1422話 蔓喰の上下関係

あ、そう言えばシムはどこに行ったんだ?


「さっき中から子供が出てこなかった? どこに行ったか見てないか?」


「あぁ? お前ら見たか?」


「なんか泣いてたガキがいたような……」

「あっちの方に行きましたぜ?」

「ぎゃんぎゃん泣いてましたぜぇ」


ちっ、宿とは反対方向か。


「何だぁ? てめぇのツレかぁ?」


「まあな。女を連れ戻しに来たんだが、当の女はローランドに帰りたがっててな。ところでこの街はガキが一人で歩いても安全か?」


「あぁー、まあ大通りなら安全だがよぉ。さすがに裏通りまで安全たぁいかねぇぜ? オスメス問わずガキが大好きって変態も多いしよぉ。ったく気が知れねぇぜ。まあよぉ、蔓喰系列の店なら後でどうにでもしてやるぜ?」


気が知れないのはお前もだよ。

それより、後じゃあ遅いんだけどなぁ。まあいいや。これも勉強勉強。男は傷ついて強くなるものさ。


「ああ。それで頼むわ。アレクもそれでいい?」


「ええ。迷ったら宿に帰りなさいと伝えてあるし。男の子だし大丈夫ね。」


迷ったら帰れないだろ……

ま、案外先に宿に着いてるかも知れないしね。




到着。シムは帰ってきていなかった。あらら、大丈夫かねぇ。


宿の食堂で酒飲み開始。夕暮れまでまだ二、三時間はある。情報収集も兼ねてのんびり飲もう。


「そういやこの前、誓約野郎がお前の席を貰うとか言ってたけど、あれはどういうこと?」


「あぁー、大した話じゃねぇ。ビレイドの奴ぁ同じ幹部だが席次は五位だ。そして俺ぁ三位。あいつぁこの席が欲しいってわけだぁ。四位から上ぁ蔓喰四天王っつってよぉ。そうそう昇格できるもんじゃねぇからよ?」


お、おお四天王か……


「そういやお前は剛拳ゴッゾって呼ばれてるんだよな。かっこいいじゃん。」


「へっ、よせやい。てめぇの魔王の方がよっぽどイカしてんぜ?」


剛拳 VS 魔王……


名前なら魔王の勝ちかな。


「うちのアレクなんか氷の女神だぜ? 最高だろ?」


「も、もうカースったら……//」


「ぎゃははぁ! 氷の女神に乾杯だぁー!」


なんだゴッゾの野郎もう酔ってんのか。


「ピュンピュイ」


いつの間にやらコーちゃんもやって来た。よーし飲もうね。


「よぉーお前よぉ? こないだからずーーっと兄貴にタメ口ききやがってよぉ? 何様だこら?」

「そうだぜ! なぁーにが魔王だ! お前なんざゴッゾの兄貴に比べりゃあそこいらのガキじゃねぇか!」

「そーそー! 兄貴はテンモカ最強だからよ!」


「そうなのか?」


ゴッゾは嫌そうな顔をしている。


「うるせぇなぁ……俺が最強だったら一位の幹部、つまり若頭になってらぁ!」


へー。やっぱ闇ギルドって実力制なのか。


「てことは四天王に二人ほどお前より強いのがいるってことだな。会長は数に入れなくていいのか?」


「あぁ、会長はまだ小さいからな。俺らが守らねぇといけねぇのよ!」


へー。色々あるんだねえ。


「お前ぇひひっ、話ぃそらしてんじゃねぇぞぁ?」

「げふっ、けけけっ! 兄貴は強えんだぜぇげべれ?」

「ういっひぃ! げきゃきゃぎゃ! 兄貴最こーう!」


めちゃくちゃ酔ってやがる。ここの酒は旨いからなぁ。さては後先考えず飲みやがったな?


『消音』

『麻痺』

『浮身』


「すまんな。路地裏にでも捨てておいてくれるか?」


「かしこまりました」


高級宿の客室係は仕事ができる。傍にいて欲しい時には必ずいる。


「てめぇ……本当に魔王って呼ばれるだけあんだなぁ……」


「いきなりどうした?」


「ありゃあただの下級魔法だろ? それなのにどんだけ魔力込めりゃあ……あんなに効くんだよ……そのくせ息を吐くように使いやがってよ……」


びっくり。


「驚いた。お前ってただの脳筋じゃなかったんだな。見直したぞ。」


「けっ! それぐれぇ分かんねぇで幹部になんぞなれるかぁ! てめぇを敵にまわしたエチゴヤに同情するぜ……」


「あなたよく分かってるじゃない。ご褒美よ。飲みなさい。」


アレクが上機嫌になった。これはまるでウリエン兄上を褒められて機嫌を良くする姉上状態だな。私だってアレクを褒められると嬉しいから、その気持ちはよく分かるとも。


「お、おお。悪ぃな。おっとっと……へへ。いーい女だなぁおい? 松の位なんざ目じゃねえなぁ。アラカワ劇場の看板はれるぜぇ?」


「へー。劇場があるのか?」


「おおよ。名前の通り領主肝煎の劇場でなぁ。松の位まで登り詰めた女が次に目指す文字通りの舞台ってわけよぉ!」


「へー。だがお前の見る目もまだまだだな。アレクはその程度の器じゃねえよ。」


当然だろう。


「ほおぅ? 言うじゃねえか。じゃあどんな器だってんだ。言ってみろよ、おぉ?」


「女王、王妃、女神、姫。あと魔王妃ってとこか。だよね? アレク。」


「も、もうカースったら……あ、ありがと……」


うーん、久々に見たような気がする赤面アレク。いつ見てもかわいいぜ!


「がっはははっ! 言うじゃねぇか! こいつぁ参ったぜぇ!」


「分かったらいいんだよ。ほれほれ、もっと飲め飲め。」


いやーそれにしてもカドーデラと言いゴッゾと言い、なぜか蔓喰の奴とは旨い酒が飲めるな。これは一体どうしたことだろうね。闇ギルドは嫌いなはずだったのに。




「魔王様。そろそろ日没が近づいております」


客室係がそっと教えてくれた。

よし、お仕事の時間だな。

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