1428話 夜の散歩道
いやー番頭の奴はご機嫌だったなぁ。ポリーヌみたいな女が酌をすれば酔いもひとしおなのかねぇ。鬱陶しくなったから途中で出たけどさ。
「夜道をこうして歩くのも気分がいいね。」
「そうね。熱くなった体に……夜の冷たさが気持ちいいわ。それにしても……ポリーヌもバネッサも、女には色々あるわよね。あの時もし、私が売られていたら……同じ目に遭っててもおかしくなかったのかしら……」
あー……バラデュール君が死んだ時か。売られる直前だったもんな。だが……
「そうでもないよ。もしあの時、僕が行くのが遅くなって売られてたとしても、必ず僕が助けるから。絶対に。」
当たり前だ。ヒイズルやローランド王国を灰にしてでも探すに決まってる。
「カース……大好き……ありがとう。」
私の腕にぎゅっと抱きついてくるアレク。ふふ、かわいいなぁ。
「おーおーこぉーんな夜道でイチャイチャしやがってよぉー?」
「あーあー熱いねぇ? ったくよぉ? イラつくぜぇー」
「おっ? この女ぁ激マブじゃん? ひゃはっ!」
見たところ冒険者か。そういや番頭が少し治安が悪くなってるって言ってたもんな。こうやって暴れても騎士なんか来ないもんな。
「お前らいいもん見せてやろうか?」
「あぁん? 三回まわってニャアとでも鳴くんかぁ?」
「いいや裸踊りだろうぜ! ほれ、さっさとやれや? そしたら勘弁してやんぞ?」
「ばぁか! 裸踊りならこっちの女にさせようぜぇ!」
『水壁』
うん。いいもの見たろ? 発動する瞬間を感知できないほどの超速水壁。奥義ってのは基本の中にあるんだぜ?
「て、てめぇ! 何しやがるこらぁ!」
「俺らぁ誰だと思ってんだぁ!」
「ノトの六等星ノートリアスだぞ! 仲間ぁまだまだいるからよぉ!」
ノトのノートリアス……ゴロがいいな。ノトってどこだ?
それにしてもいつものことだが、なぜこいつら系は囚われてるのにここまで強気なんだ?
まあいいや。では拷問タイムと。
「で、ノトってどこだ?」
「はびぃ……こごがら北の……街でず……」
あー、北か。寄るとすれば今回の旅の終わりぐらいかな。
「それがなぜオワダにいるんだ?」
「ばぃ……ガゲギョー迷宮にいぐのに……」
なるほどね。冒険者が入れるようなったとでも噂を聞いたのか。
「よーく分かった。じゃあお前ら、とりあえず有り金全部出しな。そしたら命は勘弁してやるよ。」
「はびぃ……」
「うげっぼ……」
「ばぁい……」
ほほう。まあまあ持ってるな。総額二百万ナラーってとこか。その日暮らしの冒険者にしてはやるじゃん。
「ギルドの残高と装備には手をつけないでやるよ。今度からこの顔見たら気をつけろよ?」
「はびぃ……」
「うげっぼ……」
「ばぁい……」
後は真人間になる契約魔法をかけて終わりだ。酔って夜道で若人に絡むなんて最低だからな。まっすぐ生きろよ? いやぁ私も優しくなったもんだ。
『風斬』
「絡む時は相手を見てやりなさい。今日のところは耳だけで勘弁してあげる。」
「はびぃ……」
「うげっぼ……」
「ばぁい……」
あらあら。アレクったら。もう契約魔法が効いてるから大丈夫なのに。すでに顔中血だらけだから耳ぐらいなくなっても違和感ないな。いや……肩までざっくり切れてるじゃないか。僧帽筋って言うんだったかな。
「アレクにしては珍しいね。」
追撃をしたことも、制御が甘いことも。酔ってるからか。
「せっかくカースといい気分で歩いていたのを邪魔したからよ。まったく……」
「それもそうだね。多少治安は悪くなったみたいだけど、領主がいなくても街は動くもんだね。」
「そうみたいね。民衆がこれに気付くと支配体制が揺らぐのよね。天王とやらはどうする気なのかしら?」
魔物や盗賊、そして他領からの侵略がない現在、領主が治めなくても街が回ることに気付いたら……私の知ったことじゃないね。ヤチロだって商人が暫定領主やってんだし。ここでも同じことが起こっても不思議じゃないよな。
さて、海の天国館に着いた。どの部屋が取れてるかなー。
「ようこそお越しくださいました魔王様。離れの
「白砂って言うとこの前の?」
「左様でございます。たまたま空いておりましたもので。お食事などはいかがいたしましょう?」
腹は減ってないから……
「軽く飲みたいかな。お任せで何か見繕ってくれる?」
「かしこまりました。すぐにお持ちいたします」
コーちゃんがもっと飲みたいって顔でこっち見るんだもん。
「それではしばしお待ちくださいませ」
「ああ、頼むよ。これはお土産ね。」
カゲキョー迷宮でゲットした何かの肉。残り少ないけどまあ問題ない。
「まあ! 美味しそうなお肉でございますね! いつもありがとうございます! ありがたくいただきます」
うーん、やはりこの部屋はいいな。畳の香りを嗅ぐとダイブしたくなっちゃうね。途中の庭園も風流でいい。ここはいい宿だ。
「カーぁスっ!」
「うわっ……と……」
アレクが飛びついてきた。受け止めてもよかったのだが、せっかく畳なのでそのまま一緒に倒れ込んだ。そのままなぜか私のウエストコートに顔を突っ込もうとするアレク。サイズ自動調整機能にケンカ売ってるな?
「ふえぇーん入らなーい!」
完全に酔ってるな。言葉遣いが全く別人だわ。さっきまではこんな感じじゃなかったのに。だが、それだけに可愛くて仕方ないな。まったくアレクったら……悪い子だ。
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