1463話 魔法のみ部門 一回戦第一試合

四日目。今日は魔法のみ部門だ。周囲にいるのはあまり魔法使いらしい奴らではない。三角帽子に黒ローブ、そして長い杖なんて奴は一人もいない。


『皆さん元気ですか! 豊穣祭もいよいよ四日目です! 今日も張り切っていきましょう! さあ! 堅苦しい挨拶はなしです! いきなり始めますよ! 一回戦第一試合! 一人目はローランドの魔王ことカース・マーティン選手!

二人目は天都イカルガの五等星冒険者、乱魔キサダーニこと! キサダーニ・ロブ選手!

いきなりのビッグカードです! これもう決勝戦じゃないですか!? こんな組み合わせにしたのは誰だぁーー! あ、もしかしてデメテーラ様ですか!? ごめんなさい!』


二つ名持ちの五等星か。 ヒイズルで五等星だからってアステロイドさんやバーンズさんと同じレベルとは思えないけどな。ちっ、歓声がうるさいな。こいつへの賞賛と、私への罵倒か……素手部門ではぬるい戦い方をしてしまったからな。まあいいさ、どいつもこいつも黙らせてやるよ。


「よう、お前魔王って呼ばれてんだってな?」


こいつがキサダーニか。お前の立ち位置はあっちだろ。何の用だ?


「ああ、それがどうした?」


「お前に勝ったら俺が魔王でいいだろ?」


「そりゃ構わんが、こっちはお前に勝っても乱魔なんて呼ばれたくないぞ?」


乱魔王? ゴロが悪いぞ。


「ぶはっ、お前すげぇなぁ。もしかして自分は無敵だとでも思ってんじゃねぇのか?」


「ははっ、そんなわけないだろ。俺より強い者なんて数人はいるさ。」


そもそも強ければ無敵ってわけじゃないしね。


「数人しかいねぇのかよ。ぶはっ、楽しみだぜおい?」


「せっかくだ。何か賭けるか? お前それなりに金持ってんだろ?」


なんてったって五等星だもんな。


「金でもいいけどよぉ。もっと熱くなることしようぜ?」


「熱くなること? 何だ?」


「簡単さぁ。この勝負をデスマッチに変更すんのさぁ。盛り上がるぜぇ? しかも勝った方はデメテーラ様の覚えもよくなるしよぉ?」


神の覚えがよくなる? そんなことがあるのか……だったら昨日までの殺さないような戦いは何だったんだって話だが……


「残念だが乗れねーな。まだ素直に金賭けてくれた方がいい。」


「なんだぁ? びびってんのかぁ?」


「いや、勝っても俺に得がない。神の祝福はもう間に合ってんだよ。」


「けっ、びびってんならそう言えや。ちっ、お前となら命を削り合うような熱い勝負ができると思ったのによぉ……」


「命か。金は命と同じぐらい価値があるとは思わないか? お前、全財産はいくらある? 全部賭けてみろよ。」


「あぁ? そんなもん二十億ナラーは超えてんぞ?」


これはびっくり。冒険者のくせにたんまり持ってやがるじゃないか。


「どうよ、二十億ナラー賭けるか? それなら受けてやるぞ?」


「ふーん。二十億と聞いて顔色ひとつ変えねぇんかよ。まあいっか。ちったぁ熱くなれるかも知んねぇしな。いいぜ?」


「よし、それなら約束だ。この勝負の勝敗に二十億ナラーを賭けるってことでいいな? 敗者はその場で支払うんだぜ?」


「へっ、構わんっぜっおおっととと。あらら、危ねえ危ねえ。今のは契約魔法か? 二十億程度の金でガタガタすんなよ。お前が勝ったらきっちり払ってやるさ。勝てるもんならなぁ?」


この野郎……どういう方法かは知らないが、私の契約魔法を防ぎやがった……

解呪したわけではない。契約魔法が発動し、こいつに取り憑こうとした瞬間になぜか霧散した。これは油断できない勝負になりそうだな……




『さぁ! お待たせしました! 注目の一回戦第一試合! 倍率は魔王選手が十二倍! 乱魔選手が一.一倍! やはり乱魔キサダーニの名前は絶大かぁーー!』


「どうよ? いくらローランド王国がでけぇからってお前まで大きくなったわけじゃねぇからよ?」


「どうよって言われてもな。やれば分かるんじゃないのか?」


観客はこの倍率にヒートアップしてやがる。ほとんどがこいつに賭けたってわけか。大損するぜ?


「けっ!」


『それでは! 両者位置について!』


十メイルほど離れた円の中。直径は一メイルってとこか。ここから出たら負けってことか。


『見合って見合って!』




『始め!』


『紫弾』


「ぐうっ! なっ、ばっ、そん、な……」


『は? え? も、もう? け、決ちゃくぅーー!? 乱魔選手が力なく倒れているぅぅーー! 勝者は魔王選手!? で、でも一体何が起こったんだぁぁーー!?』


ふふ、場内が静まり返ってるな。これは気分がいい。でもかなり疲れたぞ……やれやれ。

厄介な魔法を使われそうなもんだから、どんな魔法を使われようとも関係ないムラサキメタリックのライフル弾で一気に仕留めてやった。同時に四発、両肩と両大腿部を貫通している。こいつには二十億ナラーを払ってもらわないといけないからな。殺さないように気を使ったのだ。さて、弾を回収しておかないとな。

あー、本当に疲れた……あの弾を一気に四発って……魔力食いすぎ、制御に神経使いすぎだよ……頭は痛いしクラクラする……


『ちょいちょい! 魔王選手ちょい待ち! せ、説明をお願いします! 一体何をやったんですか!?』


『言うわけないだろ。それよりあいつを介抱しなくていいのか? 体に四ヶ所ほど穴が空いてるぞ?』


『はっ!? 治癒魔法使いさん! 急いでくださーい! かなりの流血です! でもデメテーラ様がお喜びかも!?』


ムラサキメタリックの紫弾は回収するのが面倒なんだよな。かと言って捨てるにはもったいないし。これがミスリルの魔弾なら相手を貫通した後も私のところへ戻ってこさせることもできるのだが。紫弾は本当に鉄砲玉だからな。まったく、厄介な金属だよ。


さてと、次の出番までまだまだ時間があるから……弾を拾ったら私も治癒魔法使いのところに行こう。取り立て取り立てっと。

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