1408話 崩れゆく妖禁楼

話を聞いてみると何てことはない。蔓喰がこの街を仕切っているのは間違いなく、ただ単にこいつらが蔓喰を嫌ってるってだけだった。いや、正確にはこいつらの店が、か。


そしてムカつくことに、ローランドの女の方がここでは人気らしい。希少価値的な理由か……

それなのに東のメリケインや南の大陸出身の女はいないそうだ。南の大陸の女は色が黒いため人気がないからだそうだが、メリケインの女がいない理由は天王がそれを許さないからだと……

つまり、ローランド王国は……舐められている……

天王ジュダはメリケインからの流れ者だと聞いた。だから故郷への想いからメリケインの女を保護していても不思議はないだろう。

で、ローランドの女なら好き放題やっても外交問題も何も起きないと考えてるってわけだな……やはりあの野郎には思い知らせてやる必要があるな。いつ天都イカルガに行くかは分からないが、せいぜい首を洗って待ってやがれ……


「ここか?」


「そ、そうです!」


妖禁楼とやらに着いた。『水球』

とりあえず入口どーん!


「な、なんてことを……」


「いいからそこら辺に隠れてな。後でまた話を聞かせてもらうからさ。」


「は、はい!」


ちなみにさっきの三人は先程の場所に放置している。拷問するまでもなくペラペラ喋ってくれたから優しく寝かせてある。


「な、なんだぁ?」

「殴りこみか?」


従業員かな? 男が二人ほど出てきた。


「おい、二分待ってやる。この店にいるローランド出身の女を全員連れてこい。そしたらここを更地にするのは勘弁してやる。」


「あぁん? 何ぬかしとんのんじゃあこのガキぁ!」

「おんどれいちびっとったらぶちくらわすぞぁ!?」


何言ってんだ?

会話は不可能だということが分かった。


『水球』


「ぬべっ」「ほごっ」


『ローランド出身の女がいたら出てこい! 助けてやるぞ!』


拡声を使ってやった。ついでだから他の店の女も助けてやろうかね。いるのかな?


「なんじゃこらぁ!」

「カチコミかぁ!」

「やってやんぞおらぁ!」


先に男が出てきた。とりあえずぶっ飛ばしておこう。『風球』


「がっ」

「ぎっ」

「ぐっ」


入口をもう少し大きくしておこうかな。『水球』


次々と出てくるな。どれがローランド人なのかさっぱり分からない。


「おい。ローランド出身で、なおかつ帰りたいと思ってる女は俺の後ろに来い!」


おっ、いるねぇ。二人ほど私の後に来た。


「この店にいるローランド人は全部で三人か?」


「そ、そうです……」

「助けてくれるんですか……」


「ああ。とりあえずテンモカにいる拐われたローランド人は全員助ける予定だ。ちなみにお前ら年季は?」


「私はあと半年……」

「私はとっくに明けてるのに……」


なるほどね。やっぱりこの店はギルティだな。


『今からこの店! 妖禁楼だったか! ぶち壊すからな! 死にたくなけりゃあ外に出ておけ! 二分だけ待ってやる!』


本当は燃やした方が早いんだが、無関係の民衆を不安にさせるのも可哀想だからな。壊すだけにしておいてやろう。


おっ、方々からガラの悪そうなのが集まってきたな? ここの店長は出てこないのか? この場合は店長って言うのか? いや、確か楼主って言うんだったか。


「えらく調子ん乗ったガキがいるじゃねぇか」

「好いた女でも助けに来たんかぁ?」

「あんまり調子こいてっと行方不明になっちまうぜ?」


「お前らはこの店のモンか?」


「いいや違うなぁ」

「だぁがここで勝手されたんじゃあ黙っておれんわなぁ?」

「娼館関係の争いに騎士団は出てこねぇけどよぉ? 代わりに怖ぁーいお兄さんがぞろぞろ出てくるぜぇ?」


「この店のモンじゃないなら黙って見てな。無関係のモンに危害を加える気はないからな。」


「てめぇ……正気か? まさか闇ギルドの蔓喰を知らねぇのか……」

「これだけの街の夜を仕切ってる闇ギルドだぞ……知らねぇぞ?」

「ちっとぁ腕に覚えがあるんだろうけどよ……」


「この店は蔓喰とは関係ないんだろ? それはそうと、そろそろ二分だ。少し離れてた方がいいぞ。」


瓦礫が散乱するからね。おっと、確認しておかないといけないことがある……


「女は全員外に出てるか?」


関係者は巻き込んでもいいが従業員である女まで巻き込む気はないからな。


「は、はい! 全員います!」


それなら問題ないな。では更地化作業開始だ。ご安全に!


浮身うきみ


ほう。さすがに軽くかけただけだと屋台骨に影響なしか。ではこのまま……


『水球』


解体工事の巨大鉄球並みの水球で一気にぶち壊す。すると瓦礫は空に浮いていく。とっても安全な解体工事だな。


「て、てめぇ!」

「や、やりやがったな!?」

「もう遅いからよぉ!」


「その話は後でな。」


『水球』


このまま続けよう。もう二、三発も撃てば終わりだな。木造建築って横からの衝撃に弱いのかな?


「なっ! なんだこれは!」


どこからともなく小太りのおっさんが現れた。こいつが楼主かな?


「もうすぐ終わるから黙って待ってろ。」


「なっ、きっ、きさま何者だ! ワシの店に何をやってる!」


正解。こいつが楼主か。


『水壁』


「話は後で聞く。じっくりとな? それまでそこで待ってろ。」


「がごぼがぁばぼっ」


一分ぐらいなら息しなくてもいいだろ?


さて、作業再開だ。飛び散る木片、舞い上がる埃。でも周囲には影響なし。ぜーんぶ上に行ってるからね。あ、人間が交じってる。邪魔だなぁ。生きた人間がいると魔力庫に収納できないんだからさ。


『風操』


歯に挟まったカスを抜き取るように邪魔な人間を避けておく。さすがに現時点で殺す気なんかないからね。


よし最後のデカい柱が抜けた。終ーわり。後はまとめて収納して……と。




よし、ジャスト一分。体感なのにジャストとはこれいかに。


『水壁解除』


さあ、お喋りしようか。

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