1417話 買われたローランド人
ふう……十一人終了。
結構疲れるな……やっぱり私に頭を使うことは向いてない。さて、最後の一人。
「待たせたな。」
「いえ、良きものを見せていただきましたえ。改めまして『
「どれどれ……」
男が四人。買い取り時の価格がまとめて二千三百万ナラーか。結構高いな……ああ、これって一人だけ二千万近い奴がいるのか。似顔絵を見るとかなりの美少年だね。ウリエン兄上を幼くして細くしたらこんな感じかも知れないな。
「この内容に嘘や間違いはないな? そして他に帰りたがってる者もいないな?」
「ええ。ありませんし、いませんえ。お代は四人合わせて三千万ナラーで結構ですえ。うちだけ欲をかく訳にはいきませんから」
「いいだろう。ほれ。」
「確かに頂戴しましたえ。これにてうちらの店には手出し無用で頼みますえ? お客として来ていただけるなら大歓迎しますけどねえ」
「そっちは間に合ってる。うちのアレクサンドリーネより美しく、叡智と気品と魔力に溢れた床上手がいるとでも言うのか?」
「さてねえ? 床上手ならいるかも知れませんえ? 例えばうちとか。今夜どうですかえ? 悦楽の限りを尽くしてみせますえ?」
そんな太い体で言われてもな。肌艶は良さそうだが。
「はは……悪いな。それはそうと、全員に確認しておくが……今後ローランド人を買った場合は話が別だからな? 次は値段に色を付けて買い取るなんて真似はしない。いきなり店が更地になると思え。身元確認はしっかりやれよ?」
意味もなく魔力を撒き散らす。ダダ漏れだ。ほぉら、寒気がするだろう?
「え、ええ……重々承知しており……ますえ……」
へえ。この女は体だけじゃなく肝まで太いんだな。他の奴らは一言も喋れなくなってるのに。
こうやって買う店が減れば拐われる人間も減るか……
うーん、たぶん違う街や違う店に売られるんだろうなぁ……
よし!
気分を切り替えて昼飯だ! 楼主達は帰ったが買い取った奴らには食わせてやらないとな。
「これだけ全員入れる?」
近くに控えていた客室係に相談。
「ええ、大丈夫です。どうぞこちらへ」
四十人以上いるが問題ないか。さすがは高級宿。食堂も広いね。
「メニューは任せる。適当に人数分を頼むな。俺達の分も同じでいい。」
「かしこまりました」
「よし、じゃあお前ら。昼飯にするからさっさと座れ。軽く今後のことを説明してやるから。」
きびきびと動く奴もいれば、のそのそと動く奴もいる。私はさっさと座れって言ったんだがな。
「あー、お前らが座るまで三分かかった。次からきびきび動け。じゃあ今後のことだが……」
「何をさせるつもり!?」
「今度はどこに連れていくの!?」
「男も女も見境なく買い集めるなんて……どんな変態よ……」
「それを説明するから黙って聞け。質問は後、手を挙げた者から一人ずつ答えてやる。」
よし。黙ったな。少し魔力を放出してやったからな。どこも何もローランドに帰りたい者ってことで集めたんだけどな。
「お前らの行き先だがオワダだ。そこですでに集まってるローランド人と一緒にローランド、おそらくバンダルゴウへ渡ることになる。そこから後は好きにしろ。帰ってからの身の振り方に不安がある者は後で相談だ。ここまでで質問は?」
ぷるぷると震える手が挙がる。
「よし、そこのお前。」
「バンダルゴウで好きにしろってどういうこと……ですか?」
「そのまんまだ。お前達は自由だから好きにすればいいだけの話だ。ローランドに帰りたいんだろ?」
帰りたい者だけを買い集めたんだから。
「まさか……本当に? そんなことしてあんたに、何の『風弾』ときゃっ!?」
「あんたじゃないわ。魔王様と呼びなさい。でないと次はその腹に穴を空けるわよ?」
おお、アレクは厳しいね。
「ご、ごめな、さ……魔王様に何の得が……あるんですか?」
「得なんかないぞ。むしろ大損だ。今からどんだけ金が出て行くかも分かったもんじゃないしな。」
ちなみに現金は三億ナラーを切った。エチゴヤから巻き上げた金も残り少なくなってきたなぁ。
「じゃ、じゃあなぜ! 損をしてまで助けるんですか!? 体が目当てですか!? こんな汚れた体で良ければいくらでも差し出しますよ!」
いらーん。
「お前は仲間が困ってたら助けたいとは思わんのか?」
「思うに決まってる! 決まってるけど……ここじゃあ情けをかけた方が負け……稼げる女が勝ちだから……」
稼げる男もいるんだろうなぁ……
「助けたいけど助けられないって言いたいのか?」
「そ、そうです……」
「なら、俺が助けたいから助けて何か文句があるのか? 同じローランド王国の仲間だろ? 俺達はクタナツ出身だが、お前はどこだ?」
「ホユミチカの南……ホレ村……」
「なんだ。同じフランティア領じゃないか。ならますます助けたっておかしくないだろ?」
もちろんそんな名前の村なんか知らないけどね。
「クタナツの……私、もう十年以上前だけど……クタナツ騎士団のマーティン様に助けられたことがあって……その時は魔物が相手だったけど……でも……盗賊に拐われた時は助けてくれなくて……ううっ……うううっ……村に、ホレ村に帰りたいよぉーーーーー!」
へー。父上やるなぁ。大抵北の方ばかり行ってるイメージだったけど、南にも行くんだね。
「だから帰してやるって。今度は盗賊なんかに捕まるなよ。今あっちじゃ盗賊はかなり減ってるけどな。」
総数は減っただろうけど、合併して大きな集団になってそうだけどね。
「聞け! この魔王ことカース・マーティンは! 好色騎士アラン卿と! 聖なる魔女イザベル様の三男! お二人の名にかけて! お前達をローランドの地まで送り届けるだろう! それが信用ならぬ者はこの場から去れ! すでに払った金を返せなどとは言わぬ! 魔王の気高き心根が分からぬ者に! 慈悲を受ける資格などない!」
おおぉ……アレクすごい……拡声を使ってないのにずばっと響いたよ。めっちゃかっこいい。
「好色騎士……?」
「無尽流の……?」
「確か剣鬼と……」
「魔女様って……」
「王都の……」
「皆殺しの……」
こいつらにローランドの魔王って言っても通じないよなぁ。大昔に拐われてきたんだから。それでも父上や母上のネームバリューなら通用したようだ。
しかし困ったな。アレクめ……ローランドまでって言っちゃったね……
もー! オワダに送って終わりにしようと思ったのに!
まあいいや。食事の用意ができたようだ。とりあえず一旦中止。食べてからにしよう。
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