1447話 キヨバル・アラカワの上屋敷
キヨバルは少しにやりとしてから口を開いた。
「ははは、ほいほいついて来てくれたかと思えば意外と用心深いんだね。聞かれたからには答えるとも。」
いきなりフランクになったな。それなら私も態度を崩そう。
「アレクの体目当てとか言うなよ?」
「ははは、虎口に好んで手を突っ込む趣味はないよ。それはそうと、僕の父はボガイト・アラカワって言うんだけど知ってるかい?」
「いや、もちろん知らないな。」
「カース、クワナが言ってたわよ。この国の丞相ね。」
あー、クワナ・フクナガか。えらく懐かしいな。
「ほう、クワナ……もしかしてクワナ・フルカワ、いや養子に出されたからクワナ・フクナガだったかな。思わぬ名前が出たものだね。そして姫の言う通りだよ。僕はこの国の丞相の二男てわけさ。」
丞相の二男……ローランドで言えば宰相の息子と同じか。つまりアジャーニ家のマルセルみたいなものか。マルセルとシャルロットお姉ちゃんはどうなったかな。ふとした時にローランドが懐かしくなるな。
「で、それがどうかしたのか?」
「いやぁ本筋とは関係ないのさ。なんせ今はカゲキョーを目指しているところだからね。」
「カゲキョー? そりゃまたどうして?」
「聞いてるよ? あそこが壊滅したそうじゃないか。赤兜が焦ってたよ。ま、その伝令は天都の陛下に伝わる前に処分したけどね。」
ん? 処分?
「つまり天王はカゲキョーが壊滅したことをまだ知らないってことか? ヤチロの件も?」
「たぶん知らないだろうね。ヤチロの件は僕も最近知ったんだけどさ。で、本題だけどローランドのお偉方を誰か紹介してくれないかな?」
「国王陛下とか?」
「ぶふっ! そんなことができるのかい!? いやいや、それは逆に困る! 例えばバンダルゴウの領主とかその近辺の貴族とかで充分だよ?」
バンダルゴウならエルネスト君がいるしな。別に問題はない。それにしてもそこらのガキと丞相の二男が同じように私からの紹介状を持って現れたらエルネスト君はさぞかし困惑するだろうな。面白そうだ。
「それは可能だが、ローランドに行くのか?」
「いやぁ、今のところ行く気はないね。だって海を渡るのって危険がいっぱいじゃないか。クワナ君みたいにヒイズルを追われた時のために備えておきたいだけさ。それに君らとこうして話している時点で目的は達成したようなものだしね。」
「目的?」
いまいち何がしたいのか分からん奴だな。
「君らはヒイズルで暴れているぐらいだからこの国にあまりいい感情を持ってないんじゃないかい?」
「そうだな。味噌や醤油、ワサビや畳なんかは素晴らしいと思うが。その反面、ローランド人を拐いまくってるところは許せんな。」
もちろん許せないポイントは他にもあるが。
「僕もそうなんだよ。他国からの流れ者が国王だなんてふざけた話だと思わないかい? まったくもって理解できないよ。」
あらあら。酒も入ってないのにぶっちゃけたね。それってバレたら粛正されるやつじゃん。後ろの護衛とか執事っぽい奴らがピリピリしてるぞ。私達に対して『他所でこの話をしたら殺すぞ』とか思ってそう。
「それは丞相もそう思ってんのか?」
「いいや。父は堅物だからね。丞相たるもの天王が誰であれ国のために働くことが第一ってタイプなのさ。」
偉いね。そんな丞相がいるから天王が無茶やっても国がきちんと動いているって感じなのかねぇ。
「ふーん。で、結局どうすればいいんだ? 紹介状を書けばいいのか?」
「頼めるかい? 対価は……ローランド人を助けること。だろ?」
「分かってるんならいい。二人で書いてやるよ。拐われたローランド人を見つけたら買い取ってオワダに送ってくれ。金は払わんけどな。代わりにヒイズルをかき回してやるよ。それを期待してんだろ?」
「ははっ、分かる? 僕は天王になりたいなんて思ってないけどさ。あんな奴が天王だなんて我慢できないのさ。よし、それじゃあ話もまとまったことだし乾杯といこうか!」
「ピュイピュイ」
待たせたねコーちゃん。やっと酒が飲めるよ。
「お待ちください! このような重大事を容易く他所者に漏らすだなんて! せめて口封じをしなければ!」
おっ、護衛の騎士か。せめて口封じって何だよ。殺す以外に何か手があんのか? あるんだろうなぁ。
「恐ろしいことを言うなよ。君ができるのなら任せるが、僕は嫌だよ? 虎の首に鈴をつけるようなもんだからね。ねぇ魔王君、誰にも言わないよね?」
魔王君ときたかよ。別にいいけど。
「あえて言うこともないな。場合によっては天都を更地にするかも知れないし。その辺はお互い様だよな。」
「くっ! 若様! このような世迷言を言うような者を信用できるはずがありません! 天都を更地などと!」
「それを証明するために今からこの屋敷を更地にしてもいいけど。まあ恐ろしく無駄なことだと思うぞ?」
誰も得しないよな。
「ほおぅ? 大口を叩きおったな! やれるものならやってみるがいい!」
「いいのか? こんなこと言ってるけど。」
お前に責任がとれるのかって話だよなあ。さあキヨバルどうする?
「勘弁してよ。魔王君は徒労だし、僕らは屋敷を失う。誰も得しないんだからさ。ささ、もう飲もうよ。」
「若様! ならばせめて! この者と一対一で勝負させてください! それによって信用に足る者かどうかを見極めたく存じます!」
暑苦しいなぁ。若い女なのに。まあまあきれいな顔してんのに護衛隊長って感じなんだろうか。装備もいい物持ってるよなぁ。さすがにムラサキメタリックではないが、あれってアイリックフェルムだよな。
「あー、魔王君どう? 相手してやってくれる? 勝っても負けてもお土産だすからさ。」
「ルールによるな。言えよ姉ちゃん。どんな勝負がしたいんだ?」
「なっ、ね、姉ちゃんだと!? くっ、舐めおって! 何でもありに決まっているだろう! 魔法でも何で『狙撃』もっきゃあぅぐっ」
バカだなあ。私の前で何でもアリだなんて言うから。鎧の隙間に撃ちこんでやった。
「なっ! 貴様!」
「卑怯な! それでも男か!」
「恥を知れ!」
「もうよい! 全員で叩き斬ってやる!」
他の護衛が剣を抜いた。あーあ、もう知らんぞ?
「待て。」
「わ、若様! し、しかし!」
「この者は勝負が始まる前に!」
「なんたる卑怯者! 捨ておけません!」
「何卒お許しを!」
「僕が待てと言っているんだが。聞こえないのか?」
おっ、こいついい魔力持ってんじゃん。護衛どもがびびってる。やるねえ。
「それよりセリナを治療しろ。幸い急所は外してもらったんだ。死にはしない。行け。」
「はっ、ははぁ」
まあ急所は鎧で覆われてるしね。額をぶち抜く気もなかったし。
「はぁ。それがローランドの戦い方なんだね。恐れ入ったよ。」
「正確にはクタナツの戦い方かな。何でもアリだなんて言わなければ普通に魔法対戦でも魔法なしの模擬戦でもやったんだけどな。」
「魔法なしか。君ほどの魔法使いが魔法なしでどんな戦いぶりを見せてくれるのか非常に興味深いよ。どうだろう、よかったら……」
「残念だが時間切れだ。うちの蛇ちゃんがさっさと酒を飲ませろだとよ。さあ、乾杯しようぜ?」
「そ、そうだね。当初の予定通り。料理を運べ!」
やれやれ。こっちは飯を食いに来たんだからさ。これだから貴族は面倒くさいんだよ。まったく……
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