1449話 テンモカのアラカワ闘技場

結局部屋の空きがなかったので、あの三人は私達の部屋に泊めてやった。アレクがめちゃくちゃ不満そうだったが、どうせまだ禁欲中なんだしね。

まあここは広いし、シムと同じ部屋で雑魚寝すればいいだろう。ちなみにシムはかなり走ったようで、もうぐったりしていた。カムイによると狼ごっこの才能はないそうだ。だめだね。走り込みが足らんな。


さあ、不満そうなアレクを優しく抱きしめて今夜は眠ろう。こんな禁欲もいいスパイスになるんだぜ? おやすみハニー。




ふあぁ……うん……よく寝た……

朝か……


ん? 隣にアレクがいない。

抱きしめて寝たはずなのに。トイレかな。私も行こう……


いなかった。ならば風呂か。

私も朝寝朝酒朝湯が大好きだ。ならばアレクが風呂に入っているのももっともだ。ああもっともだ。


「アーレクー。入ってるー?」


あれ? ドアが開かない。ここのドアには鍵なんかないのに……

つまり、アレクが向こう側から何かで押さえてるってことか? バカな……

アレクが私が立ち入ることを拒否しているとでも言うのか? ま、まさかそんな……


落ち着こう。落ち着いてアレクに伝言つけごとを使おう。


『アレク、浴室にいるの? ドアが開かないみたいだけど』


あ、中にいるみたい。何か急にドタバタしてるな。大丈夫か? 風呂は滑りやすいからな。


「お、おはようカース!」


ドアが開いて全裸のアレクが現れた。朝から眼福だね。全裸なのはお互い様だけど。


「おはよ。ドアが開かなかったけど、どうかしたの?」


「そ、それは、その、カースがいない間にあの子達が入ってこないようにと思って……」


よそ見をしながらそう答えたアレク。そうか。そりゃそうだ。しかも一人はオッさんなんだしな。もしアレクにラッキースケベでも起こそうもんなら死刑だしね。

まあそれならそれで脱衣所の方を開かないようにしておけばよかったのに。アレクったら慌てん坊だなあ。


そんなことより朝湯だ朝湯。




うーむ、私も禁欲が辛くなってきたな。そろそろやめようかな。かわいいアレクを目の前にして我慢するなんて体によくない。よし、今夜で禁欲終わりにしよう。アレクにいつまでも我慢させるのは可哀想だもんね。


さて、朝食が済んだら早速闘技場とやらに行ってみよう。シムやオッさん達にはカムイと運動をするよう命令しておいた。意味があるかどうかは分からんが、どうせ暇だろ? 客室係には一番安い部屋をとるよう頼んでおいたし。これで今夜はアレクと二人っきりでフィーバーできるってものだ。


闘技場は街外れなので少々遠かった。客室係からは馬車を用意すると言われたが、当然断った。アレクと歩く時間もデートのうちだからな。


おっ、見えてきた。へー、まあまあ大きいじゃん。でもフランティア領都のやつほどではないかな。あっちは五千人入れるんだったか。窓口はあっち側ね。



「今日は何かやってんの?」


「らっしゃい。もうすぐ今日の第一試合が始まるよ。初戦だから新人同士の対戦だけど、たまぁーに原石が見つかるのが見どころってもんさ。入場は一律三百ナラーだよ」


安っ。見て楽しむだけならそんなに金を使わなくて済む娯楽だな。


「入ってみようか。」


「いいわよ。」


「へい毎度ー」


二人で六百ナラー。この額を払ったのが新鮮に感じるなんて……いかんな。金銭感覚が狂ってるぞ……




『紳士淑女の皆々様! 本日もテンモカ名物アラカワ闘技場へようこそ! さっそく第一試合を始めるぜぇー!

一人目は! 朝の暇な時間を利用して小銭を稼ぎたい! 普段は満根楼の下働き! 今日から闘士デビュー! 十二歳の少年クラボ君!

対するは! やはり本日が闘士デビュー! 細身のクラボ君と違ってがっちり体型! 冒険者としても活動中の十四歳! パーカー君だぁー!』


見た感じだとパーカー君の圧倒的有利なんだけどなぁ。魔力的には誤差程度しか違わないし。そうなると後は装備の差かな?


『なお本日はステゴロデーのため二人には素手で戦っていただくぜ! 当然魔法の使用は禁止! 服装は自由だぜぇー!』


服装が自由なら私でも勝てるな。素手の殴り合いなんかやる気はないけど。


『さあー! 今のところ賭け率はクラボ君四倍、パーカー君が一.三倍だぁー! クラボ君に賭ける勇者はいないかぁーー!?』


賭けてもいいけど勝っても負けてもしょぼいんだよな。ここで百万ナラーなんて賭けたらオッズが酷いことになりそうだし。ここは純粋に勝負を楽しむとしよう。それも闘技場の楽しみ方だよな。




『賭けを締め切りましたぁー! それでは間もなく勝負を始めます! 二人とも用意はいいか!? だめだと言っても始めるぞ!? 見合って見合って!』




『始め!』


勝負は瞬殺でパーカー君が勝った。当たり前だよなぁ……

クラボ君は始まる時までは自信満々な顔してたのに。これには観客もブーイングを飛ばすほどだった。十秒もかかってないんだから。




「こんな結果の見えた勝負させて面白いのかしらね?」


「だよね……」


アレクが言うのももっともだ。

そこら辺の奴の話を聞いてみるに、初戦は新人同士であることが多いため当たり外れが激しいらしい。それでも上に行くような奴は初戦から光るものがあるとか。自称玄人のオッさんはそう言っていた。ついでだから聞いてみるかな。


「来週から豊穣祭ってのが始まるそうだな。色んな部門があるって聞いたけど、何があるんだ?」


「おっ? さては兄ちゃんテンモカに来たばっかだな? よぉーし、おいちゃんが教えちゃるけえな! まずは初日だ! やっぱ初日だけあってデメテーラ様に捧げるためのステゴロ部門だなぁ!」


あー、土と豊穣の神デメテーラか。やっぱ普通に神がいるだけあって国が違っても神は同じか。そりゃそうだ。だっているんだもんな。

それよりなぜステゴロならデメテーラに捧げることになるんだ? あの神はそんなに血が好きなのか? それとも野郎同士の殴り合いが好きなのか? 分からんなぁ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る