1438話 ハルバード VS イグドラシル

いい勝負だ。防御に徹する私に対して、私の周囲をぐるぐる回りながらも堅実に攻めてくるビムー。

似たような攻防を四、五分ほど続けただろうか。奴の集中が切れる気配はない。当たり前か。


「どうして攻めてこねぇ? 何を狙ってやがる?」


「さあな?」


私は稽古がしたいんだよ。まだ終わらせる気はない。


「舐めんじゃねぇぞ? くらってみるかよ? いくぜ!」


『斧槍大車輪』


何それ……まるでハンマー投げのようにハルバードを長く持ち、ぐるぐる回ってやがる……

一歩下がる。回りながら近づいて来るビムー。目が回るんじゃないのか?

二歩下がる。回転を増しながら近づいて来る。絶対目が回るだろ……


あ、止まった。


「てめぇ! 逃げんじゃねぇ!」


「分かった。逃げない。もう一度やってみろよ。」


なぜならいい時間になったからだ。そろそろ終わりといこう。


『斧槍大車輪斬』


おっと、生意気に飛斬まで併用してやがる。無差別攻撃かよ……だが、甘い。

タイミングを合わせて……


薪割まきわり


奴のハルバードを迎え打つ。

不動をただ上段から振り下ろしただけ。技名も適当だ。

こつこつ攻めてればいい勝負できただろうに。奴のハルバードの斧部分はぐにゃりと曲がってしまっている。私の方も飛斬の余波で少し頬が切れてしまったか。自動防御を張っておいてもよかったな。でもまあ稽古だしね。


「そ、その棒……一体何でできてやがる……俺のハルバードはチタングステンメタルだぞ……」


そう言われてもな。初耳の金属だ。名前だけならアイリックフェルムやムラサキメタリックよりよっぽど強そうだけどね。


「まあ、内緒だ。いい棍だろ。じゃあ、ジンマ達によろしくな。」


呆然とするビムーは放っておいて、私とコーちゃんは宿の入口側へ回る。アレクが帰ってきたからだ。いつ帰ってきてもいいように、魔力探査を広めに張っておいたのさ。




「おかえり。早かったね。」


「お待たせ。これ、受け取ってくれる?」


アレクの手にはボタンがしっかりと縫い付けられたドラゴンウエストコートが。おおー、黒いウエストコートに白いボタンがやけにオシャレだな。ボタンが大きすぎないのもいい。絶妙なバランスじゃないか。素晴らしい。


「凄いよ! ありがとね! アレクが縫ってくれたかと思うとかなり嬉しいよ。カムイもありがとな。痛かったろうに。」


「どういたしまして。カースのためなら簡単なことだったわ。」


「ガウガウ」


では……人前だけど、一旦魔力庫に収納してから……『換装』


「どう?」


「こうして見比べてみると、やっぱり違うわね。サウザンドミヅチの黒より深い気がするわ。深黒とでも言うのかしら?」


どちらの黒もクタナツのラウーラさんによるものだからな。元から黒いドラゴンをウエストコートに仕立てたらどんな仕上がりになるのか気になるな……欲しいけど出会いたくないよなぁ……


「よし。これでオワダにはもう用はないね。それじゃあテンモカに行こうか。」


「ええ。いいわよ。」


あまりオワダに泊まるとあっちの部屋代がもったいないからな。






テンモカに到着。空の旅はあっという間だね。城門をくぐったら宿へ戻ろう。私を見ると門番は嬉しそうな顔をする。あからさまだねー。


さて、今日はもうゆっくりしよう。宿でアレクとしっぽりね。




「お帰りなさいませ。夕食はいかがなされますか?」


割烹着の似合いそうな客室係が素早く出迎えてくれた。


「四人前ほど頼むよ。酒もお任せで。」


「かしこまりました」


「シムは戻ってきたかしら?」


「いえ、お戻りになられておりません」


あらら。あいつどこで何やってんだろうね。まあいいや。そんなことより晩飯晩飯。食べたら風呂でのんびりして、それからアレクと……ふふふ。


あ、そうだ。


「アラカワ劇場って明日は何かやってる?」


ヒイズルに来て劇場は初めてなんだよな。一体どんな演劇をやってんだろう。


「はい。だいたい毎日二公演ございます。ご希望とあらば席をお取りしておきますが」


「じゃあ明日の午後からで二席、もしくは特別室を頼めるかい?」


「かしこまりました。明日の午後ですと二時ぐらいから開演でございます」


遊びたいならテンモカに行けと言われるだけあるな。もちろん賭場もあるんだろうな。明日からはあちこちじっくり観光だな。どうも私は働きすぎだ。遊びに来てるんだからしっかり遊ばないとね。




はぁー、美味しかった。今日は海の幸のフルコースだったね。さて風呂に入るか。コーちゃんはまだちびちび飲んでるけど。


「カース、シムを探しに行ってもいい?」


「あら、心配なの?」


食事の間、やけに口数が少ないと思ったらシムの心配をしてたのか。


「うん……私の時はカースが助けに来てくれたわ。でも、あの子には誰もいないから……」


おお……さすがアレク。なんて慈悲深いんだ。その優しさに泣きそう。


「よし、それなら僕も行くよ。夜の街にアレクを一人で行かせるわけにはいかないからね。」


「ガウガウ」


えぇ……先に洗ってから行けって? もー……


「大丈夫よ。私だっていつまでもカースに守られてばかりじゃいられないもの。先に寝てていいわよ。」


「そう言われて呑気に寝れるような僕じゃないよ。だからこうしよう。カムイを洗ったら僕もシムを探しに出る。アレクとは別にね。そして先にシムを見つけた方が勝ち。負けたら勝った方の言うことを何でもきくの。どう?」


「面白そうね。じゃあ先に行くわね。」


行ってしまった……こうしちゃいられない。私も早く後を追わねば!


「ガウガウ」


分かってるって。丁寧に洗うって。

せめてコーちゃんがアレクに付いててくれればいいのに……

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