1423話 テンモカ発 第一便

沈まぬ夕日亭の部屋に収容していた奴らを全員外に出して、出発だ。

まずは歩いて城門を出なければな。


「ゴッゾ、門番をうまいこと頼むわ。」


「おう。任せとけぇ!」


これで問題なし、と。


「ポリーヌ姐さん! ローランドに帰っても元気でいてね!」

「姐さん! 私達のこと忘れないで!」

「いつか、また会いたいよ姐さん!」


「会いたくなったら、ローランドへ帰っておいで。待ってるから。あなた達も元気でいてね。」


テンモカに残る者とローランドに帰る者が別れを惜しんでいる。


「魔王様、この度は命を救っていただいただけでなく、ローランドまで連れ帰っていただけるとのこと。大変感謝しております。申し遅れましたが私、ポリーヌと申します。長い道中になるかと存じますので、必要とあらばお申し付けくださいませ。何でもいたします。誠心誠意おつとめいたしますから。」


たおやかに腰を折るその姿は、聞いてなかったらとても娼婦とは思えなかっただろうな。これが一流店で働くレベルか。そう言えば父上が言ってたな。娼館は一流の店以外に行くなって。分かる気がするね。


「俺はカース・マーティン。魔王でも何でも好きに呼べばいい。何でもしてくれるんなら道中のリーダーをしてもらおうか。俺が指示を出す時はお前に言う。後は上手くまとめてくれ。もっとも、短い道中になると思うがな。」


「そ、そうですか……かしこまりました。精一杯努めさせていただきます……」


「悪いな。お前に魅力がないとか、汚いと思ってるとかじゃないんだ。俺には最愛の女がいるってだけの話だからさ。まあ気持ちだけもらっとくから気に病むなよ。」


「いえ……お気遣いありがとうございます……」


そんなあからさまにがっかりされると気にするってんだ。娼婦の手管なのか他の女を庇うためかは知らんが、体を張って私に報いようとする姿勢は好感が持てる。やっぱどの世界も一流ってのは違うもんだね。


ぞろぞろと三列縦隊になって歩く。そろそろ城門が見えてきた。


「魔王、百万ナラーで話ぃまとめたぜぇ!」


「おう。わざわざすまなかったな。助かったぜ。ついでにこれも渡しとくわ。」


門番達に百万ナラー、ゴッゾに二千万ナラー。


誘拐されてここまで来た奴らが身分証なんか持ってるわけないからな。こんな時は金とコネで解決するのが一番さ。


「おう、ありがたく借りとくぜ。なぁに、あの店ぇ繁盛させてすぅぐ返してやるぜぇ!」


「ああ。どうせこれ第一便だからな。すぐ戻ってくるからよ。あのガキを見つけたら保護頼むぜ?」


「おう、見つけたらな?」


よし、では出発だ。


「もうすぐ日没だが、この門は閉じたら朝まで開かぬぞ? よいのだな?」


賄賂を受け取った門番のくせに口調は堅苦しいな。


「ああ構わん。ところで何度も通ることになると思うから俺とこの子の顔ぐらい覚えておいてくれよ?」


「知らんな。通行料次第であろう。ほら、そろそろ閉めるぞ。さっさと出ろ!」


やっぱ腐ってやがる。でも騎士ってのはこうでないとね。堅物では困る。


私達の会話を不安そうに聞く帰国組。だいたい夜に出発ってのが旅のセオリー外だもんな。だが、当然理由がある。文句を言いたそうな顔など無視だ。


私とアレクは最前列。コーちゃんとカムイは最後尾だ。


「あの、魔王様。差し出口を申し訳ございません。今夜はどこまで歩くご予定なのでしょうか?」


「そうだな。もう十五分ってとこか。」


「そんな近い所で野営をされるのですか?」


リーダーは心配性だね。責任感とも言えるか。


「いいや、野営はしない。まあ着いてからのお楽しみだ。」

「カースに任せておいたら大丈夫よ。それよりあなたは列からはぐれた者がいないか注意しておきなさい。」


この短時間ではぐれる者もいないとは思うけどね。でも総数の確認なんかしてないから、一人二人いなくなっても私には分からない。リーダーを任命しておいてよかった。

見た感じこの姐さんが一番頼れそうだもんな。野郎どもはどうもなよなよしてるからなぁ。


「かしこまりました。」




さて、テンモカを出て最初の森に入った。すっかり日は暮れて、森の中に入るとほとんど真っ暗だ。


『氷壁』


地面に氷の床を作ってと……


「さてお前ら。今から光る所にゆっくり集まれ。ゆっくりだぞ?」


「魔王様のおおせです! ゆっくり集まっておいでなさい!」


しっかりリーダーしてるね。偉い。


『闇雲』

『光源』


テンモカ側からは見えないように闇雲を張っておく。


「うわっ、足元が!」

「お、押すなよ!」

「手をつないでおくれよぉ!」

「あいた! 待ってよ!」


「ゆっくりです! ゆっくり歩きなさい!」


よし。全員乗ったかな。ざっと四十人程度か。


「全員を座らせろ。少し冷たいが気にするな。」


「みなさん! その場でお座りください! 少々冷たいようですが、まずはお座りください!」


『風壁』


周囲を覆う。


「全員揃ってるな?」


「はい! 大丈夫です!」


『浮身』


「うわっ!?」

「な、なにが!?」

「ええっ!? 浮いてるの!?」

「うそうそ!?」


さてと。

オワダはここから北東だったな。いつか貰った羅針盤が役に立つな。あっちか。


『風操』


「わあっ! 動いた!?」

「どうなってんの!?」

「下見て!」

「きゃあああーー!」


氷だから下は透明なんだよね。森の中では真っ暗だったけど少し上昇するとまだ薄暗いだけだからな。どのぐらいの速さで飛んでるか実感できることだろう。


正直このままバンダルゴウまで行ってもいいんだけどなぁ……

もうオワダに何人か集まってるはずだし、そうもいかないよなぁ。まあ、その辺のことはオワダ商会と相談してからだな。


「ま、魔王様とはこれほどの……」


「ふふん。分かったようね。これほどの真似は聖なる魔女イザベル様でも無理だわ。でもカースならできるの。覚えておくことね。」


アレクが上機嫌だ。だから私も上機嫌になる。ふふふ。


「かの聖女様でも……」


そりゃあ技術の問題じゃなくて魔力量の問題だもんなぁ。さて、そろそろ着くかな。

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