1459話 一級闘士の意地

蹴りに絶対の自信を持つ一級闘士か……

蹴りねえ……


「お前さ、ソネラプラって言ったか。なぜ闘士なんかやってんだ?」


とりあえず揺さぶる。


「知れたこと。このテンモカの地で最も稼げる職業だからに決まってる。ここはいい街さ。どんなに生まれが貧乏でも強ければ稼げるんだからな」


なんだ。めっちゃ普通じゃん。


「つまり稼げれば闘士じゃなくてもいいのか? 一回戦の奴は一億ナラーで負けてやると言ってたが、お前はいくらで負けてくれるんだ?」


「ふざけるな! そんな下衆な真似ができるか! この戦いはデメテーラ様もご覧になっておられるのだぞ! もういい! お喋りは終わりだ! 死ね!」


がっ、くっそ……たいして時間稼ぎもできなかったな……一応奥の手も仕込んであるがパンチの距離まで接近しなければ意味がない。あいつの蹴りの距離だとまだ遠い……ぐっ、蹴りは両手の籠手でどうにか防いでいるがタイミングをずらされる……そのため腕ごと頭部に衝撃が来やがるな……くっそ……


「意外にねばるな! だがもう止まらんぞ! このまま場外にまで蹴り飛ばしてくれる!」


防御されようが知ったことかと蹴りまくってきやがる……ごり押しかよ……スマートじゃないな……死ねって言ってたくせに。

いけるか……?


「ぶっ飛べ!」


やはり! 場外狙いのせいで蹴りが単調になりやがったな!? もらったぁ!


「なっ!?」


空中飛びつきアキレス腱固め! 本来なら肋骨数本と引き換えなんだろうが、私には関係ない。しかもさっきまでのジャブのような蹴りではなく、しっかりと体重の乗った蹴りだったからな。捕まえやすかったぞ。お喋りしてよかったな。


おらぁ! ぶち切れやがれ! 柔らかい金属なのが裏目に出たな! 珠鋼って言ったか。ほぉら切れ……ぐっう、顎を蹴られたか……痛ぇ……だが、その勢いで一気に後ろに倒れる!


「ぐああああああぃぁぁぁぉあああーーーー!」


切れたな。だがまだ離さんぞ? むしろ強く締める!


「降参しろ。二度と歩けなくなるぞ?」


治癒魔法使いの腕次第だけどね。このまま足首もぶち折ってやる。


「があぉぉああぃぁあぁーー!」


むっ!? ブーツから無理矢理足を抜きやがった!? いかん! すっぽ抜けた勢いで背中から倒れて……


「死ねええぇぇぇーーーー!」


がっ、ごほっ、マジか……馬乗り、両手で私の首を……ヤバい……


『おおーっと! ソネラプラ選手それはいけません! 明らかに殺しにかかってます! それはいけません! 警告です! しかし観客は熱狂しているぅぅーー!』


『殺せ! 殺せ!』

『やっちまえソネラプラぁ!』

『なぁにが魔王だぁ!』


うるせ……


『ソネラプラ選手警告ですよ! それ以上はおやめください! 反則負けにしますよ!』


『止めんなぁ!』

『やらせろや!』

『やったれソネラプラぁ!』


くそ……腕がちょいと痺れてやがる……あれだけ蹴りを受けたからか……こいつの腕が外せない……

腕がだめなら……足だ!


ソネラプラごとブリッジ気味に腰を跳ね上げて……乗られた位置をずらす! 腰から胸へと……よし! だが首を締める力は一段と増す……

今しかない! 自由になった足で……後頭部に爪先蹴りだ! 死ねや!


「ぐっ!?」


よぉし直撃! 手が抜けたぁ!


「げえっほ、げっほ、はあっ、はぁはぁ……ふうぅ……」


あー死ぬかと思った……

ドラゴンブーツの爪先は痛いだろ。なのにまだ立つのかよ。その右足もう動かないくせに。


「貴様などに一級闘士の誇りが……」


『そこまでです! この勝負『降参だ!』ソネ……は?』


『だから降参だって言ってんだろ。もう戦えないからな。』


『なんとまあ……どちらにしても今、拡声の魔法を使ってしまったので失格ですけど……勝者! ソネラプラ選手!』


「なっ、貴様……どういうつもりだ……」


「お前にそこまで苦戦した時点でこの先勝ち目がないのが見えたからな。本当はもう少し早く降参してもよかったんだが、やられっぱなしも悔しいからな。」


結局ポケットに仕込んだ奥の手は使わなかったが、一級のこいつにこれほどのダメージを与えたんだ。満足。

場内は歓声とブーイングでかなりうるさい。ソネラプラの勝利を喜びつつも、私が無傷で逃げきったことが不満なのだろう。そうそうお前らの都合になんか合わせてやるかってんだ。


「いい戦いだった。今なら分かる……貴様は勝つために最善を尽くしていたのだな……」


「まあ……それもあるが、生きてれば勝ちだしな。お前こそ中々やるじゃん。」


特注の首輪をしてなかったら首絞めでもっと早くやられてただろうしね。つくづく私の装備は反則だわ。

それにしてもこいつったら、終わったらコロっと態度が変わりやがったな。変な奴。


さぁーて。めちゃくちゃ蹴られまくったからな……治癒魔法使いに治してもらおう。見た目ほど無傷じゃないんだからな? シャツだって袖がかなり傷んだし。袖口に光るオニキスのカフリングスはどうやら無事だ。よかった。今となってはばあちゃんの形見だからな。

今思えば、試合中だけシャツの上に籠手を装備しておくべきだったな。お洒落さが仇になってしまったか。替えのシャツって残り少ないんだよな。


はぁ……疲れた……

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