1454話 豊穣祭一回戦

人間一人の血の量なんてたかが知れてる……が、だからって消えてなくなるか? 撒き散らされた血が、もう消えてなくなってる……

神が吸ったとでも言うのか? これが豊穣祭か……


『さあ今年も今のところデメテーラ様にはご満足いただけているようです! この調子でどんどん血を捧げていきましょう! それではさっそく! 一回戦第一試合を始めます!』


司会の姉ちゃんの声は『拡声』の魔法か、それとも魔道具か。どっちなんだろうなぁ。一日中拡声の魔法を使うのは大変だろうからやっぱ魔道具なんだろうなぁ。

うちのおじいちゃんはどんな魔法を使ったのかは知らないが、対戦する二人の声を全員が聴けるようにしていた。果たしてこの闘技場でも同じことができるのだろうか?


『一回戦第一試合は一級闘士が出るのが豊穣祭の慣わし! 対戦相手には不幸なことですが仕方ありません!

一人目は! 一級闘士ソネラプラ! 皆さんご存知! 昨年の豊穣祭では素手部門の準優勝者ながらも! 七日目の総合優勝者決定戦では最初の脱落者! 今年こそはと燃えております!

対するは!

シム・サキバル! なんと十一歳! 東はギマチ村の村長メイザン・サキバルの長男でーす! 一応断っておきますけど対戦は厳正なるクジによって決められてますからね! 何の作為もありません!』


いきなりシムかよ。クジって、私は引いてないぞ? つまり関係者が引いて適当に決めてるって感じか? イジり放題じゃん。あ、でもデメテーラの目があるから不正はしないのかな? 神に捧げる祭だもんな。


『おおーっと! シム少年! 素晴らしい眼光だぁー! ソネラプラ選手をギラギラと睨みつけているぅー! 対するソネラプラ選手は淡々と体をほぐしているぞー!』


酷いな……一級闘士ってことはこの闘技場でも最強格なんだろ? それが農村の子供と戦うって……しかもこの祭の目的は……

なぜ参加したんだよシム……


「おいゴッゾ、なぜシムを参加させた?」


「あ? そんなもんガキが出てぇって言ったからに決まってんだろ?」


「やっぱそうかよ……」


バカが……


『なお! この試合の賭けが無効になりかけています! 皆さんが見て分かる通り! 賭けになりません! 一万ナラー賭けても一万三ナラーにすらなりません! どなたかシム少年に賭けるお大尽はいませんか!』


いるわけないだろ……

むしろ一万二ナラーぐらいにはなるってことは少しはシムに賭けた奴もいるのかよ……


「俺ぁシムに三万賭けたぜぇ?」


ゴッゾがドヤ顔をして言ってくる。こいつはバカだから仕方ない。


『いませんか? そろそろ締め切りますよ? もしも! シム少年が勝った場合は! 払い戻しが凄いことになりますよ!?』


勝つわけないだろ……


ん? 今、自動防御が反応したぞ? 誰かが私に魔法を撃ち込んできた? 誰が? どこから?

ぬっ、まただ。氷弾が二発……まさかアレクが? ならば何の用だ? はっ、もしかして!?


『アレク? もしかしてシムに賭けろって言いたいの? そうなら一発だけ氷弾を撃って』


伝言つてごと』をアレクに送る。ここのように人間が大勢いる時に伝言を送るのって大変なんだぞ……


来た! 一発! なるほど……

アレクとしては可愛がってるシムがこんな状況なのが許せないってことか。まったくアレクったら。でもアレクの頼みなら何でも聞くに決まってる。


『一億だ! シムに一億ナラー賭けてやる! 係の者はここまで金を取りに来い!』


拡声の魔法を使ってやった。今回の目的の一つに私の名前を売ることもあるし、まあ一億ぐらい投資してもいいだろう。


『おおっとーー! なんと選手のようです! 豊穣祭に参加している選手から声があがりました! しかし聞き間違いでしょうか!? 一億ナラーと言ったようでしたが!?』


『一億ナラー賭けてやるよ! さっさと取りに来い!』


『間違いではありませーん! 確かに一億ナラーと言っています! お待ちください! すぐに係が参りますので!』


やれやれ。残りの現金は少ないってのに。


「魔王おめぇ正気か?」


「お前に言われたくないぞ。ちょっとうちのお嬢様の気まぐれでな。お前だってシムの勝ちに賭けてんだろ?」


「そりゃそうだけどよぉ……ソネラプラぁ強えぞ?」


そんなことぐらい分かってんだよ……


あ、係が来た。


「ほれ、持ってけ。」


白金大判を一枚。どうせエチゴヤからゲットした金だしね。係員は少し戸惑ったようだが私に木札を渡して去っていった。さぁて、これでオッズにどう変化が出るか楽しみだな。




『お待たせいたしました! あの選手は本当に一億ナラー賭けてくれちゃいました! その結果! ソネラプラ選手が勝ったら二.五倍! シム少年が勝ったら一.三倍となってしまいましたぁぁぁーーー! よって! ここでもう一度時間を取ります! 皆さんまだまだ買いたいでしょお!? 待ちますとも! 存分に賭けてください!』


あらら、倍率が逆転しちゃったよ。一億はやりすぎたか。この闘技場の観客がざっと二千人として、掛け率的にはソネラプラに総額五千万ナラーぐらいか? 初戦から財布の紐がゆるゆるじゃん。




「お待たせいたしました! 色々あった結果! ソネラプラ選手一.八倍! シム少年が二.四倍となりましたー! さあ! いよいよ始めますよ! 見合って見合って!』




『始め!』


勝負は十秒とかからず終わった。そりゃそうだ。

猛進するシムにソネラプラの前蹴り一発。宙に三メイルは浮かび上がったシムをソネラプラが優しく受け止めて終わり。

本来ならトドメを刺したりもっと流血するように戦うのだろうが、さすがに相手が弱すぎるせいで手加減せずにはいられなかったんだろうな。闘士って意外とまともなんだな。


あーあ、一億ナラー損した。これはアレクにお仕置きだな。

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