1460話 素手部門決着

くそ……治癒魔法使いのジジイ、お前みたいな戦い方をする奴は治してやらんだと? ふざけんな! そんなのありかよ……

ムカつくなぁー。四日目はマジでもうめちゃくちゃやってやるからな?

あーあ、仕方ないからポーション飲もう。今日はすでに一本飲んでるからな。飲みたくなかったのに。降参した意味が半分なくなってしまったぞ。くっそー。


「いよぉ魔王。バカなことをしたもんだなぁ? 勝てたのによ?」


「いいんだよ。どうせ体はボロボロなんだからさ。次が誰でも勝てねえさ。」


「それにしてもソネラプラの蹴りをあれだけ受けて無傷たぁ信じられねぇ防御してんなぁ?」


無傷じゃねーよ。あちこち痛いんだよ。


「こいつはローランド最強の男から授かった籠手だからな。最強の籠手さ。」


なんせ加工するだけで一苦労だもんな。職人技ではなく、魔法工学の力だもんな。


「籠手だけじゃねぇだろ? なんだその服ぁよぉ? なんで肋やら折れてねぇんだよ?」


「ドラゴンの革製だからな。ムラサキメタリックでもそうそうは通さないだろうぜ。」


「ドラゴンだぁ? そんなもんどこにいるってんだよ……」


「いるんだよ。ローランド王国は広いからよ。ああ、もちろんこれは俺が自分で仕留めたドラゴンだぞ? 正確にはコバルトドラゴンだけどな。」


「知らねぇよ……」


ふふ、知らないよな。無知な奴め。


「まあいいや。お前もそろそろ出番か?」


「おおよ。俺ぁおめぇと違って一級闘士にも勝ったからよぉ? 次も勝つからな? まあ見とけやぁ!」


「ああ。」




結局ゴッゾはどうにか勝った。相手は元赤兜のマカ・ツボノチとか言ってたな。さすがに知らない奴、だよな? 赤兜といえばあの時の隊長はどうなったんだろうな。どうにかカゲキョー迷宮をクリアしたんだろうか? 名前は……サザール……そうだ、サザール・ナミクサだったか。ちょっと気になるな。




それから試合は進み、ついに……


『お待たせしました! いよいよ決勝戦です! 一人目は! 闇ギルド、蔓喰四天王の一人! 剛拳の異名で知られるゴッゾ・タム選手! 愚直な戦い方で満身創痍になりながらも! とうとう決勝の舞台まで登ってきましたぁー!

二人目は! 昨年も素手部門を制しました我らがご領主様! シュナイザー・アラカワ侯爵閣下です! ここまで圧倒的な強さで勝ち上がってこられました! さあ! 一体どんな戦いになるのか! みなさん! 張り切って賭けてくださいね!』


領主ねぇ……確かに強かったけど、そこまででもないよな。見た感じだと一級闘士の二人の方が強いな。装備のせいもあるんだろうな。高そうな籠手に脛当て、胸当てに胴巻、そして鉢金。ブーツもごっついしな。






『決着! 今年も素手部門を制したのは! 我らがご領主様でしたぁー! ゴッゾ選手もかなり食い下がりましたが! ついにご領主様の防御を抜くことはできませんでした! さて! 本来ならば今から表彰式を行うところですが! 表彰する側のご領主様が優勝されましたので省略とさせていただきます! それでは最後にご領主様から一言いただきます!』


さすがにゴッゾの奴は消耗が酷すぎだよな。装備も領主のに比べると安物っぽいし。そりゃあ勝てんわ。


『お前達! 今日は楽しんだようだな! 儂も満足しているぞ! 初日だけあって良い盛り上がりであった! きっとデメテーラ様もご満足されておられることだろう! お前達! 明日からも豊穣祭を楽しむがいい!』


あれだけもの試合をしたのに武舞台に血の跡がない。最初の首切りに比べたら大した流血はなかったが、それでも血は滴る。なのに、その血が全て消えている。まったく、血が好きな神だぜ……


さて、帰るか。客席で見ていてくれたアレク達と合流して。


「お待ちください」


ん? 誰だ? 執事っぽい服装だな。


「何か?」


「領主様が貴殿との会食を望んでおられます。お連れするよう仰せつかっております」


貴族と夕食って大抵ロクなことが起きないんだよなぁ……まあテンモカにもうしばらく滞在することだし無下にもできないか。


「いいだろう。連れがいるから少し待ってくれ。」


「そちらにも他の者が向かっておりますので、ご心配は無用です」


ふーん、私達のこともきっちりチェック済みかよ。さすがに抜かりないな。まあいい、せいぜい旨いものを食わせてもらうとするか。




「カース、お疲れ様! 見てたわよ! あの一級闘士を相手によく戦ったと思うわ! 凄かったんだから!」


「ありがと。さすがに素手ではキツかったよ。明日と明後日はのんびり見物だね。いやぁ疲れたよ。」


「今夜はしっかりマッサージしてあげるんだから!」


「うん! ありがと! 楽しみだよ!」


アレクがややハイテンションだな。負けはしたが私の戦いぶりに興奮したってとこか。やったぜ。


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


コーちゃんはよく頑張ったと褒めてくれたけど、カムイは厳しいなぁ。弱虫って言われちゃったよ。お前しばらく手洗いなしな。まったくもう。


おっと、そうだ。


「おーい、ゴッゾに言っといてくれよ。領主に呼ばれたから行くってさ。」


「あ、ああ……」


たまたま近くにいた蔓喰の奴に伝言だ。今夜ゴッゾと飲む約束をしてたわけではないけど一応ね。あいつは今ごろ治療中だろうね。シムも気になるけどまあいいや。




「どうぞ。お乗りくださいませ」


闘技場の外には馬車が待っていた。さて、どこに連れてってくれるのかねえ。

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