1403話 甘味屋スイートサトー
「いらっしゃいましー!」
若々しい女性店員だ。
「この子達が入っても大丈夫?」
なんせ蛇と狼だからね。
「大丈夫ですよ! こちらへどうぞ!」
おお、個室があるのか。それはありがたい。
「ありがとう。これ、とっといて。」
「まあ! お兄さんたら太っ腹! ありがたくいただきますね!」
いい扱いをされると嬉しくなりチップを弾む。あるあるだな。
甘味屋だけあって若い女の子が多いな。それもなんだかデーハー系の。ミニスカートこそ穿いてないものの肩なんかがっつり出しちゃってまあ。ふふ、アレクに対して敵意の視線を向けてるな。こんな可愛い子が両脚を丸出ししてるのなんて見たことないだろ?
一転して落ち着いた個室。メニューはない。壁に書いてある品から注文するスタイルか。だが名前を見てもどんな料理かよく分からない。こんな時は……
「甘いのをお任せで四品ほど。飲み物は甘いのを一つ、甘くない紅茶系を一つ。それからあれば適当に酒を頼むよ。」
「はーい! かしこまりましたー!」
こんな時はお任せしておけばいいのだ。
「どんな料理なのか楽しみね!」
「だよね。ローランドで甘いものと言えばキラービーハニーのミルクセーキを思い出すけど、こっちではどうなんだろうね。」
さすがに蟠桃やペイチの実ほど旨くはないだろうけど、結構期待してるんだよね。宿の夕食以外ではあまりデザートって食べないからな。
「お待たせしましたー! アズキ
ほほう。
「僕はこれを食べてみるよ。」
蜜団子から……おお、みたらし団子に似た味だが、あれに蜂蜜味を足した感じか? うまいな。
「じゃあ私はこれ、飲んでみるわ。」
アレクはアズキ汁か。見た感じだとお汁粉、ぜんざいかな? 餅が入ってないのが寂しいが。
「美味しいわ。カースも飲んでみて。はい、あーん。」
お、おおぅ……もうアレクったら貴族らしくないことを……
「あ、あーん……」
アレクが口をつけたスプーン……
いやいや、今さら何を言ってんだ。昨日だって激しくあんなことこんなことしたのに!
あ、しまった……
「ごめん、もうひと匙くれる?」
スプーンに集中してて味がよく分からなかったぜ……
「もう、カースったら。はい、あーん。」
うん、やっぱりぜんざいだ。これは旨いな。少しねっとりとしているが甘すぎず、さらりと飲めてあまり喉が渇かないタイプだ。
「この柔らかい豆のことをアズキって言うのかしら? 不思議な食感ね。美味しいわ。」
「きっとそうだね。美味しいね!」
「ガウガウ」
カムイはサクラ餅を食べたのか。甘すぎるって? お前もう食うなよ……後で何か食わせてやるから少し待ってろ。
「ピュイピュイ」
アンコ餅が蜂蜜酒によく合うの? へー、意外だね。でもコーちゃんが言うなら間違いないね。
よし、今度は柿紅茶を飲んでみよう。アレクのパシモンジュースと何が違うんだろ?
へぇ……すっきりとした苦味だ。甘い団子を食べた後だと余計に旨いなぁ。
「カース、これも飲んでみて。優しい甘味を感じるわ。」
「それならアレクはこれ飲んでみてね。」
ドリンクの交換。貴族らしさのかけらもないね。つまりそれだけアレクが楽しんでいるという証拠だ。私も楽しい。
あ、美味しい。ぜんざいや団子の甘味とぶつからないタイプの甘さだ。この店ってレベル高いんだなぁ。
「これは驚いたわ。パシモンの実の外れの方を使ってるのね。食べるまで甘いか渋いか分からないと言われるパシモンの実をよく使い分けできたものね。すごいわ。」
「あー、言われてみれば。何度かウリエン兄上に貰ったことがあるよ。甘いやつはねっとりとした甘さが印象的だったなぁ。」
いずれにしてもこの店はレベルが高いということが分かった。女性客が多いのも納得だ。
「ふう。美味しかったね。出ようか。」
「ええ、ごちそうさま。いつもありがとう。」
「いやいや、これぐらい。いつもアレクと一緒にいられることに比べたら安すぎるぐらいだよ。」
神に感謝。と言いたいところだが、この場合はどの神に感謝するべきなんだろう。神が多すぎるんだもんなぁ。
「はいはーい! お会計三万二千五百ナラーです!」
へぇ。意外と安いな。クタナツなんかコーヒーが一杯で二十万イェンだもんな。てことはヒイズルでは甘味が充実してるってことか。ちょくちょく来よう。
さて、次はどこに行こうかな。
「ギャハハはぁ! あいつスウィートサトーから出てきやがったぜぇ!」
「ゲヒヒィ! 男のくせに甘味屋なんか入ってやがったんかぁ!?」
「ガキじゃねぇか! きっとお姉ちゃんと離れたくないっつってベタベタくっついてんだぜ!」
「あの女どこの店よ? 生意気な服着てるじゃない?」
「スレた空気がないわね? きっと新入りね!」
「じゃあ弟と最後の思い出作りってところかしら? テンモカの夜は甘くないものね?」
珍しいパターンだな。いつもは野郎だけのグループに絡まれるのに……今回は男女六人組か。まるでトリプルデートみたいだな。
「お、お姉ちゃんをバカにするなあー!」
まずは様子見といこうか。私が弟に見えるってこいつらの目は間違いなく節穴だな。身長だって私の方が五センチばかり高いってのに。
「ギャハハはぁー! お姉ちゃんをバカにするなーだってよ!」
「してねーよ! 俺らがバカにしてんのぁおめーだよぉ!」
「これからお姉ちゃんは辛ぁーい目に遭うんだぜぇ? それでもおめぇら家族のために年季が明けるまで辛抱するのさぁ! おっしゃ! そんなら俺が応援してやらぁ! ねぇちゃん店はどこよ?」
節穴すぎるな。これだけ光り輝く貴族オーラが出てんのに。気付かないもんかねぇ。
「あんたが行けるような店じゃないわねぇ……」
「この子……松の位を狙える逸材かもよぉ?」
「ちっ、手強そうな商売敵ね……」
なぜどいつもこいつもアレクを見てそう判断するんだよ……
もしかしてアレか?
この街にいる高レベル美女はみんな娼婦だからとか? 思い起こせば、さっきの店……明らかに平民が入れる値段じゃなかった。そしてデーハーな客層……
なるほど。きれいな女はだいたい娼婦ってのがテンモカあるあるなんだな。
つまり……アレクを娼婦呼ばわりしてるってことだな……
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