1436話 ドラゴンの革に穿つ穴

普通の針でだめなら……


「アレク、ちょっと待っててくれる?」


「ええ、どうするの?」


「ふふふ……ちょっと外に出るよ。」




魔力庫から取り出したのはムラサキメタリックの鎧。こいつを……


点火つけび


超高熱。魔法が効かない金属を加熱するのはひと苦労だな。


豪炎ごうえん


とにかくもう、めちゃくちゃに加熱する。それから……


金操きんくり


一部を剥ぎ取って……こいつをさらに加熱!

細く細く引き伸ばして……先を尖らせる!


よし!

できた!


あー疲れた……

ムラサキメタリックはホント魔力を食うんだから……他のパーツは冷やしてから収納っと。


「お待たせ。これでちょいと穴を空ければ針も通るよね。」


本当はムラサキメタリックを針に加工したかったのだが、さすがに大変だからやめた。糸を通す穴を空けるのが……

要は針と糸が通ればそれでいいんだから。

さらに言うならオリハルコンも針に使うぐらいなら余裕で余ってるが、さすがにもったいないもんな。


「さすがはカースね。鮮やかな魔力制御だったわ。見てるだけで体が熱くなっちゃった。」


「す、すげえな……これが魔王の魔力か……」


「これ、用が済んだらやるよ。さっき弁償が何とかって言ってたろ。これなら足りるよな?」


「あ、ああ……貰っとく……」


「じゃあカース、先に帰っててくれる? ちょっと長くなりそうだから。」


なん……だと……?


「……見てたらだめ?」


「だめ……だから先に宿に戻ってて。日暮れまでには終わらせるから。ね?」


「分かったよ。でも急がなくていいからね。別に今夜も泊まったって構わないんだから。」


「ええ、ありがとう。じゃあ、また後でね。」


アレクにはアレクの考えがあるんだよな。何と言っても私のためにやってくれてることだし。じゃあカムイ、頼むぞ。


「ガウガウ」


まったく。お前はかわいい狼だよ。コーちゃん行こうか。開いてるかは分からないけど、この前ジンマ達と行ったバーにでも行ってみようよ。


「ピュイピュイ」


そして仕立て屋を後にした。ボタン付けか。思いのほか大仕事になってしまったな。でもアレクが言ってくれなかったらローランドに帰るまでずっとサウザンドミヅチのウエストコートを着るハメになっただろうな。いや、これはこれでかなりの高性能なんだけどね。やっぱり防御力の面で比べたらドラゴンウエストコートには劣るもんなあ。防御を堅めるのは大事だもんね。




ちなみにバーは開いていた。一時間ほどは他に客もなく、コーちゃんと二人っきりでのんびりと痛飲した。


いかんな……ちょっとペースが早すぎたようだ。コーちゃんに合わせて飲んじゃったからな。


「最近はジンマ達は来たかい?」


バーテンダーに問いかけてみる。今の時間は彼一人のようだ。


「ひと月ほど前に来てくれました。そろそろバンダルゴウから戻って来られる時期ですから、近いうちにまた来てくれるかと」


パープルヘイズのジンマ。あいつらって半ばオワダ商会の専属冒険者みたいなところがあるよな。


「あー、今ごろは船の上か。やっぱ船は怖いよねー。沈んだら助からないし。沈まなくても酔うし。」


「そのようで。ですがオワダ商会の最新式の船はかなり丈夫だとお聞きしております。よほどの大嵐か危険な魔物でない限り安全だそうで」


「あー、アイリックフェルムのやつなー。そりゃ頑丈だわ。ヒュドラやらアスピドケロンでも来なけりゃあ大丈夫だよな。」


「ヒュドラ……ですか。お客様は直に見られたことがおありなので?」


「ああ、あるよー。」


そこからはそわそわする店員とコーちゃんの三人でヒュドラ話で盛り上がった。やっぱ肉の旨さではヒュドラが最高なんだよな。でもかなり手強いもんなぁ。会いたいけど遭いたくないわー。


少し客も増えてきたことだし、出ようかな。まったく、昼間からバーで酒飲むとは……こいつら何を考えてんだ? まったく……




バーを出て、一歩二歩。そして立ち止まる。


「死ねぇぇぇぇぇーーーー!」

「おどりゃぁぁあーーーー!」

「とったるぅぁぁーーーー!」


『風斬』おまけに『火柱』


おっといけない。向かいの建物まで切れちゃったよ。酔ってるな私。


体を上下に分たれた三つの死体。一瞬遅れて上から黒焦げの死体が落ちてきた。

左右と前、三方からの攻撃と見せかけて本命は上。こいつだけ手ぶらなところを見ると魔石爆弾でも持ってやがったか? 偶然だけど火柱を使ってよかったわー。だって上からなんだもん。


「大丈夫ですか……お客様……」


さっきのバーテンダー、いや店員が出てきた。


『水壁』


「お前はエチゴヤの関係者か? それともただ情報を提供しただけか?」


「なっ……ちが……俺は……」


震える口調で弁解するが、それじゃあだめだな。


「知ってるよな? どんなに助けを求めても騎士は来ない。エチゴヤの仲間なら来るかもな。それならそれで皆殺しにするから好都合なだけだ。で? お前の目的は?」


「ちっ……違う……俺じゃない! 誰かぁー! 助けてくれぇーー!」


おっ、ちょっと元気になった。


「よし。お前を信じよう。約束する。だから知ってることだけ話してくれるか?」


「あ、ああ……っごっぼぁぎょ?」


うーん、今のは鮮やかな口車だったね。さあ、知ってることを全部正直に話してもらおうか。

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