1414話 蔓喰の内輪揉め

杯らしき器に酒が注がれていく。


「おらぁ、飲めや!」


「ああ。で、これは?」


「特に意味ぁねぇよ。ただのこだわりだぁ。飲め。今日会ったばかりの俺にそれだけの金ぇ出すバカなお前に敬意を表して……乾杯だぁ!」


「バカはお前だよ……乾杯。」


「ピュンピュイ」


くああぁー! これ強い! なんだこれ!? 喉が焼けちまうぞ!


「おい……なんだこの酒は……」


「どうよ? うめぇだろ? 俺の大好物の『ホリールカ・フラム』ってんだ!」


「ピュイピュイ」


コーちゃんは気に入ったのね……


「まあいいや。そんじゃあ面白いものを見せてやろうか。それから金貸してやるよ。」


「面白いもん?」


『解呪』


はい終わり。


「なっ!? い、今のは……ま、まさか!? あいつの『誓約』を!?」


「誓約なんて大仰な名前つけてるけどさ。結局はただの契約魔法だな。ちっと魔力を強めに込めれば解呪できたぞ。」


天王の洗脳魔法を解呪した時ほども必要なかったけど。


「マジかよ……これがローランドの魔王か……」


ふふふ。すっきり。


「じゃあ今度はこっちの約束だな。とりあえず二千万ナラー貸してやるよ。利子をつけない代わりにローランド人を助けるのに全面的に協力してもらうぜ? 後は弱った女を見たら助けてやれ。いいな?」


「おお、いいぜっぐぁごぉぉっぐふっ……こ、これがお前の契約魔法か……」


「どうよ。効くだろ。お前はもう逃げられないぜ。さっきの奴のしょぼい契約魔法とは訳が違うからな。」


「ふうぅー……そうだな。桁違いだなぁ……それより聞かせろよ。なぜローランドもんを救おうとする? お前は騎士なんかぁ?」


うーん、返答に困る質問だな……


「俺は冒険者だ。ローランド人を救うのは俺が気に入らないから、かな。」


「気に入らないだぁ? 何がかぁ?」


「ローランド王国が舐められてることがだな。うちの国民なんていくら拐っても問題ないと思ってんだろ? 舐めた話だよなぁ?」


主にそれをやらかしてんのはエチゴヤか。まあ、あいつらを引き入れたローランド側……ヤコビニどもの罪も大きいよな。そりゃ国がまとまってないってことで舐められてもおかしくないけどさ……


「王族でも……騎士ですらねぇくせになぁ……魔王って呼ばれるだけあって意味が分かんねぇぜ……それとも、名前の通り実は王族だったりするのか?」


「そんなわけないだろ。それはともかく、お前はもう引き返せない。せいぜい協力してもらうぜ?」


「おお……それにしてもビレイドの顔を見るのが楽しみだぜ。あいつの自慢の誓約をあっさり解いちまったんだしよぉ。くくっ……」


「俺としても一瞬同類かと思ったけどあいつは違うな。魔力がしょぼいわ。たぶん才能だけでやってんじゃないのか?」


「知るかよ。そんなことより飲むぜ!」


「おう。」


「ピュンピュイ」


いかんな。アレクが待ってるってのに楽しくなってきてしまったぞ。こんな最低な奴なのに。私ってもしかして闇ギルドの奴と相性がいいのか?

思えばこいつよりよっぽど極悪人のラグナを助けたりしてるもんな。今ではラグナには幸せになって欲しいとすら思ってるし。それはカドーデラやシーカンバーの奴らも一緒だよな。うーん、私ってどこまでお人好しなんだ?


「兄貴! ここにいやしたか!」

「ゴッゾあにぃ! ヤバいですぜ!」

「ビレイドんとこの奴らが!」


なんだ? チンピラどもが入ってきた。


「あぁん? ビレイドがどうしたぁ?」


「兄貴が仕切ってる賭場で暴れてんですよ! イカサマだって! ヒオデとルシテオが半殺しにされちまったんで!」


「分かった。行くぜぇ。悪いな魔王。例の件、何でも言ってくれや。また飲もうぜぇ?」


「ああ、またな。」


子分達は私を「なんだこいつ?」と言いたそうな目で見ているが、今はそれどころじゃないんだろ? 身内同士で何やってんだろうねぇ? 闇ギルドってやだねー。あ、あいつ金を受け取らずに行きやがった。まあ幹部会とやらまでまだ時間があるんだろ。


「よし、この一杯を飲んだら帰ろうか。ね、コーちゃん。」


「ピュイピュイ」


ツマミしか食べてないからな。少し空腹なんだよね。今夜の夕食は何かなー。アレクもお腹を空かせて待ってるかな。宿に帰ーえろ。

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