1430話 シーカンバーのオラカン農園
うーん、すっきりとしたいい目覚めだ。二日酔いになんかなってないね。アレクはすやすやと気持ちよさそうに寝てるし。天使の寝顔だね。
「ガウガウ」
お前も早起きだなぁ。飯はまだだぞ。それより朝風呂なんてどうだ? じっくりマッサージしてやるぞ?
「ガウガウ」
それで勘弁してやるって? 生意気な奴め。よし、風呂行こうぜ。
「ふふふ〜ふ らららら〜ん ふ〜ふらぁーらら〜ららら らぁ〜ららぁーら〜 ふーふふふ らららら〜らぁら ららぁ〜」
今朝の私はやけにご機嫌だな。鼻歌が止まらない。
「ららら〜ら らららら〜 らーら らぁららぁーららら らぁ〜ららぁら〜 らぁ〜らららふふふふん〜らぁ〜ら らぁ〜らぁ〜♪」
「ガウガウ」
うるさいって? まあそう言うなよ。お前だって本当は聴きたいんだろ? 私の歌声をさ。ほぉーれ、わしゃわしゃあー。ここだろ? ここが気持ちいいんだろ?
「ガウガウ」
黙って手だけ動せって? 私はお前の召使いかよ! 気持ちいいくせに無理すんなっての。ほれほれ揉み揉み。
「えいえんにふぅふふぅ らぁららぁ〜らぁ〜 お〜お〜うぉお〜 うぉ〜 いぇいいぇ〜 うぉう ふうぅ〜 べぃべ べぃべうぃざやぁ〜 やぁ〜 ふぅう〜♪」
「ガウガウ」
おっ、そうだろ? いい曲だと思うよな。いぇいいぇ〜。
「べぃべ うぃざぁやぁ〜〜♪」
「いい歌ね。歌詞はないの?」
「お、おはよっ、びっくりしたなぁもう。起こしちゃった? ごめんごめん。」
アレクに聞かれてたと思うと急に恥ずかしくなったぞ……
「それ、何て曲なの? 初めて聴く曲調だわ。」
「うーん、適当な鼻歌だからね。曲名なんてないよ。」
本当はあるけど前世で好きだった曲だなんて言えないよなぁ。ローランド神教会的には生まれ変わりは『ある』ってことになってるから例え私が「前世の記憶あるよ」と言ったとしても変な目で見られることはなさそうだけどさぁ……
「あらそう。そういえばカースは昔、名前を言えない曲なんてものを弾いてくれたわね。懐かしいわ。」
「そんなこともあったね。よし、じゃあそのうちこの鼻歌に歌詞をつけて歌えるようにしてみようかな。そしてアレクのバイオリンで歌おう。」
「いいわね。面白そうだわ。それにしても昨夜は楽しかったわね。私、変じゃなかった?」
アレクが変なわけがない。
「いや全然。すごく可愛らしかったよ。また飲もうね。」
「ええ。いつも飲んでる気もするけど。ところで今日は昼からどうするの? テンモカに戻る?」
「うーんと……あ、オラカンをもぎに行こうよ。」
その後でシーカンバーにも顔を出してみようかな。反対方向だけど。
「あら、それはいいわね。今の季節に成っているものかは分からないけど、行けば分かるわね。でも、それよりカース……」
アレクの目が妖しく輝いている。分かってるとも。昨夜の分だろ? アレクったら先に寝たもんだからさ。
「ふふ、そうだね。ささっと洗ってすぐ出ようね!」
「だめ……今すぐ……」
もーアレクったらせっかちなんだから。というわけだカムイ。先に出てな。『乾燥』
「ガウガウ」
さっさと終わらせて飯にしろって? ふふふ、それは分からんな。
ふぅ。汗を流していい汗かいて、そしてまた汗を流して……朝食にしよう。
今の時刻は十時ぐらいかな。ここの朝食は美味いんだよなぁ。おにぎりに味噌汁に漬物。今日は何かな。
うん。素敵な朝食だった。
やっぱ朝はこうでないとね。では、オラカンの成る山へ出かけるとしよう。海沿いを歩きながら、景色を眺めながら。時折りナマラを偲びながら。
のんびり歩いて一時間。前回と同じく細い山道を登れば、そこにはオラカンの木々がある。そして、しっかりと実が成っていた。
もしかして季節に関係なく実が成るものなのか? 思い起こせば山岳地帯でも蟠桃はいつ行ってもしっかり成ってたもんな。まあ、品種によるんだろうな。
「取りすぎもよくないから一人三個にしておこうか。それぐらいならナマラも文句言わないよね。」
「むしろカースがここまで来てくれて、覚えておいてくれて喜んでると思うわ。じゃ、一旦解散ね!」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
よーし、誰がいいオラカンをもぐのか勝負だ。今日は形重視でいってみよう。
よし。あと一個だ。どーれーにーしーよーおーかーなーー。
「誰だお前ら!」
「ん? その格好は……ここの手入れに来たのか?」
私より少しだけ歳上っぽくて、私より背の低い男が一人。丸い籐籠を背中に背負っている。
「そうだぁ! ここは俺たちシーカンバーのオラカン農園だぞこらぁ! 地元じゃ子供ですら知ってることだぁ! この落とし前どうつけてくれるってんだ! あぁ!?」
「そのぐらい知ってるさ。だから来てるんだ。俺達はナマラからここのオラカンは好きに取っていいと許可をもらってる。」
「はっ! ふざけんな! 先代はとっくに亡くなってるわぁ! そんな口先三丁が通じると思うなよ!」
ん? 舌先三寸のことかな?
「ほんの三、四ヶ月前だろ。とっくにってのは言い過ぎだぜ。それよりも、ナマラが死んだから約束は無効だと言うのなら詫びも入れるし、取ったオラカンは返す。それでどうだ?」
「ほほぉう? いい心がけじゃねぇかぁ。そうさなぁ。一人一万ナラーでいいぞ。いや、オラカンは返さなくていいから一人三万ナラー出せや。それで勘弁してやるぜぇ?」
あからさまに金に目が眩んでやがる。その割に額がしょぼい。下っ端だな。
「分かった。六万ナラー払おう。」
本当ならコーちゃん達も含めて十二万ナラーなのだが、この手の奴がコーちゃん達を人数に数えるはずがないからな。
「ほほぉ? 気前いいじゃねぇか。まあオワダで何かあったらこの俺、シーカンバーのキュビエキまで言ってこいや!」
「分かった。その時はぜひとも頼む。じゃあ俺達は帰る。手入れ頑張れよな。」
「おうよ!」
『アレク、コーちゃん、カムイ。帰るよ。事情は後で説明するから』
さてと、山を降りるかね。
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