1456話 豊穣祭二回戦
それから出番がきたゴッゾも危なげなく勝っていた。相手から殴られることなど意にも介さず、ただ殴るだけ。剛拳か……やるなぁ。
『一回戦の全試合が終了しました! それではこのまま二回戦を行います! 第一試合! 一人目は! ローランドの魔王カース・マーティン選手! やり過ぎにご注意ください!
二人目は闘技場が誇る最年少二級闘士! シーラ選手! 体は細くとも二級は伊達じゃない! なぜか防御をすり抜ける打撃でここまで登ってきましたぁーー!』
美少年だな。私と同い歳ぐらいか? どことなく用心棒貴族のジーンを思い出すな。あいつには悪いことをしたが、私が相手をしてやれるわけでもなし。むしろ父上がうまくやってくれてありがたいってものだ。
でも、いくらジーンに似てるからって
『用意はいいですね? 見合って見合って!』
『始め!』
うおっ? 危なっ、もう間合いを詰めてきやがった。さすがに縮地ほどではないが警戒しててよかっ、うぐっ……
くそ、マジか……ガードをすり抜けて顎や耳の下を的確に打ってきやがる……やばい……
『いったぁー! シーラ選手の得意技『
違うよ……
「甘いな」
ぐぅあっ!
くっそ……倒れるふりして足首を掴んでやろうとしたら……ガラ空きになった顔面を蹴られてしまった。しかもそのまま間合いを開けやがった……
こりゃだめだ……技術的にはどうにもならん……レベルが違いすぎる。これが二級闘士か……
『何やら仕掛けた魔王選手でしたが! シーラ選手はするりと躱して間合いをとったぁー! なんと華麗な動きでしょう! さながら深山に舞う極彩蝶のごとく! しかし、攻撃に転ずれば!
「まだやるかい?」
「当たり前だろ。あのぐらいで勝った気か?」
普段なら私がよく言う言葉なんだけどなぁ……困った……勝てる気がしない。あぁ……顔が痛い……骨は折れてそうにないが、あちこち切れてるよ……
痛い……
「ふっ、では行くぞ?」
こうなったら……
「なんだそれは? 諦めたのかい?」
両手を広げてノーガード。どこでも打ってこいの構えだ。
鼻面にジャブ……痛い……が、まだだ。鼻血が出るほどじゃない。涙は滲むけど……
次、目に……くらうかよ……
でも……
「ぐああああぁぁぁーーー!」
『おおーっと! どうやらシーラ選手の振り抜いた指が魔王選手の目を掠めたようだぁーー! 両手で目を覆い苦しんでいるぅーー! 魔王選手! 降参するなら地面を手の平で三回叩いてください!』
地面をのたうち回りながら……近寄る……
シーラが私の背中を蹴った……そこか……
「があああぃああーー! 痛ぇよぉぉーー!」
「ふっ、大人しく降参すればいいものを。やむを得ぬ。トドメといこう。」
ここだ!
私を踏みつけるべく片足を上げたシーラ。その逆、軸足に転げながらしがみつく! よし! 倒した! もうこっちのもんだ! 襟を掴んで引き寄せて、上をとった! さらに襟を引っ張り、首を露出させる……その首もらったぜ!
「きゃああああああああいやああああああああーーーー!」
『待ってください! 勝負あり! そこまでです! 魔王選手離れてください!』
「ぺっ……」
人肉を食う趣味はないからな。
『治癒魔法使いさん! 早く! 早くシーラ選手を! 危険です! 魔王選手警告です! 次に同じことをした場合は失格とします!』
場内はシーンと静まり返っている。変だな? こいつらは血に飢えた観客のはずだが? ちょっと首筋を噛み切っただけなのに。最初の儀式の方がよっぽど酷かったぞ?
『それはそうと魔王選手! 少し解説が欲しいです! もしかして目は無事なのですか?』
『ああ、運良くな。』
私だって顔のあちこちが痛いんだよ。早く治療してくれよな。
『それにしてもあのように転がり回っていながらシーラ選手の居場所をしっかりと把握していたようですが?』
『偶然だ。最後の賭けだったんだよ。ああするしか勝ち目がなかった。シーラ選手は素晴らしい選手だからな。まともにやっては勝てない。だから万に一つの可能性を掴むべく、無様でもいいから足掻いたんだ。そうしたら、幸運にもシーラ選手の足に取り付くことができた。たぶんそれはデメテーラ様のおかげでもあるんだと思う。みんな! シーラ選手に拍手をしてやってくれ! 彼は素晴らしい闘士だ!』
実は心眼だけどね。私だって位置ぐらいならどうにか分かる。
あれ? ここは一気にどかーんと拍手が起こる場面じゃないのか? 勝者たる私が敗者であるシーラを称えてるんだぞ? それどころか、拍手に混じって失笑まで聴こえる。なぜ?
『あのー魔王選手はご存知なかったようですが、シーラ選手は女性です。つまり魔王選手は女性の首に噛み付いた変態野郎です。とりあえず警告
バカかこいつら? 見せ物の試合やってるくせに男も女もないだろうが? 実際男女の部に分かれてるわけでもないんだから。それにしても明文化されてないルールが後から後から出てきやがるな。神事だからか? 見せ物だろ? ったく……気取りやがって。
「よぉー魔王ぉ、えれぇ無様な戦いだったじゃねぇか。女ごときを相手によ?」
「あ? 女ごとき? どういう意味だ?」
「そのまんまだぁ。爪で引っ掻くだぁ、噛み付くだぁ、女みてぇな戦いしやがってよぉ。しかも相手ぁ女ときたもんだ。男らしい戦いを見せてみろや?」
この野郎……ゴッゾのくせに。
「勝てばいいんだよ。勝てば国軍って言葉を知らんのか? そんなことだからお前はまだ三位なんじゃないのか?」
カドーデラなら勝つためには何でもするぜ? って言おうとして思いとどまった。あいつは勝ち方にもこだわる奴だったもんな。わざわざ私に刀を返すほど。
「へっ、俺ぁ蔓喰四天王だからよぉ。男を売って生きてんのよぉ。勝てばいいなんて無様ぁ晒す気ぁねぇなぁ?」
この野郎……弱った女をいたぶるのが好きな外道のくせに。どの口が言うかな。だが、客席の反応からするとゴッゾの言うことが正しいらしい。こいつら揃いも揃ってなんて差別主義者どもなんだ。ゴモリエールさんにぶん殴られてしまえ。今日のところは勘弁してやるけど、四日目と五日目、ついでに最終日で目にもの見せてやるからな?
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