇよ。気持ち悪いな。


「ほらよ。お前じゃ収納するなんて絶対無理だろうからよ。せいぜい殴る時に拳に握り込むなんていいんじゃないか?」


白弾はいくらでもあるからな。くれてやっても全然問題ない。


「アイリックフェルムかよ。悪くねぇなぁ。ありがたく貰っとくぜぇ。じゃあなお前ら。いいとこ見せろよ?」


「おう。」


「は、はい……」


周囲は少し私らから距離を置いているようだ。こいつのせいか、それとも私のせいか?


「お前ってそんなにゴッゾの座が欲しかったのか?」


「ひっ、ち、違いま、ごめんなさい……」


「いやいや、俺は蔓喰じゃないんだからさ。話したいように話せよ。それとも単に四天王とかになりたかっただけか?」




質問して後悔した……

こいつ話が長い……

孤児でゴッゾに拾われて契約魔法が得意になって金貸ししたら儲かってゴッゾに金を貸したらあいつの頭が上がらなくなったから勘違いしたと。予定通りだったら今頃こいつは四天王入りしてたんだろうけどね。この程度の話に十五分もかけやがって。やれやれ。


「あ、あの、魔王さん……僕の誓約をどうやって破ったんですか……」


なんだよ。分かってなかったのか。ダメだなぁ。


「解呪を使っただけだ。本来はアンデッド系の魔物が使う『呪い』を解く魔法だけどな。魔力を大量に込めれば大抵の魔法は解けるな。」


「へ? 解呪……ですか? それなら僕だって……」


使えてもおかしくないよな。そこまで難しい魔法じゃないから。だって基本的にアンデッド系って雑魚ばっかりだもん。ドラゴンゾンビは除く。


「ふっ、俺は自分にある契約魔法をかけてるが、解呪してみるか? やってみれば奥深さが分かるかもな。」


「は、はい!」


『解呪』っあっがぎょ……


あーあ。失敗したね。


「どうだ? なかなか簡単じゃないだろ?」


「は、はい……まるで長年の風雪にもびくともしない大岩……一体どんな契約を……」


「それは内緒だが、解呪に失敗したってことは呪いの効果が少しぐらいお前に影響するかもな。なぁに、放っておけばそのうち治るさ。それにもしかしたら真実の愛を探すのにぴったりかも知れないしな。まあ気にすんな。」


アンデッドの呪いを解く時は、魔力が余るぐらいしっかり込めるのがコツなんだよ。解呪できなかった場合は自分もそれなりに呪われてしまうからな。


「は、はぁ……」


もちろんまだ気付いてないようだな。実際のところ数週間、もしかしたら数ヶ月ぐらい不能状態かもね。こいつは踏んだり蹴ったりだな。はは……

まっ、いいよね。未遂とはいえ、こいつはアレクに裸踊りさせようとしたんだから。ギルティだね。

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