1405話 カースとカムイの肉行脚
カムイと歩くこと十分少々。おっ、いい匂いが漂ってきた。
「へいへーい! テンモカ名物オークの串焼きだよ! おっ、にいちゃんどうだい?」
へぇ。名物なのか。
「五本もらおうか。」
「はいよぉ! 五本で五百万ナラーねぇ!」
「あー、おつりあるか?」
そう言って私は魔力庫から取り出す。
「はいよ! 千ナラーでおつりは……はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!? は、は、白金大判!? い、一億ならぁぁぁぁぁぁーーーー!?」
「ああ。で、おつりあるのか?」
「あっ、ばっ、あるわけねぇだろ! おまっ、に、にいちゃんどんだけ金持ちなんだよぉぉぉぉーーーー!」
だって五百万ナラーって言うから。ちょっと乗ってみただけだ。
「冗談だよ。ほれ、五百ナラーな。」
「あ、ああ、ま、毎度……」
一本だけ手で受け取り、残りは浮身でカムイの元へ。
「ガウガウ」
一口で四本とも食いやがった……そして器用に串だけ吐き出す……こいつも芸達者だよなぁ。あ、旨い。ちょっと脂っこいけど悪くないな。
「うまかったよ。ごちそうさん。」
「ガウガウ」
「あ、ああ、また来てくれよな……」
よし次!
「ガウガウ」
今度はあっち? まったくお前の鼻は鋭いな。
なんだ。今度は屋台じゃなくて店かよ。えらい高そうだな。店名は……炎の鉄板バーニング?
まいっか。入ってみよう。
「へいらっしゃい!」
高そうな店なのに……
「一人と一匹だけどいいかい?」
「いいですぜ! 今の時間は空いてるんでぇ!」
さて、ここは何屋かな? 肉が焼けるいい匂いはしてるんだが……おっ、目の前にあるのは……
「ここのおすすめは何だい?」
「そりゃあもう! この巨大鉄板で焼くステーキですぜ! 迷宮産ミノタウロスのいいとこ使ってますぜ!」
あれ? そういえばカゲキョーではミノタウロスと出会わなかったな……
「ミノタウロスってどこの迷宮にいるの?」
「そりゃあもちろんシューホー大魔洞に決まってますぜ! あそこで獲れるミノタウロス肉ときたら最高ですぜ!」
「へー。じゃあそれを二人前頼むよ。」
「へいがってんでぇ!」
接客が……落ち着いてて高級感溢れる店構えと全然合ってない。いや、別にいいんだけどね。
ステーキか。私がただ肉を焼くのとは全然違うんだろうな。楽しみだ。あんまり腹はへってないけど、食い切れない時はカムイが食べるさ。な?
「ガウガウ」
「へいお待ちぃ! これで切りながら食ってくだせぇや!」
自分で切りながら食べるスタイルは確かに珍しいもんな。
付け合わせも何もなく、ただ焼かれた肉が出てくるだけのシンプルな料理。味はどうかな……
「ガウガウ」
熱い? でも旨いって? まだ欲しいのかよ……食うのが早すぎるんだよ! 一口で全部食いやがって! 仕方ないやつだなぁ……
「もう一枚頼むよ。こいつがかなり気に入ってようでね。」
「へいがってんでぇ!」
私も食べよう。どれどれ……
う、旨い……肉の味そのものはドラゴン肉やヒュドラ肉には及ばない……
でも……絶妙の焼き加減のためか、表面はカリっとしているのに噛むと中から肉汁がじゅわっと溢れてくる。その味ときたら最早甘くすらある……これが熟練の技なのか……
「へいお待ちぃ!」
「ガウガウ」
出てくるやいなやカムイは食らいついた。そんなに気に入ったのかよ……
あーでも旨いよなぁ。私はすでに腹がぱんぱんなのだが、それでも食べてしまう。
「いやぁ旨かったよ。来てよかった。たぶんまた来ると思う。いくらだい?」
「へい! 二十四万三千ナラーちょうだいしやす!」
おお……結構いくなぁ。さっきの屋台との落差が激しすぎる……まあ別に不満はないけどね。旨かったし。
「へい! 七千ナラーのお返しで! どうもありがとうございやした!」
「あ、そうだ。ちょっと聞きたいんだけど、素材を持ち込んだら焼いてくれる?」
「ようがすぜ! それなりの手間賃いただきやすがね! ちなみに何をお持ち込みで?」
「ワイバーン。ローランド王国はムリーマ山脈に生息するワイバーンの肉だよ。本当はドラゴン肉も焼いて欲しいんだけど解体してないもんでね。」
「わ、ワイバーン……ですかい!? あ、あの空を飛ぶ、冒険者泣かせの……それにドラゴンがどうとか……」
「ドラゴンはまあ置いておこう。今度ワイバーン肉を焼いてくれるかい? たぶん明日か明後日。」
ぜひアレクにも食べさせてあげたいからな。
「ちなみに……そのワイバーン肉ですが、どのぐらいお持ちなんで?」
「どっさりあるな。だが焼いて欲しいのはせいぜい七、八人前ってとこだな。」
コーちゃんもカムイも三人前ぐらい食うからな……
「ようがす……ただ……自信がありやせん……何人前か肉を分けていただけやせんか? それで本番までに練習しときてぇんです!」
「いいよ。それならこれぐらいあればいいかな。あ、ついでにこれも貸しておく。ここの鉄板よりいいかどうかは分からんけどな。」
「おお……こんな肉塊を……ありがとうごぜえやす! で、これはフライパン……ですか? 見ての通りうちでは使っておりやせんが……」
「よく見てみろ。ただのフライパンに見えるか?」
ふふふ。
「……この光沢……軽さ……軽さに反してこの硬さ……漂う気品……」
おお、やっぱ違いが分かるのか。さすがだな。
「ミスリルだよ。ローランド王国自慢のミスリルでフライパンを作ったんだ。良ければ使ってみてくれ。」
殺傷力ではムラサキメタリックやアイリックフェルムに全然及ばないけど、使いやすさでは断然ミスリルなんだよな。魔力とも相性がいいし。
「こ、これがミスリル……ありがとうごぜえやす! 必ず極上のワイバーンステーキを焼いてみせやす!」
「よし。では約束な。俺たちは明日か明後日また来る。だからそれまでアンタ以外にワイバーン肉もミスリルも触らせるなよ?」
「当たり前っでっさぉおぅ? い、今のって……」
「ただの契約魔法さ。破ってもアンタには何の損はない。じゃあ楽しみにしてるから。またな。」
「へ、へい! またのお越しをお待ちしておりやす!」
最近はあんまり使ってないけど、ミスリルフライパンが盗まれたら最悪だからな。本当は貸す気なんかなかったけど、この方が旨い肉が食えそうだもんなぁ。
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