1458話 カース VS 一級闘士
それからもゴッゾの愚行は続いた。いや、もっと酷い。真正面からバカ正直に大振りで殴りかかるもんだから、ゴッゾの拳にガオルンの右肘が刺さった。
「ちっ、痛ぇじゃねぇか。折れたなぁ。だがてめぇも道連れみてぇだな?」
「くっ……」
なんだそりゃ……
『おおーっとぉー! ゴッゾ選手の左拳を肘で迎え討ったガオルン選手でしたが! あれは脱臼でしょうか!? 肩が外れているうぅぅーー!』
めちゃくちゃだ……ゴッゾの拳にはどんだけ威力があるってんだ……
「おらぁまだまだいくぜぇ!」
「くっ……」
ゴッゾの奴、拳が折れてもお構いなしかよ……
右手で殴り、左手は振り回すように攻撃してやがる。対するガオルンの顔からは脂汗が滴っている。肩が外れたんだ。かなりの激痛だろうさ……それでも先程とは逆、左肘をゴッゾに向けつつ攻撃を往なしている。その技量自体は見事なものだが、痛みのせいか徐々に押されている。ゴッゾだって折れた拳が痛いだろうに……無視して振り回しやがって……
「おぉらぁ! もう後がねぇぜぇ!」
ついに武舞台の端まで追い詰められたガオルン。
「おらぁぶっ飛べやぁ!」
とどめとばかりに殴りかかるゴッゾ。
「バカが!」
おっ? ガオルンが……左肘をゴッゾに向けたまま急加速!? うっわ、ゴッゾの腹に見事に突き刺さってる! これ、やばいやつだろ!?
「がっふ、おごっ、ぐ……バカはてめぇだぁ!」
『おおーっとぉ! 起死回生のガオルン選手の肘が腹部にめり込んだにもかかわらず! ゴッゾ選手の勢いは止まらない! 血を吐きながらも前進をやめなぁーい!』
うわぁ……全力の一撃を繰り出したばかりのガオルンだ。避ける術はない。そのまま武舞台下に押し出されてしまった。ゴッゾの勝ちか。
それにしても場外勝ちなんてヌルい決着方法をよく神が許したな。血に飢えた神のくせに。
『決着です! ゴッゾ選手の勝利でーす!』
今のゴッゾなら私でも勝てそうだな。もっとも、私が三回戦を突破できたらの話だけどさ。
「お見事だったな。なかなかやるじゃん。」
「おおよ。これが男の勝ち方ってもんよぉ。ちったぁ参考にしやがれよなぁ?」
するわけないだろ。
「それよりお前、ポーション持ってんのか?」
「がふっ、ふぅ……持ってるに決まってんだろぉが。だが、飲む気ぁねぇぜ? 豊穣祭に出といてポーション飲むなんざ男じゃねぇからよぉ?」
私は飲んだけどね。こいつのこだわりは理解できないが、そんな奴だってことだろう。とんだ大バカ野郎だな。呼吸をするたびに血を吐いてるくせに。
『第四試合を始めます! 一人目は! ここまで危なげなく勝ち上がってきております! テンモカ闘技場が誇る一級闘士ソネラプラ! ここまで無傷です!
二人目は! お洒落な服装に反して汚い戦い方で勝ち上がってきた! ローランドの魔王こと! カース・マーティン! 三級、二級と下してきておりますが! ついに出くわした一級闘士! どうなることでしょう!? ちなみに賭け率は! ソネラプラ選手が一.二倍! 魔王選手が九倍です!』
ちっ、まあ仕方ないな。そもそも勝ち目がないんだからさ。でも悔しいな。少しぐらいはいいとこ見せてやりたいな。アレクが見てるんだからさ。
『ところで魔王選手! ご自分に賭けてみませんか!? 一億ナラーほど賭けていただければ倍率が二倍ぐらいになりますよ?』
賭けるわけないだろ。どうせ賭けるんなら百万とか倍率に影響がでない額で大穴狙うってんだ。放送席に向かって手で×を見せる。お前らからすれば儲けるチャンスだもんな。そうはいくかってんだ。
『賭けないのですね! 残念です! さあ、それでは始めます! 見合って見合って!』
『始め!』
ソネラプラはノーガードで悠々と近づいてくる。上半身は裸、籠手と脛当てぐらいは装備してるが。私相手にそこまで防御を固める必要はないってことか。舐めやがって……
「一つ質問だが、なぜこの素手部門に出場したんだ? 噂によると君は魔法が得意なんだろう?」
「ノリだよ。ゴッゾの奴がうるさくてな。」
「ほう? 神聖な豊穣祭にノリときたか。いいだろう。よく分かった。」
ぐっ!?
蹴りが……どうにかガードが間に合ったが、吹っ飛ばされた……
「よく防御したものだ。そしてその籠手。恐ろしい材質だな。だが、タイミングさえ外せば俺の足が折れることなどない。こんな風にな?」
くっそ……両手でがっちりガードしてんのに……エルダーエボニーエントの籠手の上から激しく蹴ってるくせに……その足は無事かよ……
「ふぅ、はぁ……いいブーツ履いてんじゃないか。爪先に金属まで仕込んでよ? そりゃあ何て金属だ?」
爪先だけじゃない。脛当てとブーツで二重に脛を守ってやがる。そんなに蹴り技にこだわってるってのか? そういえば一回戦でもシムを仕留めたのは前蹴りだったな。
「ほう? いい気付きだ。これは
ぐうぅっ! 確かに重い蹴りだ……柔らかいなんて言ってるくせに、命中の瞬間は金属らしく硬いってわけか……でも本質は柔らかいから私の籠手を蹴っても折れることはない……のか?
『やはりすごおおおおーーい! 一級闘士ソネラプラ選手の蹴撃の前に! さしもの魔王選手も防戦一方だ! 風の前の塵のごとく! ころころと蹴り飛ばされているぅーー!』
「次、顔を蹴るからな」
「ぐっうぉっ……」
くそ……本当に顔を狙いやがった……もちろんガードしたけど……
「よく防御できたもんだ。次、腹を蹴るぞ?」
チャンス!
だったのに……
「一撃くらいながら俺の足を掴もうったって無駄無駄。そんなノロい蹴りじゃないんだからさ」
クソが……まるでジャブみたいに鋭い蹴りだった。腹にくらいながら掴もうとしたが、てんで追いつかない……だが、誤算だったろ? 思ったほど私にダメージがなくてさ?
「そんなら次、足を蹴るぞ?」
ローキックか? それなら気にすることはな……くっそが! ピンポイントで膝横にぶち当てやがった……
やばい……どうにか折れてはないが膝へのダメージが……ドラゴンの革製トラウザーズだけど、関節への攻撃には弱いんだよ……さすがに戦い慣れてる奴は違うな……
くっそ……
素手部門だから別に負けても構わないが……まだ負けたくない! どうする……
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