1416話 娼館の楼主達

夕食を済ませ、シムを先に風呂に入らせる。そこからは私とアレク、二人だけの時間だ。明日は昼前に何人もの楼主が訪ねてくるだろうが、それはそれだ。今夜もフィーバー。ハッスルするぜ。










「カース。昨日言ってた客が来たわよ。」


「……うーん……おはよ……」


もう昼前か……うーん、よく寝た。


「来てるのは一人、望海の塔のスイメニ・ユリハマーですって。他は全員ロビーにいるそうよ。」


「うん、ありがとね。冷たいお茶をお願いできる?」


「ええ、いいわよ。」


『水球』

『乾燥』


寝癖を直す。そして着替える。


『換装』


ベッドから出てわずか十秒で身支度終了。

そして寝室を出ると昨日の奴がいた。おや、ビシッと正装してるじゃないか。小紋の羽織に小袖、足袋か。


「よく来たな。全部で何人集まった?」


「おはようございます。お目通りをお許しいただきありがとうございます。私を含めて楼主が十二人、女が三十三人、男が八人です」


男? あ、そうだよな。拐われたのは女だけじゃないよな。美少年とかも拐われてるはずだもんな。こいつには『ローランドの女』を連れてこいって言った気がするが、蔓喰に出させた通達では『ローランド人』となっているはずだ。こいつが気を利かせてくれたってことだな。


「分かった。お茶を飲んだら下に降りよう。少し待ってくれ。」


「はいカース。お待たせ。」


「ありがとね。うん、いい香りだね。ほれ、お前も飲むといい。」


汗かいてるみたいだしね。


「ありがとうございます。いただきます」


あ、美味しい。レモンティーかな。


「これは美味しゅうございますな。南の大陸産紅茶にリモンを加えたわけですか。奥様は粋なことをなさりますな」


「あら、いい舌してるわね。その通りよ。ちなみに、まだ奥様じゃないわよ。まだね?」


そうは言いつつもアレクはご機嫌ではないか。私もご機嫌だ。ふふ、アレク奥様。かわいいなぁ。

楼主、別名『忘八ぼうはち』とも呼ばれる立場の癖に人心をくすぐるポイントを分かってやがるな。いや、そんな地位を手に入れるまでにはかなりの苦労があったことだろう。それに比べたらこの程度の口八丁など大した事ではないか。


ふう。すっきりと美味しかった。では下に降りようかな。




ロビーに待っていたのは八人の野郎どもと、二人のおばさん。そして一人の太く若い女だった。


「魔王様、今回私の呼びかけに応じた楼主がこちらです。各々が在籍するローランド人のうち帰国を希望する者を連れてきております」


うん。手回しがいいね。


「お前達。今日はよく来てくれた。ローランドの女を買い占めて値上げを狙ってる奴らもいるようだが、ここに来てくれたお前達は賢明な判断をした。では約束をしようか。俺の質問に正直に答えること。そうすれば仕入れ値の倍額で買い取ってやる。年季が長く残っている者は応相談だ。さあ、どうする?」


「あ、あがっうう……」

「はいっぽぼぉっ……」

「わか、たばぁおぉご……」

「くっ、ごろっせぉ……」


うんうん。素直な奴ばかりで助かるね。だが……一人素直じゃない奴がいるなぁ?


「そこのお前。売る気はないってことか? なら、何しに来た?」


太く若い女には契約魔法がかかってない。


「おふざけになっちゃあいけませんよ。質問に答えるぐらい吝かじゃあありませんともえ。ただねぇ? それを人前なんぞでやられた日にぁ! うら若き乙女の秘密が明るみに出てしまうじゃあありませんかえ? ローランドの魔王様はそこら辺をどうお考えで?」


へー。商売敵に知られちゃあヤバいような質問をされては困るわけね。用心深いね。この若さで偉いね。


「質問はローランド人に関することだけだ。なんならお前だけ別室でも構わん。とりあえず話は後だ。先にこっちを済ませるからな。それまでにどうするか決めておけ。待てないなら帰っても構わんぞ?」


「へぇえ。小揺るぎもないんですねえ。さすがは魔王と渾名されるだけありますえ。それならば待つまでもありませんえ。約束いたしましょっええっおぼぉお……ふぅ……」


手間をかけさせやがったから少し魔力を増やしてやった。


「じゃあ一列に並べ。お前は最後な。」


「ええ。そうさせていただきますえ」


では、面倒だが開始だ。ロビーを占領しちゃってごめんね。なるべく早く終わらせるからね。


「では、私から。昨日もお伝えした通り、うちの店からは三人。こちらが名簿、こちらが買い取り時の覚書。こちらが原本、こちらがその写しです。写しは差し上げるつもりです。どうぞお改めを」


おおー。これは用意がいいな。買い取り日時や値段、それに相手先。身体データに特徴、おまけに似顔絵や年季明けの期日まで。

昨日の話によると、このおっさん。望海の塔の楼主のとこにいるのは三人。仕入れ値は合わせて九百万ナラー。それを一千万ナラーで売ることになっているが……書類とも一致する。まあ契約魔法で吐かせたんだから当たり前だけど。


「問題なし。ほれ、一千万ナラーだ。受け取れ。それからこれは俺の気持ちだ。これからも役に立ってくれよ?」


「ははぁ! ありがとうございます! と、ところでこの兜は……?」


「名前ぐらい知ってるだろ? ムラサキメタリックの兜さ。エチゴヤの深紫ディパープルが落としたのさ。これを被ればどんな魔法をくらっても頭は無傷だぜ?」


「エ、エチゴヤの……ディ……ははぁー! ありがたく頂戴いたします!」


もちろんこの褒美は示威行為も兼ねている。テンモカにいたらエチゴヤとかち合うことなんかないだろ? でもその戦闘力ぐらいは聞いてるはずだ。深紫やムラサキメタリックの恐ろしさもな。それを容易く狩ってみせただけでなく、気軽に下賜する私。デモンストレーションとしては最高だ。


「もちろん魔王手ずから貰ったと言っていいからな。」


「ははぁ! 何から何までお気遣いありがとうございます!」


効果は抜群だ。


「じゃあアレクとカムイ。悪いけどこいつと外に出て、この名簿の三人を別にしておいてくれる?」


「ええ。いいわよ。あなた達もいっしゃい。同じ故郷を持つ者同士、再会できるかも知れないわ。」


アレクは昨日保護した妖禁楼の女を連れて外に出てくれた。解毒した女はまだ起きてないらしい。


「ガウガウ」


カムイはボディーガード。若い女がぞろぞろしてたら絶対ちょっかい出してくる奴がいるからな。




さあて。この調子でさくさく終わらせるとしようかな。

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