1448話 テンモカの豊穣祭
酒は旨かった。
料理も美味かった。
「そういえば君達は豊穣祭には出場しないのかい?」
「豊穣祭? って何?」
何かの祭りか? 収穫の秋だもんなぁ。
「今年の収穫を神に感謝して戦う祭りだよ。闘技場の闘士達が一年で最も張り切る祭りでもあるね。闘士達の血を神に捧げる意味もあるよ。」
ほう。闘技場まであるのか。そりゃフランティアにも王都にもあるけどさ。
「もしかして闘技場って豊穣祭以外でも闘士が戦うのが見世物になってる感じ?」
「もちろんさ。テンモカでのし上がるには女は娼館、男は闘技場が一番さ。娼館でのし上がる男や闘技場でのし上がる女もいるみたいだけどね。」
なるほどねぇ。いずれにしても体を張って出世するってわけだね。
「で、それで優勝したら何が貰えるんだ?」
「農作物がたっぷり貰えるよ。米、野菜、酒、醤油、味噌とかね。他には海塩やワサビってとこかな。大抵の優勝者は売っぱらっちゃうけどね。あと戦いぶりによっては神の祝福が貰えることもあるそうだよ?」
出た。神の祝福。なんかヒイズルってやたら神が身近じゃない? ローランドだとやたらハードル高いのにさあ。なんかずるいよなあ。でも悪くないな。神の祝福はともかくとして農作物がたんまり貰えるのは嬉しい。
「それはいつある? 今から受付して間に合うものか?」
「来週の月曜日からだね。一週間ぶっ通しのお祭りだよ。」
おお、ヒイズルでは月曜日って言うのか。なんだかすごく感動する。妙に嬉しいな。
「ところで今日は何月何日? 日付なんて気にせず遊んでるもんでな。」
「ああ、十一月八日の金曜日だよ。十一日の月曜日から豊穣祭が始まるからね。どの部門に出場するか受付でよく話を聞いてみるといいよ。」
ほほう。色んな部門があるのか。それは楽しそうだな。わくわくだね。そして、やはり私の誕生日は過ぎていた。つまり私はセブンティーン。
「もちろん金を賭けることもあるんだよな?」
「当然だね。出場するよね? 僕は君に賭けるつもりだからさ。期待してるよ。」
「賭けるのは自由だけど負けても知らんぞ?」
「ははっ、どの口が言うかな。ところで僕も出場するんだよね。もし当たったらお手柔らかに頼むよ?」
マジかよ……やるねぇ。
「どの部門に出るんだ?」
「魔法のみ部門さ。これでも魔力は高い方だからね。もっとも、姫にすら遠く及ばない程度だけどさ。まったく、嫌になっちゃうよ。」
「それが分かるだけ大したものね。それなら私も出場してみようかしら。」
魔法のみ部門か。どんな部門なんだろうな。まあ何にしても面白くなってきた。ここで私やアレクが優勝して名前を売れば、さらにローランド人を助けやすくなるに違いない。明日さっそく受付しに行こう。
さて、そろそろ帰ろうかね。
「おっと、待ってくれ。お土産を渡す約束だったよね。」
あー、何か言ってたな。
「この子達でどうだい?」
「ん? 奴隷か? いらんぞ?」
奴隷を土産って……引くわー。
「いやいや、この子達はローランド人だよ? たまたまうちの配下にいたからさ。貰っておくれよ。」
「ふーん……それならありがたく貰っておくけどさ……」
「さあ、新しいご主人様に挨拶するといいよ。」
ご主人様じゃねえってんだ。
「ノーラです……ハバン出身です……」
「ハッシュです。僕もハバン出身です」
「ボイズです。サヌミチアニ出身です……」
十代の男女に五十前のオッさんかよ。それにしても港町ハバンから拐われてる奴って結構多いよな。やっぱあそこは拐いやすいんだろうか。拐った後にアブハイン川を下ればすぐにラフォートやバンダルゴウだもんな。
それにしてもこのオッさんはサヌミチアニ出身かよ。バンダルゴウの真反対じゃん。ツイてないなぁ。
「近いうちにオワダからバンダルゴウへ船が出るから。それに乗れるようにしてやるよ。」
今夜の宿はどうしよう。嫌なタイミングで引き渡してくれたもんだな……
宿へは馬車で帰った。私達は三人と同乗だ。こいつらは奴隷にしては身ぎれいにしていたが、まだ甘い。すぐに浄化を使ってやった。
それから話を聞いてみると、ハバンの二人は普通に拐われただけだが、サヌミチアニのオッさんは自分からヒイズルに来たらしい。仲間達と一旗あげようとしていたのだがエチゴヤと揉めてあっさり敗北。そして売られてしまったと。もちろん仲間ともバラバラになってしまったのね。あーあ、可哀想に。
「あのー、マーティンって言うともしかして好色騎士アランと関係あったり……」
オッさんが話しかけてきた。
「おお、父上を知ってんのか。俺は三男だよ。」
「三男!? そうですかい……相変わらずってわけですかい……」
その言い方だと父上は昔からあれこれやらかしてたって感じだな。どうでもいいけど。いやむしろ誇らしい。騎士になる前から好色騎士と呼ばれ、騎士を辞めても好色騎士と呼ばれる父上が。
「アランの生まれはご存知なんで?」
『風斬』
「次、呼び捨てにしたら首から上が軽くなるぞ? マーティン卿と呼びな。」
一度は許すさ。だから髪しか切ってない。
「ひっ、ひひぃ……」
「で、父上の生まれか? 鉱山都市だったか。それがどうした?」
「い、いえ……何でもありま……せん……」
何だこいつ? 思わせぶりだな。
そもそも父上は言わないが知ってるんだよ。平民より下だって……そんなもん奴隷しかないだろうよ。調べたわけじゃあないが、父上ほどの有名人だ。耳に入らないわけないってんだ。だが父上が言わない以上私も聞く気はない。
だが奴隷階級がどうやったら上級貴族ゼマティス家の母上と結婚できるんだよ。噂じゃあ現国王のクレナウッド陛下を袖にしてまで父上を選んだとか。そういった意味では気になるが、敢えて聞く気はない。そのうち酔った父上が話してくれるだろうさ。
さて、沈まぬ夕日亭に着いた。こいつらの部屋はどうしようかな……
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