1431話 アレクサンドリーネの別行動
「……と言うわけなんだよ。」
「ふぅん。貴族的には先代のした約束を反故にするのならそれ相応の対価が必要なものだけど。でもカース? どうせこの件はさっきのあいつの独断だと見てるんでしょ?」
「まあね。だから今からシーカンバーまで行ってみようよ。少し遠いけど、まあのんびり散歩ってことで。」
軽い散歩で二時間コース。オワダって街の城壁がない分南北に広いんだよなぁ。
「いいわよ。私ここの海沿いの道って結構好きなの。さすがに今の季節だと泳ぎたくはないけれど。」
だめか……私は少し泳ぎたいとも思っていたのだが。私が泳ぐと言えばアレクは反対などしないだろう。嬉しそうに見守っていてくれるはずだ。だからこそ、今日は泳ぐまい。
「あっ! そういえばカースの誕生日!」
季節が話題に出たことで思い出したな?
「アレクも気付いた? 僕も昨日気付いたんだよね。やっぱもう過ぎてるよね。」
今日は一体何月何日なんだ?
「私も分からないけど、絶対過ぎてると思うわ……ごめんなさい……」
「いやいや、日付なんて気にしない贅沢な毎日を送ってるんだから。そんな謝らなくていいんだよ。今夜にはテンモカに戻ることだし楽しくぱーっとやろうよ。」
「それもそうね。毎日カースと一緒だなんて。それだけでも毎日パーティーやってるようなものだし。あっ! ごめんなさい! シーカンバーには一人で行ってくれる!? 私ちょっと急用を思い出したから!」
急用なんてあるわけないのに。アレクったらかわいいなぁ。嬉しくなっちゃうよ。頼むぞカムイ。
「ガウガウ」
「分かった。日没までにはテンモカに戻るから、それに間に合うよう宿に帰ってきてね。」
「分かったわ! じゃあちょっと急ぐから!」
そう言ってアレクは走り出した。その後をカムイが追走する。私はコーちゃんとのんびり歩いてシーカンバー詣でだな。
だいたいこの辺りだと思うんだけどなぁ。ナマラの家ってかなり入り組んでたんだよな。
「あー! あん時のにいちゃーん!」
「あそぼーでー!」
「小鬼抜きやろやろー!」
「ねーちゃんいないのぉー?」
おお。先日一緒に遊んだ子供達ではないか。あの時は楽しかったなぁ。
「よし! やるか! 今日は俺一人だけだよ。」
「ピュイピュイ」
コーちゃんもやる? かなり手加減してよね。コーちゃんが参加したら誰も勝てないからさ。
「よーしやろやろー!」
「最初だれが小鬼ぃー?」
「次っておれやーん!」
「にーちゃんふられたんか?」
うるせぇな。
小鬼抜きとはローランド王国で言うゴブ抜き、つまり缶蹴りのようなものだ。
缶の代わりに人間が人質として一人ほど座り、助ける側は人質に触れたら勝ち。防御側、つまり小鬼役は助ける側を見つけたら名前を呼びながら人質に触れる。そうやって救出側を全員防いだら勝ちってわけだ。
それなのに、なぜか途中から全員でコーちゃんを追いかける狼ごっこへと変貌していた。コーちゃんがあまりに鋭く、そして見事な身のこなしを見せるもんだから全員が夢中になって追いかけ始めたんだよな。もちろん私もだ。
そして結果は……
「はぁーもーだめ! おれつかれた!」
「おれも! このへびちゃんはやすぎるうー!」
「もー立てん! くっそー!」
「にーちゃんもだらしないぜー?」
うるせぇな。コーちゃんがすごいんだよ。私の素の身体能力で勝てるかってんだ。
「ところでさ。シーカンバーのナマラばあちゃんちってどこだっけ? 知ってる?」
「知ってるよー!」
「こっちこっち!」
「秘密の道からいこうぜー!」
「にーちゃんついてこれるん?」
「舐めんなよ? 俺のブーツは無敵だぜ?」
子供の言う秘密の道。ちょっとワクワクだな。
「よっしゃまずはここを通って!」
いきなり誰かの家の裏かよ。
「ここ登る!」
あっちに道があるのにわざわざ壁を登るんかい!
「この下行くよ!」
排水路じゃないのか……幸い濡れてないけどさ。匍匐前進かよ……
「にーちゃんここ飛べるぅ? びびらん?」
びびるわけないだろ。ほんの一メイルしかないし。壁の上から石垣の上へジャンプ。簡単なもんだ。
「着いたよー! この下!」
やれやれ。石垣を降りたらナマラの家の裏庭かよ。大冒険だったな。
「ありがとよ。また遊ぼうな。」
「にーちゃんこそまたなー!」
「今度は悪霊狩りしようでー!」
「またなー!」
「次はねーちゃんも!」
子供達は来た道を戻っていった。こりゃあ体が鍛えられるね。おもしろかったし。
さて、入ってみるか。玄関ガラガラ。
「シーカンバーの奴、誰かいるかー!」
「誰じゃあい!」
奥から声が聞こえた。いるいる。
「邪魔するぜ。」
勝手知ったるナマラんち。ブーツを脱いでずけずけ入ろう。
「何じゃあてめ、魔王さんか!」
「さすがに分かるか。特に用はないんだけどな。まあご機嫌うかがいってとこだ。シーカンバーは調子がいいそうじゃないか。今は誰が会長やってんだ?」
「あ、ああドリオラさんだ。今は出かけてる」
もちろん知らない名前だな。さて、それでは本題といくかね。
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