1455話 カース VS 三級闘士ボザール

それから淡々と試合は続き、いよいよ私の出番となった。


『一回戦第二十三試合を始めます! 一人目は! 三級闘士ボザール選手! 今年に入って未だ無敗! この勢いで二級昇格を目指しております!

対するは! 先ほど一億ナラーを賭けてあっさり負けたお大尽! しかし何という服装で参加しているんだぁー! ここはダンス会場ではないんだぞぉカース・マーティン選手!』


服装は自由だもんな。それよりこの司会には私の装備の反則さが分からないのか。節穴め。こんなにお洒落でかっこいいのに。


「きひっ、おめぇ一億損したくせにこたえてねぇなぁ? どうよ、俺に一億払ったら負けてやんぜ?」


これは驚いた。公衆の面前で八百長の相談とはな。つまり私達の会話は観客には聴こえてないってことか。さっきまでの対戦でもそうだったしね。


「手持ちはないな。後で払うから負けてくれよ。」


「きひひっ、商談成立だぁ。開始から一分経ったら右、左、右と殴るから三発目に上手く合わせろや。派手に吹っ飛んでやるからよ?」


「分かった。上手くやれよ?」


「きひひひっ」


『さあ! さくさく始めますよ! それでは見合って見合って!』




『始め!』


「おらぁいくぜ! うまくかわせやぁ!」


真正面から勢いに乗ったままぶん殴ってきた。それを私は籠手で受けた。さすがに衝撃がすごいな。少し動かされてしまったぞ。


「ぐがぁっ、お、おめぇ……何を……」


ふふ、拳どころか手首まで折れたか? あーあ、そんなに隙だらけでいいのかねぇ。悠々と歩いて距離を詰める私。


「ほれ、左手は無事だろ? もう一回殴ってこいよ?」


「なめんなぁーー!」


さすがに挑発には乗らなかったか。ローキックを放ってくるとは。でも……


「がふっ!」


全く無視だ。ローキックをくらいながら顎に一撃、人の顎って固いからあんまり殴りたくないんだよな。私の拳はヤワだから。でもチャンス! よろけたこいつの頭を両手で挟んで……そのまま地面に……倒し込む! よし、終わったな。でもトドメは忘れずに、頭を蹴り飛ばしておく。


『け、決ちぁーーく! なんと! 大穴が出ましたぁーー! まさかのカース選手勝利で倍率十二倍! なんと! 先ほど入ってきた情報によりますと! このカース・マーティン選手こそが! 最近ヒイズルを騒がせている『ローランドの魔王』その人だそうです! 恐るべき魔力を持つ危険人物として噂されておりますが! 素手でも強かったぁぁーー! 三級闘士ボザール選手がいともたやすく屠られてしまったぁぁーー! あ、最後の蹴りは警告の対象ですよ! 次からはご注意くださいね!』


へー。そんな風に思われてたのか。最後の蹴り……トドメはダメなのか? それとも殺してはいけないルールに抵触した感じかな? 後頭部からべっこり地面に叩きつけてやったもんな。それにしてもバカな奴だったな。負ける気なんか少しもないくせに八百長を持ちかけてきやがって。あいつの言う通りの試合運びをしてたら、いいようにやられた上に負けてたんだろうな。

試合後に文句をつけても「三級闘士の俺が神聖な豊穣祭でそんな卑怯な真似するかよ」とか何とか言って逃げそうだもんな。逆に後で私に「負けてやったんだから一億払え」とは言ってきそうだな。そんな元気があればの話だが。


『あっと、待ってください魔王選手! 少し話を聞かせてください!』


なんだよ? しかも魔王選手って……


『ありがとうございます! オワダではエチゴヤの第三番頭ラウミ・アガノを含む深紫ディパープルを全滅させたそうですが真相はどうなんでしょうか!?』


それって今聞くことか? しかもインタビュアーがいない。つまり私に自前で拡声を使って返事をしろってことかよ。サービス悪いな。


『番頭の名前は忘れたがそんな感じの名前だったと思う。深紫は全滅ではないな。お目溢ししてやった奴も多いと思うぞ。』


『つまり! エチゴヤなんか敵ではないと?』


どこが「つまり」だよ。文脈が繋がらねぇよ!


『知らんな。やってみないと分からんだろ。』


『分かりました! ではテンモカに来た理由ですが、ローランド王国から拐われてきた者を救うべく、新国王が遣わせた刺客だとの噂がありますが?』


公衆の面前で聞く質問じゃないだろ……


『半分本当だ。ちょうどいいから言っておくぞ。ローランドに帰りたい者は言ってこい。必ず助けてやる。それから! ローランドの者の歯を抜くとか足の腱を切るとか、舐めた真似してみろ? 必ず同じ目にあわせるからな? それが嫌なら先にローランド人奴隷を差し出して詫び入れろ! それなら許してやってもいい! 分かったか!』


うーん、ブーイングが酷いな。こいつら全員焼き捨ててやろうか?


『静かに! お静かにお願いします! 半分本当とはどういうことでしょうか?』


『今の国王であらせられるクレナウッド陛下からは何の命令も受けてないってことだ。俺はヒイズルに物見遊山に来たんだよ。それなのにエチゴヤが舐めた真似しやがるから、仕方なく相手してんだ。分かったか? 俺は暴れる気はない。だから素直にローランド人奴隷を解放しろ! 分かったな?』


『分っかりましたぁー! たぶんご領主様も聴いておられるはずですので伝わったと思います! それではローランドの魔王こと! カース・マーティン選手でしたぁー! 拍手でお送りください!』


ちっ、今度はしーんとしやがった。拍手しろや!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る