1425話 料亭 山海酒房にて

「お待たせ。問題なくまとまったよ。」


「あら、 早かったわね。こっちは問題なしよ。ああ、強いて言うならカムイが何か……」


「ガウガウ」


腹が減ったって? ちょうど今から行くとこさ。ちょっと待ってな。


「番頭から飲みに誘われたからさ、アレクも行こうよ。」


「いいわよ。なんだかオワダが懐かしく感じるわ。」


私もなんだよな。


「ポリーヌも来るか?」


「よろしいのですか? ぜひ、おともいたしたく存じます。」


「ああ。それから他の者は分かれて宿に泊まることになる。商会の者と相談して振り分けておくといい。」


「かしこまりました。」


タイミングよく数人の者が出てきた。後は任せた。ここまでくればもう私の出番はない。今回の者と、すでに集まっている者。まとめてバンダルゴウに運んでくれ。女衒のタツが買い取りに使った金も払ってやらないとな。いくらだろ。


「ガウガウ」


まあ待てって。そう急かすな。あ、今夜の宿はどこにしようかな。やっぱあそこだな。海の天国館は空いてるかな? 宿の手配に奔走している商会員に駄賃をはずんで手配を頼んでおいた。忙しいのに悪いね。


「魔王様、お待たせいたしました。さあ参りましょうか。」


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


二人とも待ちかねたようだね。さてさて、どんないい店に連れてってくれるのかな。


「ところで今オワダってどうなってんだ? 領主とかエチゴヤとかさ。」


店に着いてから聞いてもいいけど、まあ道中の話題がてらね。


「それが未だに新しい領主様がいらっしゃらないんです。現在領主邸は無人ですし騎士様もおらず、少々治安が悪くなりつつありますね。」


「へー。闇ギルド関連は?」


「シーカンバーが勢いを取り戻しつつあるようです。彼らにしてみるとエチゴヤの動きのなさが不気味にも感じるそうです。」


エチゴヤはともかく、領主が来ないって何だそれ? 天王が任命してないのか、それとも放置? それならそれで近隣の領主が切り取りに来たりしないのかな。


「アレクはどう思う? 領主がいないままって、天王は何を考えてるのかな?」


「そうね、もしこれがローランドだったら……王都まで情報が届いてない可能性があるわね。でも、近隣に届いてないとは思えないわ。そうすると近隣の領主は喜んで領地を奪いに動くはずよ。」


「だよね。奪った後で王宮にいい感じの届けを出せばそれで解決だもんね。でもここでは近隣の領主も来てない。分からないね。」


うーん、どうなってんだ?


「難しい話は後にしようじゃないですか。そろそろ着きますよ。ほら、あそこです。」


もちろん知らない店だ。番頭の行きつけか。山海酒房か……高そうな店だねぇ。番頭って金持ってるもんなのかな。


「いらっしゃいませ」


「こんばんは。奥は空いてますか? この人数ですが。」


「空いてございます。いつもご利用ありがとうございます」


ははぁーん。接待に使ってる店ってことか。つまり自腹ではないのかもな。でも味に期待しちゃうね。

今さらだがありがたいのはローランド王国でもヒイズルでもコーちゃんやカムイを入店拒否されたことがないことだな。結構ペット連れって多いもんな。でも街ですれ違いはするけど同席したことはないなぁ。


「こちらのお方ですが、かのローランドの魔王様です。とっておきのお酒と最高の料理をお願いしますよ。」


「なんと。そうでしたか。いつぞやは火事からお助けいただき本当に助かりました。ささ、こちらへどうぞ!」


あー、そんなこともあったなぁ。結局あの火事の原因は何だったんだ?


へぇ。離れか。高級料亭だね。でもテーブルは円卓なのね。これはアレか? 上下関係なく交流を深めよう的か?


「さあ、魔王様こちらに。お嬢様はこちらでポリーヌさんは反対側にどうぞ。」


上座っぽいところに私を案内し、両サイドに花ときたか。ちなみにコーちゃんは私の首に巻きついてるし、カムイはテーブルにつかず部屋の広い所に寝そべった。


「では、すぐに酒肴などお持ちいたします。少々お待ちくださいませ」


店員が部屋から出ると、不意に室内を沈黙が襲った。これがアレクと二人きりなら全く気にならない沈黙なんだが、よく知らない人間が二人もいると多少は気まずいって感じもあるな。あ、そういえば聞いておこう。


「そうそうアレク、あいつがローランドに帰りたがってる理由って何なの?」


名前は忘れたが、シムが連れ戻しに来た姉ちゃん。シムには聞かせられない話っぽかったが、ここなら構わんだろう。


「ああ、バネッサね。大した理由じゃないわよ。普通にシムの父親と関係を持ってたってだけ。しかもバネッサから誘惑したそうよ。」


そうそうバネッサだったか。


「へー。やるもんだね。とてもそんなタイプには見えなかったけど。まあ人には色々事情があるよね。」


「生き残るためだそうよ。あの家は待遇が良いから少しでも売られる可能性を低くしたかったみたいだけど……結局シムの母親の悋気には触れるしシムはのぼせ上がるし高値はつくし。これ幸いと売られてしまったようね。」


「あらら、なかなか上手くはいかないもんだね。そりゃあシムの家には帰れないね。」


バネッサ……清純そうな顔してしたたかだねぇ。


「よくある話ですね。誰だってこれ以上悪い状況に落ちたくはありませんから。また、奴隷の身で最適な言動をとるのも難しいものです。つい、短絡的な行動に出るのも無理はないでしょうな。」


「ですがその女性は今日まで生き残ってこれたのですから、あながち間違った行動とも言えないかと。私達のような女が生きていくためには身体を張るしかありませんから……」


なるほどねぇ。番頭の言うこともポリーヌの言うことも一理あるなぁ。


「お待たせいたしました」


おっ、来た来た。うーん、いい匂いがするねぇ。

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