1464話 カースとキサダーニ
本当はアレクの試合も見たいんだけど、まあ一回戦だしね。たぶんすぐ終わるだろうさ。ちなみに今日コーちゃんとカムイはカドーデラと一緒にいる。私達が二人とも出場するもんだからさ。
おっ、ここだ。治癒魔法使いの頑固ジジイがいるんだよなぁ。
「乱魔いるかー?」
「ふんぬう! ほぉおおーー! はあぁっ!」
まだ治療中か。だめだな。母上と比べると治し方にスマートさが足りないな。母上なら今頃さらりと治癒し終わってるだろうに。
「はいやっ! ふんむっ! ほあぁいやぁ!」
それにしても暑苦しいかけ声だな。まあジジイだから仕方ないか。
「ほおっ! はいやぁ! ふうぅぅぅーーーぬぅん! よし……やれやれ……」
「終わったかい。ご苦労だったな。こいつの身柄はもらっていくぜ?」
「ぬっ? お前は……魔王か! こやつをどうする気じゃあ!」
「大した用じゃないさ。ちょっと金を払ってもらうだけだ。」
『浮身』
「こやつはヒイズルでは名うての冒険者じゃ。魔法戦でこやつの防御を抜いた者を儂は知らん。それがここまで一方的とは……何をやった?」
「何やら不思議な魔法防御を使うことが分かったもんでな。防御不可能な攻撃をしただけさ。おかげでかなり疲れたぞ。やれやれさ。」
魔法のみ部門だからな……ムラサキメタリックの弾丸を飛ばすのは実は反則なのかも知れないが、実況の奴が勝ちって言ったんだから勝ちだよな。つーかライフル弾並みの弾速なんだから誰にも見えてないだろうしな。問題ないだろう。さすがにミスリルギロチンを使ったらまずいかな。
それに裏ルールとして、デメテーラを喜ばせた方がポイント高そうだしね。流血歓迎なんだろうな。酷い神だなあ。
さて、こいつはどこに連れて行こうか……どこかに控え室とかないかなー。闘士たちが待機する場所があるはずだが……
おっ、ここなんかそれっぽい。ここにしよう。ノックしてもしもし。うん、開いてる。
ほほう。ロッカールームか。うわぁ汗臭い……『浄化』よし。
浮身解除っと。床に落ちる乱魔。
「うっ、うう……」
「よう。起きたか? さぁ、払ってくれよ。二十億。」
「お、俺は負けたのか……?」
「ああ。一瞬でな。」
「そうか……負けたか……」
ちゃりんちゃりんと小気味のいい音を立てて床に落ちたのは……白金大判か。潔いじゃないか。まさか手持ちに二十億ナラーあるとは、なかなかやるな。てっきりギルドにおろしに行く必要があるかと思ったが。
「教えてくれよ……俺はなぜ負けた?」
「さあ? 勝負の前に手の内を見せたからじゃないか?」
私の契約魔法を弾いたせいで警戒レベルが上がったんだからさ。あれがなければ普通に水球とか風球で勝負を始めてただろうな。
「それだけじゃねぇな……俺はあらかじめ魔力を練っていた。開始と同時にぶっぱなすためにな……そんな俺より早く魔法が飛んできたんだ。完敗だ……」
おおー。意外と冷静じゃん。
「そりゃあ勝負の前から魔力を練るのはお互い様だもんな。でも、いい勝負だったよ。もし困ったことがあったら言ってきてくれ。」
まあこいつほどの冒険者が困ることなんてないだろうけどさ。
「ああ……その時は頼むわ。だが忘れるなよ? 俺の名前はキサダーニ・ロブ。人呼んで乱魔キサダーニだからな!」
「さすがに忘れないさ。たぶんヒイズルに来てから一番手こずった相手だからな。じゃあな。」
「お、おお……」
それにしても、まさかこんなに金払いがいいとは思わなかったな。落ちた金を金操で拾い上げ、ロッカールームを後にする。
「おっと、すまんな」
ちょうど扉の向こう側に人がいた。闘士かな。魔法使いには見えない。
「てめぇ……この神聖な控え室で何してやがったぁ?」
「神聖? 関係者以外立ち入り禁止なのか? それなら悪かった。中にもう一人いるから合わせて謝っておく。すまなかった。」
知らないでは済まないのが世の常。だからきちんと謝るのが人の道だ。
「へへぇ、分かりゃあいいんだよ。見たところ闘士に憧れた貴族のガキかぁ? 祭りの期間中はよくいるんだよなぁ。憧れの闘士に会おうとして勝手に入る奴らがよぉ?」
「悪かった。もう勘弁してくれ。」
「へへぇガキぃ。言えよ? おめぇ誰に会いたかったんだぁ? ソネラプラか、それともユニか? 残念ながら今日は魔法のみ部門だからよぉ。どっちもいねぇぜ? だが明日ならユニには会わせてやれるぜぇ。どうよ?」
いや、別にいいんだけど……
こいつの目的はどっちだ? 親切なのか、小銭稼ぎなのか……
「ん? 何やってんだ?」
あらら、キサダーニが出てきちゃったよ。少し気まずいんだけど。
「あぁん!? てめぇかあ! もう一人って奴……あ、あれ、あ、キ……?」
私のことは知らなくてもキサダーニのことは知ってるのかよ。
「なんだてめぇ? ここのモンか?」
「ち、ちぃーっす! お、俺!
蜜蜂? 大反乱? 何の話だろう。分からないがここは黙っておこう。
「おー、ヤリスんとこか。どうせ迷い込んだガキぃ相手に小銭稼ごうとしたんだろ? いい加減にしとけよ? 観客あっての闘士だろうがよ? そんなことだから三級に上がれねぇんだよ」
「なっ!? キサダーニさん俺のことをご存知で!? か、感激です! ありがとうございます!」
なーんだ。こいつ四級かよ。やっぱ見た目がごっつくても意味ないよなぁ。
「ついでに言っとくが、そいつは魔王だからな? 俺は知らんぞ。せいぜい謝るんだな。じゃあな。生きてたらヤリスによろしくな?」
「ちゃっす! かしこまりましたぁ! なっ、うへ? まおう? こいつがっすか? あ、キサダーニさん! キサダーニさぁーん!」
あーあ、行っちゃったよ。つーかこいつ初日での私の戦いぶりを見てないのかよ。一級闘士にだって勝つところだったんだぞ? さっきもキサダーニを瞬殺したってのに。
「じゃあな。今回はお互い様ってことで許してやるよ。」
「まぁてやぁ。お前みてぇなガキが魔王だぁ? いくらキサダーニさんの言葉でも信じらんねぇなぁ? ちったぁ魔王らしいとこぉ見せてみろやぁ!」
『麻痺』
口もきけないようにしてやった。呼吸はできるけどね。
「お前がキサダーニの言うことを信じなかったってあいつに伝えておいてやるよ。じゃあな。」
かろうじて絶望的な表情を見せる。ギリギリそれぐらいは動くのか。完全なるザコでもないのね。
あっ、色々質問しようと思ってたのに。まあいいか。またにしよう。
それにしても二十億ナラーか。いやー儲けた儲けた。
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