1407話 娼婦の希望

さっぱり事情が分からないアレクサンドリーネはやれやれといった表情を隠しもしてなかった。


「私はローランド貴族。我が国の者が困っていたら助けないはずがないわ。まずは言ってみなさい。何がしたいの?」


「悪ぃ、私が話すよ……」

「ナディ……」

「しっかりしなよ?」


「助けて欲しいひとがいるんだ……」




ナデージュの言葉を要約すると……

彼女達が拐われてきたばかりの頃、よく面倒を見てくれた先輩娼婦がいる。かなりの売れっ子で何度もお大尽から身請けの話があったにもかかわらず、全てを断り続けていた。そして今ではその美貌にも翳りが出て、一流店から二流店へと売られてしまった。

しかも、その店で悪い病気にかかったらしく床に伏せる日々。テンモカで客をとれない娼婦などゴミ以下の存在であり、このままではもっと女の扱いが酷い三流店に売られる日も遠くない……


「それでポリーヌ姐さんは言うんだよ……ローランドに帰りたい……ムリーマに沈む夕日が見たいって……」


「それならこの際だし、あなた達四人で一緒に帰ったら?」


「ふざけんな! 誰がローランドなんかに帰るかよ! 私はここで! テンモカでのし上がるって決めてんだ! それに……」


「それに?」


「私は拐われたんじゃない……親に売られたんだよ! どの面下げて帰れるもんか!」


「あらそう。大変だったわね。」


「それを……魔王か何だか知らないけど……偉そうに助けてやるだぁ!? 私らぁここで体ぁ張って生きてんだよ! もう松の位だって見えてんだ! それを……舐めんじゃないよ!」


アレクサンドリーネの顔色に変化はない。


「で?」


「この……苦労知らずの貴族女が……」

「ナディ。冷静に話せないんなら出ていってもらうよ?」

「ポリーヌ姐さんのためなんだよ?」


「話を進めるわよ。悪い病気って言ったわね? それ本当に病気なのかしら?」


三人の表情に変化は見えない。


「ちっ、分かってんだよ! どうせ姐さんの人気を妬んだどっかのクソ女がやったに決まってる!」

「証拠はないわ。ポリーヌ姐さんはそりゃあすごい人気だったから……」

「稼ぎだってすごいから優秀な治癒魔法使いにだってしっかり診てもらったのよ。でも原因不明……解毒の魔法だって効かなかったの……」


「なるほどね。どうやら彼女は幸運なようね。後で案内しなさい。たぶんカースの『解毒』なら治るわ。毒を盛られたのだとしたらね?」


エルフの禁術・毒沼による神殺しの猛毒、死汚危神ダイオキシンですら解毒できるようになったカースだ。何かの病気でない限り解毒は可能だろう。


「ほ、ほんとか! ほんとに!?」

「期待……していいの!?」

「ありがとう、ありがとう! それが本物の貴族なんだな……」


「期待しすぎないでよ? あくまで毒ならばの話なんだから。何かの病気なら私もカースもお手上げよ。その手の知識なんか全然ないんだから。」


アレクサンドリーネやカースのように魔力が高い者は病気にかからない。ゆえにそういった方面の知識を持っている貴族はまれである。


「あ、ああ……それでもありがとう……貴族なんていけ好かない奴らばかりだと思ってたけど……」

「あなたみたいな人もいるんだね……」

「ここは私らの奢りだから! どんどん飲み食いしてよね!」


「ピュイピュイ」


ようやくコーネリアスはお代わりを貰えそうだ。









あー腹いっぱい。結局あれから私も食べてしまった……

アレクは何やってんだろうな。寄ってみようかな。カムイ、もういいよな? 腹いっぱいだよな?


「ガウガウ」


この辺にしといてやる? 生意気なやつめ。よし、戻ろうか。えーとどっちだ?


「ガウガウ」


あ、そっちね……結構入り組んだ細い道を歩いたもんなぁ。こんな路地裏にも旨い店はあるもんだな。ワイルドチキンの炭火焼きとかさ。


ん? なんだ。ドタバタしてるな?


「おらぁ! 逃がすかぁ!」

「そう簡単に足抜けできると思うんじゃねぇぞ!」

「おら立てや! 店ん戻ったらきっちり教育してやっからよぉ!」


男三人に殴る蹴るされてる女が一人。


「おい、邪魔だ。どけ。」


狭い道なんだからさ。ふさぐんじゃないよ。


「あぁん!? なんじゃこらぁ!」

「なんか文句でもあんのかおぉ?」

「なめとったらぶち殺すぞ!」


「おね、が、助け、てぇ!」


「うるせんだよ!」

「黙っとれ!」

「お仕置きが足りねぇな!」


あーあ。また殴られてる。話から察するにどこかの店で働いてる女で逃げ出したってとこか。そんな状況なら私が手を出すこともないな。ただし……


「お前、出身はどこだ?」


「ローランドの! ドナハマナ!」


なるほど。納得。その辺の事情もあって逃げ出したってことだな。通知が行き届いているんだねぇ。


「よし、助けてやる。で、お前らは蔓喰のモンか?」


「はぁ? 蔓喰だぁ?」

「そんなハッタリでこの場を逃げようってもそうはいかんで?」

「蔓喰って言やぁビビるとでも思ってんのかぁ!」


だろうね。通知を無視して女を囲い込んだってとこだろうか?


「お前らが拐ったわけではないにしろお前らの店はローランドの民を不当に働かせてるようだな。おい、そうだな?」


「そ、そう! 私、もう、年季明けてるのに!」


ほほう。それはギルティだな。


「店の名前は?」


妖禁楼ようきんろう!」


「オッケー。」『風球』


「あぶっ」「ばはっ」「げっほ」


殺してはいないけどね。で『水壁』

いつもの拷問タイムだ。


「さて、起きろよ。お前らは店のモンだな? 蔓喰から通知が来てただろ? せっかくローランドの女がいたら倍額で売る好機だったのになぁ。残念だがお前らの店は更地だな。」


「てめえ……」

「どこのモンよぉ……」

「テンモカじゃあエチゴヤだろうが蔓喰だろうが好き勝手にゃあさせねぇぞ……」


なんだそれ? 蔓喰が仕切ってんじゃないの?

面倒だがこれも人助けだからな。もう少しじっくり話を聞いてみるか……

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