1409話 妖禁楼の女とローランドの女

げほげほと咳き込むおっさん。


「さぁて。落とし前の時間だ。お前、ローランドの女を年季が明けたにもかかわらず解放しなかったな?」


「し、知らん! どこにも行き場がない女を助けてやったんだ! その恩も返さないうちに逃げ出そうなんてワシは許さん!」


拐われて、売られて来たんだから行き場がないに決まってんだろ……少女が異国で一人……そこにつけ込んで……

あんまりだよな。やはりギルティ。


「おい、そこのお前。年季がもう半年残ってるって言ったな? それは金額にしていくらだ?」


「えっ!? あ、その、六百万ナラー……です……」


「よし。おっさんこれ見ろ。」


取り出したのは小判で六十枚。


「あっ、なっ!?」


「ここに六百万ナラーある。これであの女は自由だ。文句ないな?」


「あ……あぁ……」


悔しそうにしてんじゃないよ。儲かっただろうが。今の六百万と半年後の六百万では価値が違うんだぞ?


「で、そっちのお前とお前。年季が明けてからどれぐらい経った?」


「わ、私は一年と四ヶ月!」

「私は三年よ……」


なるほどね……やはり許せんな。


「よし、それなら超過分を払ってもらおうか。えーっと合わせて五千二百万ナラーだから……あれこれ含めてキリよく……よし! 一億ナラーでいいぞ。払え。」


「ふ、ふ、ふざけるな! 何が一億ナラーだ! ワシの店を壊しておいて! むしろ貴様がワシに一億ナラー払え!」


「だめだな。ローランド人を不当に働かせた以上、お前はもう終わりだ。さて、払うか死ぬか今すぐ答えろ。俺の魔力は見た通りだ。何ならここにいる全員でかかってきてもいいぜ?」


店の中に金庫があったのかも知れないが、それはすでに私の魔力庫の中。だいたいこいつのような悪党が財産を律儀に金庫なんかに入れてるもんかよ。


「ぐっ、ぐうっ、ぐうぅ……」


これは……とりあえずぐうの音は出てるって感じなのか?


「さあ、どうす、ん?」


背中に石がぶつけられた。もちろん自動防御を張ってるから当たることなどないが。


「同郷の女を救っていい気分なんだろうけどさ……アタシらここしか行くとこがないんだよ! どうしてくれるんだい!」


おお。そこらの男よりよほどいい度胸してるな。気合いが違うね。


「行くところがない? 嘘だな。あんたほどの美人ならどこの街でも、店でも通用するはずだ。嘘はよくない。なんならローランド王国の王都に行ってみるか? テンモカどころかイカルガより何十倍も大きい街だぞ?」


まあ天都イカルガってどの程度の街なのか知らないけどさ。


「え……わ、私が? そ、そんなお世辞にのるもんかい!」


乗りかけたくせに。


それはそうと……『狙撃』


「いぎゃああああ!」


「誰が逃げていいって言ったかよ。一億払うか死ぬか、どっちにするんだ?」


「いでぁぁあ! 払う! 払うからぁ!」


「よし。約束だぜ? 一億ナラー払うならお前の命は助けてやる。」


「わ、わかっとわぁっぁああっ!?」


「よし。出せ。持ってるんだろ?」


「あ、ああぁぁぁ……わ、ワシの! ワシの金がぁぁぁーー!」


そんなこと言いつつもおっさんは魔力庫から白金大判を一枚取り出した。


「毎度あり。この街の騎士団に届け出てもいいが、ろくな結果にならないだろうな。せいぜい助かった命と残った金を大事にした方がいいぜ?」


この分ならもう二、三枚持ってそうだな。まあこのぐらいで勘弁してやるか。


「よし、待たせたな。それであんたはどうしたい? ローランドに行って一旗あげてみるか?」


「そ、そんな、アタシなんかが……」


「別にどこだっていいさ。あんたの魅力を放っておく男も店もそうそういないさ。どこに行っても活躍できるだろうぜ?」


「ほ、ほんとうかい? じゃ、じゃあアンタもアタシの「カース、何やってるの?」ことを……」


おお! マイハニー!


「やあアレク。よくここが分かったね。」


こんな裏通りなのに。


「コーちゃんが案内してくれたのよ。それで何やってたの?」


「うん、ローランドの人間を三人ほど見つけてね。助けたところ。アレクは何やってたの?」


「ちょっとお茶してそれ「ちょっと待てや!」から……何か?」


あ、忘れてた。この女と話してる最中だったか。


「アンタ……その男の何なのさ……!」


「私? 私はカースの妻になる女よ? あなたは?」


ぐふふ……妻になる女! 何度聞いてもいい響きだなぁ。ふふ……顔がニヤけてしまうぜ。


「わ、私は……私はそいつに口説かれてる最中なんだよ! いくら妻になる女だからって邪魔すんな!」


誤解がすごいな……なぜそうなった?


「カース、そうなの?」


「誤解があるね。でも大きく間違ってはないかな。人生という道について口で説いていたところだから。」


「あらそう。それじゃあ私達は先に宿に戻ってるわね。カムイも一緒に帰らない?」


「ガウガウ」


腹いっぱいになったカムイはそろそろ風呂に入りたいんだよな。マジでこいつ野生の誇りを忘れてんな。

あれ? アレクと一緒に歩いてるのって……さっき絡んできた女達か? もしかして仲良くなったの? 不思議なもんだなぁ。何があったのやら。


「よし、場所を変えるか。ローランドの者とローランドに行きたい者は付いて来い。」


「ちょ、ちょっと! 私のことは放っておくつもりかい!」


「いいから来いって。話したいんならな。」


「一緒に来いって……わ、分かったわよ……アンタがそんなに言うなら……」


なんかこの女さっきから勘違いが酷いんだよな……別にいいけど。

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