1435話 アレクサンドリーネの針仕事

このおっさんすごい服着てんなぁ……オワダのどこにこんな服売ってんだよ……まるで昔アレクに買ったキャミソールじゃん。すごい趣味してんなぁ。筋肉すごっ。


「はいこれ。大変だったんだからぁ。結局アタシんとこだけじゃどうにもならなかったから、鍛冶屋のカッちゃんにも協力してもらったんだからね?」


おお、これがカムイの牙から作られたボタンか……乳白色って言うのかな。クリーミーな白だ。ドラゴンウエストコートにフェンリル狼のボタン。お洒落街道一直線だな。最高。


「いい仕事ね。糸の方は?」


「これね。これだって大変だったのよぉ? こんな仕事二度とやらないんだから。で、お代だけど、この余った牙と毛をくれるんなら五十万ナラーでいいわよぉ?」


「カムイ、あげていい?」


「ガウガウ」


そのぐらいの金は私が払ってもいいんだが、アレクの気持ちだからな。


「じゃあ五十万ナラーね。いい仕事だったわ。」


「はぁい、確かに。それよりさぁ? せっかくうちに来てくれたんだからぁ魔道具見ていってくれてもよくなぁい?」


魔道具ねぇ……あっ! そういえば!


「クウコ商会のボンボンが自動で魔法を防ぐ魔道具か何か持ってなかったか? あれはここの品か?」


「あーあれね。もちろんうちの品よ。その名も『携帯魔導結界・衛君まもるくん』よぉ! そこいらのチンピラだと何人束になって斬りかかってもびくともしない品なのよぉ? それをさぁ? あっさりと壊してくれちゃって。魔王ちゃんのイ・ケ・ズ!」


なんだよ。やっぱ私のこと知ってるのか。


「そいつは悪かったな。あの手の防御方法は物理攻撃や質量攻撃に弱いってのがお約束だからな。」


「あれをわずか二撃で貫いたそうねぇ? 痺れちゃうわぁ……」


それでもチンピラの剣ならば軽々防ぐとは、やるじゃないか。えーい瞳を潤ませるな!


「ちなみに一個いくらだ?」


「うーんとねぇ。魔王ちゃんだから少しおまけして百万ナラーでいいわよぉん? 今ならアタシの熱ぅい魔力もたっぷり込めてあげちゃうわぁ?」


「魔力は込めなくていい。壊れない限り何度でも魔力を込めれば使えるよな?」


「もちろんよぉ? 一度に大きな衝撃を受けたら壊れるから、壊れる前に魔力を補充するか作動を止めるといいわよぉん?」


ダメージによって内蔵された魔力が減り、完全になくなると壊れるわけか。携帯を充電がなくなるまで使うとバッテリーに良くないみたいなものかな。


「じゃあ一個貰おうか。」


「はぁい毎度ぉ! ポケットにでも入れておくといいわ。もちろん魔力庫に入れておいたら作動しないから気をつけてねぇ? これはアタシからのサービスよぉん! ぶちゅーぅほばっ? な、何よこれ!」


私に迂闊に近付くとそうなるのだ。本家自動防御を舐めんなよ? そんなキモいサービスなんぞいらんわい。


「まあ気にするな。じゃあ、世話になったな。」


「ありがとう。助かったわ。鍛冶屋さんにもよろしくね。」


「ガウガウ」

「ピュイピュイ」


「もぉー! また来てよね!」


いやー色んな奴がいるもんだな。あんまり飲食系以外の店には入らなかったが、少しは寄ってみるのもいいかもな。それよりも。


「はいこれ。アレクにプレゼント。あ、ちょっと待ってね。魔力を込めるから。」


「もう、カースったら。私がプレゼントする番なのに……」


「いいからいいから。あっ、それなら来月のアレクの誕生日プレゼントってことにしよう。それなら受け取ってくれる?」


「うん……いつもありがとう。じゃあカース、もう一軒寄るけどいい?」


「もちろんいいよ。今度はどこかな?」


「ほら、もう見えてきた。あの仕立て屋よ。」


なになに……仕立て屋ジョナタ。あ、あそこでボタンを付けてもらうのかな。私は針仕事なんかできないからな。




「いらっしゃ……あー昨日の。ボタンはできたのかい?」


「ええ、おかげさまでボタンも糸もできたわよ。こちら紹介するまでもないと思うけど、私の最愛の男。ローランドの魔王カースよ。」


「魔王でーす。」


自分を魔王と呼ぶのも慣れたものだ。


「お、おお……仕立て屋ジョナタへようこそ。じゃ、じゃあ約束通り針は貸してやる。折ったら弁償だからな?」


「ええ、分かってるわ。じゃあカース、ウエストコートを出してくれる?」


「え? まさかアレク自らやるの!?」


なんと!?


「そうよ。そうでないとプレゼントにならないじゃない。」


「この女神さんは昨日必死に針仕事を覚えようとしたんだぜ? いやー健気なもんだな。魔王さんが羨ましいねえ?」


なんと……


「アレク……嬉しいよ。気をつけてね。」


「ええ。ちょっと時間がかかると思うけど、心配しないでね。」


「アレク……」


ローランド王国の女性貴族にとって料理の腕はステータスだ。貴人をもてなすのに自ら腕を振るうことは最上級の歓迎とされている。母上だって料理はかなり上手なんだから。

しかし、刺繍などの針仕事はどちらかと言えば下級貴族の趣味とされている。そしてアレクに刺繍の趣味があるなんて聞いたことはない。つまり、昨日初めて針を持ったんだ。私のウエストコートにボタンを縫うために。


「そ、そんな……」


いきなりアレクが絶望的な顔をしている。何事だ?


「どうしたの?」


「針が……全然通らないの……」


あー、ドラゴンの革だもんね。でも、ラウーラさんが糸を通した穴は空いているはずだが……


「すげえなこれ。糸を抜いたら穴が塞がりやがったぞ? たぶん小さい穴なら自然と塞がるんだろうぜ……さすがドラゴンだな……」


それは知らなかったぞ。私が今着てるサウザンドミヅチの方には自動再生が付いてるが、ドラゴンウエストコートは針程度の穴なら修復してくれるというのか。無駄にすごいぜドラゴン。

そんなドラゴン革にラウーラさんはどうやってボタンを付けたんだ? いや、そもそもどうやって仕立てたんだ? 腕がすごすぎる……


「ちょっと貸してみな?」


仕立て屋も挑戦してみるが……


「だめだこりゃ。うちにある針じゃあどうにもならないぜ。ドラゴンってのはこんなに凄いのかよ……」


うーん……何かアイデアは……




あ、そうだ!

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